第26話 ギャル、干し肉と噴水の朝
庭の干し肉点検から始まる侯爵邸の朝。
顔こわ侯爵ライ様の几帳面さに、妹・ルチアの魔法、ギャル・カレンの自由すぎるノリが混ざり、すでに混沌の予感……!
噴水が爆発しようが、恋腹がうずこうが、コメディは止まりません。
笑いながらも「ギャップ萌え」必至の一話、ぜひ最後までどうぞ!
(※読んで面白かったら、ブックマークで応援いただけると作者の恋腹が治るかもしれません!)
侯爵邸の広い庭に、朝の光が差しこんでいた。
長い芝生の上には木製のテーブルが置かれ、そこに整然と並ぶのは干し肉と乾パン。まるで兵士たちの点呼のように、一列ごときっちり揃えられていた。
それをライが腕を組み、睨むようにチェックしている。
「兄様……干し肉にまで威圧感を与える必要、ありますの?」
椅子に腰かけてお菓子をかじっていたルチアが、冷ややかに言う。
ライは大真面目に答えた。
「管理も鍛錬の一部だ。非常時に素早く配布できることは、領民を守るうえで重要だからな」
「さすが若様。完璧でいらっしゃいますな」
執事のバルドはヒゲをひねりながら言葉こぼす。
その横で、侍女のミーナが首をかしげる。
「でも……これ、ただの非常食ですよね? なんだか軍隊の儀式みたいです」
ライは姿勢よく背筋を伸ばし、ひとつひとつの保存食を丁寧に布で包んでいく。
真面目すぎるその動きに――。
「うっわ、干し肉にまで真剣とか反則! 顔こわいのに几帳面すぎて逆に笑えるんだけど!」
庭に入ってきたカレンが、声を上げて吹き出した。
彼女は金髪に制服のへそ出しスタイルという異様な格好で、侯爵邸の芝生にラフに寝転がる。
「ここ芝生広いしさ! 絶対“映えピクニック”できるって! ね、ライも一緒にやろーよ!」
「……残念だが、まだ午前の作業が残っている」
ライは真顔で答える。
カレンは頬をふくらませて抗議した。
「ノリ悪っ! 今がギャップ萌えチャンスなのに~!」
そう言ってスマホを取り出すが――画面の上にはおなじみの文字。
「……また“圏外”!? ここって電波の墓場か何か!?」
カレンが頭を抱えて叫ぶと、ルチアはきょとんとして兄にささやいた。
「兄様、この“圏外”というのは、やっぱり異世界語ですのね。意味がまったく通じませんわ」
ミーナも小声で「魔道具の専門用語ですかね……?」と首をひねる。
ライは咳払いをして「気にするな」とだけ言った。
と、その時だった。
庭の中央にある噴水が――「ボンッ!」と勢いよく水柱を吹き上げた。
「きゃっ!」
ミーナが悲鳴を上げて飛び退く。
しかしライは眉ひとつ動かさず、水路を確認してバルブをひねり、あっという間に噴水を静めてしまった。
「水圧の調整不良だ。応急処置でしばらくは持つ」
落ち着いた声に、ルチアがふっと感心したようにつぶやく。
「……やっぱり兄様は頼りになりますわね」
「やばっ! 顔こわいのに超頼れる! ギャップ萌え爆誕じゃん!」
ずぶ濡れになったカレンは頬を赤くして叫ぶ。
その瞬間、ライの胸ポケットにしまわれた銀の懐中時計が「チリッ」と音を立て、針がググッと上がった。
同時に、ライの腹に「むずっ」と痛みが走る。
「ぐっ……」
ライがさりげなく腹を押さえると、小さな竜――モフドラがぴょんと飛び乗り、お腹の上で丸くなる。
プシューッと湯気が立ちのぼり、ほんのり温かい。
バルドはヒゲをくるりとひねり、冷静に一言。
「若様。噴水の水圧よりも……お腹の水圧調整のほうが重大でございますな」
庭に、くすくすと笑い声が広がった。
王都を一望できる高台の庭園。石造りのベンチに、ライとカレンは並んで腰かけていた。
昼の喧噪も、夜景のきらめきの前ではすっかり静まり返っている。
「ひゅー……。マジでやば。インスタ映えとか余裕で狙える景色だわ」
カレンが息をのむように見渡すと、ライは真剣な横顔のままブランケットを取り出した。
「夜は冷える。肩にかけておくといい」
「……え。顔こわいのにブランケット男子とか、ギャップ暴力じゃん!」
心臓が跳ねた。しかもそのタイミングで、モフドラがライのひざに飛び乗り、ぷしゅーっと湯気を吐き出す。
カレンは思わず両手で顔を隠した。
「顔こわい+ブランケット+小ドラゴン……コンボ決まったー! 尊死するー!」
ライの胸ポケットから「カチッ」と音がした。
銀の懐中時計の針が跳ね上がり、ライは小さくお腹を押さえる。
「……っ」
恋腹の発作だ。だがライは真剣に隠そうとする。
カレンはその様子に気づいていない。
むしろ何かを言おうと、拳を握りしめていた。
「ライ、あーし……その……」
勇気を振り絞った瞬間――。
ガシャーン!
すぐ横で皿が割れる音が響いた。振り向くと、侍女のミーナが赤い顔で慌てていた。
「すみません! 片付けを……でも、今のっていい雰囲気でした?」
「ちがーう! ちょっと空気読んでよー!」
カレンが叫び、ライは真面目な顔のまま続きを待とうとした。
そこへ小走りでルチアが現れる。
「兄様、門限で門が閉まりかけですわ! ……おや、まあまあ距離が近いですわね。進捗、良」
「“進捗”って言うなー!」
カレンが立ち上がって叫ぶ。
「なんでなんで!? 空気クラッシャーズ多すぎ!」
告白のチャンスは木っ端みじん。
だが、思わず二人は顔を見合わせ――。
「……笑うしかないな」
「ほんとそれ!」
夜空に笑い声が響いた。
帰り道、石段を降りながらライは未来を語った。
「街に灯りを増やせば、夜道の事故は減るだろう。安心は、人を強くする」
その横顔を見つめ、カレンは心の中で
「顔こわいけど、心はやさしすぎる」と呟いた。
そのとき――。
カレンのスマホがふいに光った。
画面に“アンテナ1本”が立つ。しかし、すぐに「圏外」に戻ってしまう。
「あれ……今、電波入った?」
「月の反射だろう。気にするな」
ライは取り合わなかったが、カレンの胸には小さな不安が芽生える。
けれど、彼女はそれ以上深追いせず、ブランケットの温もりに身を寄せた。
屋敷に戻ると、執事バルドがひげを撫でながら出迎えた。
「若様。恋もまた灯りと同じでございますな。強すぎれば目を焼き、弱すぎれば道を見失う……今宵はちょうどよい明るさでしたな」
ライは小さく笑い、うなずいた。
「……誠実に歩むだけだ。明日もな」
今回は「干し肉管理」と「ブランケット男子」で笑いとキュンが入り乱れる回でした。
ライ様は恋に不器用すぎて毎回腹痛を起こすのに、なぜか読者の胃袋までわしづかみにしてしまう不思議な魅力……。
カレンの告白(?)は見事にクラッシュしましたが、まだまだ二人の関係は続きます。
次回もぜひお楽しみに!
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