第25話 ギャル、怖い顔の料理神!?
ようこそ、グランツ侯爵家の大台所へ。
今日のライは剣も魔法も使わず――包丁一本で敵(※行軍パン)を粉砕しております。
「怖い顔でエプロン」という、ギャップ映え選手権なら世界ランク1位の姿に、ギャル・カレンも庶民もメロメロ……かどうかはご確認ください。
なお、このお話を気に入っていただけましたら、ブックマークで「胃袋陥落」させていただけると嬉しいです!感想もお待ちしております✨
王都・グランツ侯爵邸の大台所は、朝から湯気でもうもうとしていた。
長い調理台には干し野菜や燻製肉、硬い行軍パンまで並んでいる。
大鍋がぐらぐら煮立ち、木べらでかき混ぜる音が響いた。
その前に立つのは――ライオネル・フォン・グランツ。
名門侯爵家の跡取りであり、学園首席の完璧超人。
ただし“顔が怖い”以外は。
だが今のライは剣を振るうのでもなく、魔法を唱えるのでもない。
黒エプロンをきゅっと結び、真剣な顔で鍋をのぞき込んでいた。
「干し根菜はぬるま湯で戻す。刻んで油で炒めて……次は行軍パンを砕いて入れる」
無駄のない動作。包丁の刃がコンッと軽く音を立て、硬いパンは見事に粉々。
スープに溶かし込み、最後に香草をパラリ。
ふわっと広がる香りに、使用人たちが思わず「おいしそう……」とつぶやいた。
その瞬間、入口から金髪のギャル――カレンがひょっこり顔を出した。
「え、ライくん……エプロン……やば、ギャップえぐっ!」
両手で口を押さえ、ぱちぱちとまばたきする。
周りの使用人も
「確かに……」
「顔は怖いけど、手元は神業だ」
とざわついた。
ライは平然と答える。
「これは救貧院に持っていく保存食の試作だ。腹に優しく、長持ちするように」
カレンはスマホを取り出す――もちろん圏外。
だがシャッターを切る真似をして「はい映えー!」と満足げにポーズを取った。
その横で、ライの銀の懐中時計がカチリと音を立てる。
針がわずかに上がり、腹がムズッ……。
モフドラが「ぷしゅー」と湯気を吹きながらライのお腹に張りついた。
「火事!?」
「違う、湯気だ!」
大台所にまた勘違いの声が飛ぶ。
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昼下がり。
侯爵邸の前庭にテーブルが並べられ、無料の試食会が始まった。
並んだメニューは三つ。
・ほろほろパン粥(保存パンのスープ仕立て)
・干し野菜の甘酢マリネ
・塩漬け肉のほぐし
庶民たちが列を作る中、カレンが器を手に取る。
「ちょっと待った! 名前がダサすぎ! “パン粥”とかウケないから」
「……じゃあ、どう呼ぶんだ」ライが首をかしげる。
カレンは人差し指を天に突き上げた。
「ギルティーブレッド☆ はい、決まり!」
ミーナが吹き出す。
「急に強そうになりました!」
バルドは眉をひそめる。
「胃袋を責める罪深き名前……ある意味正しいやもしれませぬ」
彩りのために干し果物をふちに飾りつけるカレン。
「ね、見た目大事でしょ? 食べる前から“おいしそう”って思わせるのが映え!」
ライは素直にうなずく。
「視覚による初期判断。理にかなっているな」
こうして庶民たちに配られていく。
カレンは「はいギルティー一丁!」と元気に声をかけ、ミーナは必死に皿を並べ、
バルドはチェックをして回る。
「お盆、ふき忘れておりますぞ」
「バルドさん厳しい!」ミーナが青ざめる。
行列の人々はスプーンを口に運び、顔をほころばせた。
「やわらかい!」
「これならお年寄りも食べられる」
「腹にしみるなあ」
庶民の声に、ライは小さくほっとした。
カレンは横目でライを見て、ぽそり。
「ライくんの包丁さばき……職人すぎ。……ギャップ萌えだわ」
懐中時計の針がググッと跳ねる。
ライは冷や汗をにじませ、モフドラは「ぷしゅー」と全力で湯気を増量した。
子どもたちがモフドラに群がる。
「わー! あったかい! ドラちゃん、湯たんぽみたい!」
モフドラ「きゅるる」――まんざらでもない顔だった。
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そのとき――。
走り回っていた子どもが鍋にぶつかり、鍋がグラッと揺れた。
「危ない!」
ライは瞬時に障壁魔法を展開。透明な壁が鍋を支え、一滴もこぼれない。
子どもも無傷で、庶民たちから拍手が起きる。
「さすが侯爵家の若様だ!」
「怖い顔でも、やっぱヒーローだな」
カレンも思わず赤くなり、手を胸に当てる。
「……やば。顔こわいのに、マジかっこいい」
懐中時計の針がカチリ。
ライの腹はキリキリと痛み、モフドラが慌ててぺたりと張りつく。
ライは深呼吸し、カレンに小さな器を差し出した。
「……これを、君にも食べてもらいたい」
カレンはスプーンを手に取り、ひと口。
「……うわ、優勝。ライくん……料理神」
思わず笑みがこぼれ、顔がほんのり赤くなる。
ライは痛みに耐えながらも、真っ直ぐ答えた。
「君が喜ぶなら……それだけで、報われる」
カレンは一瞬ドキリとし、しかしすぐに笑顔で手を振った。
「でもさ、独り占めしちゃダメ! 映えはシェアで完成すんの!」
ライは小さくうなずく。
「……そうだな。君の決断を尊重する」
こうして鍋はすべて空っぽになり、庶民の笑顔で前庭がいっぱいになった。
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カレンは両手を腰に当て、得意げに叫んだ。
「今日の学び! 保存食でも――ハートは盛れる☆」
ライは静かに付け加える。
「食べ物は栄養だけじゃない。見た目も、香りも、物語も……全部が力になる」
バルドはひげをなでながら総括した。
「本日の結論。若様の顔は硬派、料理は軟派、心は温派。……三拍子そろえば、胃袋は陥落ですな」
「やかましい」
ライは小さくため息をついたが、どこか満足げでもあった。
侯爵邸の庭は、すっかり食事の余韻に包まれていた。
長机の上には空になった鍋と皿だけが残り、庶民たちはお腹をさすりながら帰っていく。
「ふぅ……記録をまとめておこう」
ライは革表紙のノートを取り出し、料理の分量や改良点をびっしりと書き込んでいた。
真剣な横顔は戦場の司令官そのもの。
「ちょ、なにそれ!? 料理のレポート!?」
カレンは目を丸くする。
ノートをのぞき込むと、「塩ひとつまみ=指二本でつかんだ分量」「火加減=ろうそく三本分の明るさ」など、異様に細かい図解が並んでいた。
「……ガチすぎて怖っ! でも……やば、尊い……!」
カレンはスマホを取り出すが、やはり「圏外」。
仕方なく自分のチークでほっぺにハートを描き、「映えメモとツーショット!」とライのノートを抱きしめた。
ライは一瞬止まった後、真顔で言う。
「返すときはページを折らないように頼む」
「ノリツッコミないんかーい!」
庭に笑い声が響く。
そこへ侍女のミーナが片付けの盆を抱えて通りかかり、こっそりつぶやいた。
「……こういう細かすぎるところを“ギャップ”と呼ぶのでしょうか」
カレンは振り返り、力強くうなずく。
「そう! それが一番映えるとこなの!」
バルドはヒゲを撫で、くすりと笑った。
「若様。顔の威圧に、几帳面のスパイス。これは……庶民泣かせのレシピでございますな」
ライは首をかしげながらも、懐中時計をそっと押さえた。
針はじわりと跳ね上がり、お腹がムズムズとうずき始めていた。
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片付けが進む中、ふいに空気が変わった。
カレンがライのエプロン姿をじっと見つめ、頬を赤らめる。
(顔こわいのに……ほんと、やばイケメン。……え、これ恋ってやつ?)
ライも彼女の視線に気づき、銀の懐中時計の針がピクリと揺れた。
お腹にキリッと痛みが走り、モフドラが慌てて「ぷしゅー!」と湯気を吹き出す。
「ぐぅ……!」
「ライくん、あーし……その……」
カレンが言いかけた瞬間、ミーナがすっと横から割り込む。
「ライ様! 今こそ愛のポエムを朗読すべきです!」
「空気読んでよーーーっ!」
カレンの告白チャンスは秒で粉砕。
顔を真っ赤にして叫ぶカレンの横で、バルドが眼鏡を押し上げて苦笑した。
「若様。愛の詩は胃薬より効き目がございますかのう」
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夕暮れの庭園。
片付けを終えたライが、静かにカレンへと向き直る。
「君が笑ってくれたなら……料理を学んだ甲斐がある」
その誠実な声に、カレンの心臓がドキンと跳ねる。
「……もう、イケメンすぎ。ギャップ萌えで死ぬんだけど」
ライは腹の痛みに耐えながら、言葉を絞り出す。
「君のことを……」
だが再び“恋腹”が発動し、モフドラが大噴射。視界は真っ白。
「ぷしゅーーー!」
思わず笑い転げるカレン。
涙がにじむほど笑ってから、手をひらひら振った。
「もー、タイミング! ……でも、まずは友だちから、ね?」
ライは深く息を吐き、真剣にうなずく。
「……君の決断を尊重する。友だちから、だな」
その姿に、カレンはまた胸をきゅんとさせるのだった。
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「胃袋を掴めば恋も掴める――と申しますが」
バルドが腕を組み、皮肉げに言葉を落とす。
「若様の場合、胃袋は掴めど……同時に腹痛も掴まれるようでございますな」
ライはお腹を押さえ、カレンは吹き出し、モフドラは「きゅるっ」と鳴いた。
夕暮れの庭に、笑い声が響いていた。
いかがでしたか?
今回のライは「胃袋を掴む=恋を掴む」を実践しようとした結果……掴んだのはやっぱり腹痛でした。
庶民の胃は満たされても、侯爵様の胃はキリキリ。料理は温派、顔は硬派、心は……恋に弱派。これぞ“完璧超人のレシピ外”ですね。
ブックマークや感想で「今日のギャップはここだ!」と教えていただけると、ライの次回の腹痛も少しは和らぐはずです
さて次は――映えか、恋か、それともまた胃薬か? どうぞお楽しみに!
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