第2話 若様、悲劇!紅茶より熱い恋腹
舞踏会でなんとか「第一歩」を踏み出したライ。
次なる舞台は――お嬢様クラリスからの直々のお茶会招待!
紅茶でスマートに振る舞うかと思いきや、もちろんそんなに甘くはない!?
ライのお腹とプライドが危険信号を鳴らす、波乱のお茶会が開幕します!
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王都の昼下がり。
太陽はちょうど頭上にあり、空は雲ひとつない青さを見せていた。
そんなとき、グランツ家の屋敷に、一通の手紙が届いた。封筒は白地に小花の模様があしらわれており、なんとも可愛らしい。
「若様。クラリス様からでございます」
バルドが封筒を差し出す。
ライは指先で封を開け、真剣な顔で中を読む。
そこにはこう書かれていた。
――「先日の舞踏会で助けてくださったお礼に、ささやかですがお茶会にお招きしたいと思います」
その一文を読んだ瞬間、ライの心臓がドクンと跳ねた。
ポケットから銀の懐中時計を取り出すと、針が「ピクリ」と跳ね上がっていた。
これは普通の時計ではない。
“恋心針”とも呼ばれる魔具で、持ち主の鼓動の速さを針で示す仕組みになっている。
つまり、針が動いたということは……「恋腹」の前兆。
ライは腹を押さえ、少し青ざめた。
「イタタ……やはり来たか」
ライがうめくと、すかさずモフドラが肩の上から「ぷしゅ〜」と湯気を吹き、ライのお腹をあたためようとする。
「火竜だーっ!!」
通りがかりの使用人が叫び、慌ててバケツの水を運んでくる。
「違う、湯気だ! モフドラは火を吹かない!」ライが必死に否定するが、まったく信用されない。
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そんな慌ただしさの中、ミーナが勢いよく飛び込んできた。
手には真っ赤な布が。
そこには大きく「運命です!」と書かれている。
「お茶会にこれを掲げれば、
クラリス様も『あっ、運命なんだ!』って気づいてくれるはずです!」
「没収」ライが手を伸ばすより早く、バルドがすかさず横からひったくった。
「若様のお顔に“運命”など、混ぜたら劇薬です。むしろ遠ざけますぞ」
「ひどい!」ミーナが叫ぶが、バルドは涼しい顔で丸めてゴミ箱にポイ。
「だいたい、恋というものはですな……」
バルドが語り始めると、ミーナがすぐに割り込む。
「わかってますよ! でもライ様は誠実すぎて動きが地味なんです! インパクトが必要なんです!」
「地味……」ライは肩を落とした。
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しかし、落ち込んでばかりもいられない。
お茶会は戦いだ。恋腹との戦いでもある。
ライは机の上に旅用薬箱を広げ、ミントの葉、ハーブティーの茶葉、包帯をきっちり並べる。
さらに祖母が手縫いしてくれた腹当てを腰に巻きつける。刺繍は少しほつれているが、ライにとってはお守りのような存在だ。
「若様、完全武装ですな。お茶会というより、戦場に赴く兵士でございます」
「恋も戦だ」ライは真顔で答えた。
その横でミーナはこっそり何かを仕込んでいる。
ハート型の大きな飾りを取り出し、ライの胸に当てようとしたのだ。
「これを胸につければ、恋愛運アップ間違いなしです!」
「やめろ」
ライがバシッと払いのける。
バルドは冷静に言い放つ。
「若様のお顔とハートの組み合わせは、情報量が多すぎます。処理落ちしますな」
「処理落ちって何だ!」
ライがツッコむと、ミーナはケラケラ笑った。
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出発前。
ライは姿見の前に立ち、表情を整えようとする。
「これが……普通の笑顔だ」
鏡には、眉がつり上がった恐怖の顔が映っていた。
「きゃっははは! こわっ!」
ミーナが腹を抱えて転がる。
「若様、それでは紅茶の前に相手が逃げますな」
バルドも冷静に追撃。
ライは深く息を吸い込んだ。
「今日こそ、誠実に、短く、ちゃんと伝える……」
その決意を胸に、ライたちは馬車に乗り込み、クラリスのお茶会へと向かっていった。
クラリスの屋敷の庭に通されると、白いテーブルクロスの上に上品なティーセットが並んでいた。
バラの花が咲き誇る庭園で、鳥のさえずりまで聞こえる。いかにも「優雅なお茶会」という雰囲気だ。
「ライ様、どうぞ」
クラリスが微笑んで席をすすめる。
その仕草に、ライの懐中時計の針がカチリと揺れた。
――“ムズッ”。
さっそく恋腹の第一段階だ。
ライは腹を押さえ、モフドラが「ぷしゅ〜」と小さく湯気を吐く。
クラリスは「あら、今の音は?」と不思議そうに首をかしげる。
「……お茶が熱いのでしょう」バルドが即座にごまかす。
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紅茶が注がれ、会話が始まると、ライの知識がさく裂した。
「この茶葉は南方の山岳地帯で栽培されたものです。朝の気候が冷たいと、香りがより深くなるんです」
「まあ、詳しいのですね!」
クラリスの瞳がきらりと輝く。
さらにライは礼法の小ネタをさりげなく披露する。
「砂糖を入れるときは、時計回りに三回混ぜると香りが立ちます」
クラリスは感心して「なるほど」と笑顔を見せた。
ここまでは完璧。
バルドもうなずき、ミーナは
「やっぱり今日こそ運命!」と小声でガッツポーズしている。
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しかし、その瞬間だった。
クラリスがカップを口に運んだとき、ライの心臓が再び高鳴る。
――針が「ぐんっ」と上昇。
“キリキリ”。第二段階。
ライの手が細かく震え始め、持っていたティーカップが「カタカタ」と音を立てる。
「だ、大丈夫ですか?」
クラリスが首をかしげる。
「だ……大丈夫。ちょっと冷えてきた、だけだ……」
ライは必死に取りつくろうが、震えが止まらない。
次の瞬間、カップが傾き――こぼれた紅茶がテーブルをつたい、クラリスのドレスにぽたり。
「あっ……!」
一瞬空気が凍る。
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だがライは即座に反応した。
懐から小さな魔法式を刻んだ布を取り出し、軽くなぞる。
「……クリーン・ドライ!」
光が走り、ドレスのシミが跡形もなく消えた。
クラリスは驚いた顔をしたあと、ふっと微笑んだ。
「ご心配なく。すぐにきれいにしてくださって、ありがとうございます」
彼女のやさしい声に、ライの胸はまたドクンと跳ねる。
しかし同時に――「キリキリキリキリ」。
腹の痛みは限界に近づき、冷や汗がじわりとにじむ。
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その場はなんとか収まったが、庭の端で見ていた使用人たちがヒソヒソ声を上げる。
「やはりグランツ家の跡取りは……」
「完璧なのに、なぜかどこか惜しいわね」
その声が耳に入った瞬間、ライは深呼吸をして立ち上がった。
「今日はこれにて……失礼します」
顔は真っ赤だが、姿勢はいつも通り完璧に正しい。
バルドが後ろから近寄り、小声でつぶやく。
「若様、完璧なフォローほど、恋からは遠のくものにございます」
ライは苦笑し、腹を押さえながら庭を後にした。
お茶会という平和な場でも、ライにとっては戦場そのもの。
紅茶の香りよりも、クラリスの笑顔の方が強烈で、ついに「恋腹」大暴走。
完璧なシミ抜き魔法を披露できたのに、距離はなぜか縮まらず……。
誠実に振る舞うほど、恋が遠のくライの苦難はまだまだ続きます。
次回もどうぞお楽しみに!
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