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完璧侯爵様、恋するとお腹が痛いんです —恋すると腹がキリキリする侯爵様の100連敗—  作者: ヨーヨー
第2章 発明少女 アメリア

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第18話 発明少女、盗まれた図面!

工房に届いた一通の封書。そこに描かれていたのは、アメリア自身の図面としか思えない設計だった――。

歯車ギルドによる“発明の横取り”疑惑。書類の調査、証言集め、そして決定的なコーヒー染みの証拠!

ライと仲間たちは、アメリアの先使用権を守るために奔走する。

工房から役所の公聴会まで、舞台は大きく広がり、発明と誠実さを懸けた戦いが始まる!


工房の朝。

アメリアが郵便受けから分厚い封筒を引っ張り出した。封蝋には、歯車のマーク。王都で大きな力を持つ職人組合――「歯車ギルド」のものだ。


「なんだろう、これ……?」

ぱりっと封を切ったアメリアは、中身を広げた瞬間、目を見開いた。


「な、なにこれ! 私の図面にそっくりじゃん!」


紙には、見覚えしかない歯車とネジの設計。しかも、アメリアの描き癖までそのまま残っている。


ライは図面を斜めに傾け、光に透かして見た。大きな体をかがめ、指で線のかすれをなぞる。

「トレース……なぞって写した跡がある。線の迷い方まで、君の図面と同じだ」


ミーナが横から顔を突っ込む。「陰謀です! ここは変装して潜入調査ですよ! ほら、ヒゲ!」

ポケットから出てきたのは、毛糸で編んだどう見ても怪しい付けヒゲ。


バルドが即ツッコミを入れる。「まずは書類で戦いましょう。変装、潜入は最終手段でございます」


ライは壁の黒板を引き寄せ、チョークで図を描いた。

「“特許”とは、先に『この発明は自分のものです』と役所に申請した人がしばらく独占できる権利のことだ。けれど、“先使用権”という例外がある。役所に出される前から、すでに実際に使っていた証拠を示せば、その人はそのまま使い続けられる」


アメリアの瞳が輝いた。

「じゃあ、私たちが先だって証明すればいいんだね!ライ、一緒にやろう。頼りにしてるよ!」


ライの銀の懐中時計――時刻ではなく心拍を刻む魔具――の針が、ぐっと跳ね上がった。

アメリアが「頼りにしてる」と言ったせいだ。慌ててライは腰のベルトを締め直す。

これは、恋腹抑制ベルト。発明品で腹痛は少し抑えられるが、声がかわいくなる副作用があるため、ぎゅっと締め直して深呼吸。


バルドは片眉を上げる。

「若、ベルトは締めても、お顔のゆるみはどうにもなりませんな」


アメリアは腕をぶんと振り上げた。

「よし、調査開始! 流れを追えば絶対に尻尾が出る!」



---


学院の記録室。

紙とインクの匂いが立ちこめる部屋で、几帳面そうな青年が羽ペンを磨いていた。彼の名はペンネル。学院の廃棄記録を管理する係だ。


「廃棄された図面の台帳ですか? ありますよ。ただし受領印がちょっとにじんでいて読みにくいんですが」


差し出された台帳には、確かに“アメリアの古い図面”と記録が残っている。ただし受領印がぼやけていて、文字が分からない。


ライが指をすっとかざし、魔力を流す。インクの成分が分離され、にじんだ文字が浮かび上がった。

「……“紙屋フリッツ商会”」


次に向かったのは、紙や紐を扱う店――フリッツ商会。店主フリッツは、鼻歌まじりに紙を数えている。

アメリアが紙を一枚つまみ、指で弾いてみせた。

「理屈より実験!この手触り、間違いない。あなたの再生紙!」


店主は目を泳がせたが、そこへロイスが合流。

金髪を揺らし、爽やかに笑いかける。

「協力してくれたら、騎士団で伝票を“まとめ買い”するかもしれない」

「な、なんと高貴なお方! 話しますとも!」


フリッツの証言によれば、廃図面は選別係フーゴがチェックし、その一部が“紙サンプル”としてギルド傘下の印刷屋へ渡っていたらしい。


フーゴを探すと、昼の屋台で唐揚げに挑んでいた。

ミーナがマヨネーズを差し出すと、彼はすぐに口を軽くした。

「ギルドの設計課がサンプル紙を欲しがっててな。図面が混じってたかもしれん……マヨ、もっとくれ」


ライは携帯黒板を取り出し、時系列をまとめる。

「廃棄日……紙屋……選別……ギルド印刷屋……そして出願一週間前。筋は通る」


さらに決定的な証拠を探す。アメリアは図面に書かれた数字を指さした。

「見て、この“7”。横棒がちょっと長いの。私のクセだよ!」

ライも頷く。しかも図面の端にはコーヒーのシミ。アメリアが机でこぼしたときの模様だ。


バルドはふっと笑った。「コーヒーは口に、シミは証拠に。これぞ一石二鳥でございますな」


役所の閲覧室で、ギルドの出願書を確認。眠そうな老紳士スミスが応対した。

「異議を申し立てるなら、先使用権を示す資料を揃えなさい。目撃証言、作業ログ、試作写真……全部だ」


アメリアとライは顔を見合わせた。

「よし、全部そろえてやろう!」



---


子どもたちへの聞き込みも始まった。

以前の安全花火イベントを見ていた少年たちが元気に答える。

「ピカって光った時、アメリア姉ちゃん“同じ歯車”って言ってた!」

「図面、揚げパンの袋に入れて持ってたよ!」


パン粉の話に全員爆笑。ライまで少し肩を震わせた。懐中時計の針がまたムズッと上がるが、ベルトが踏ん張って声は普通に出せた。


バルドがうんうんと頷く。

「若、装備の勝利でございます。声変わりは一度で十分」


こうして証拠は少しずつ集まっていった。次はいよいよ“先使用権”を証明する大作戦だ――。



王都の役所の公聴会室は、やたらと広いのに空気が重い。前方には石像みたいに動かない審査委員長オルソンが座り、その横にキビキビした書記官フィオナ。向かいにはアメリアとライ、そしてギルド代表のベルトラムがにらみ合っていた。


「我々の出願は独自改善の結果だ。似ているのは工学ではよくある“偶然”!」

ベルトラムは胸を張って言った。


するとライは、持参してきた折りたたみ黒板をパタンと開き、チョークを走らせる。


「偶然ではありません。まず、廃棄台帳の記録を魔法で復元しました。ここに“学院廃図面”とある」

さらに伝票や証言、そしてアメリアの図面の“7”の書き方のクセまで指摘していく。


審査委員長オルソンが「ふむ」とうなずいたその瞬間、木槌の先がスポーンと抜け、転がった。

「……」

シーンとなった場を救ったのはミーナだ。

「偶然です!」と元気に拾って渡し、会場に小さな笑いが走る。


ギルドは必死に反論したが、ロイスが静かに立ち上がる。

「その改良点、すでに彼女の試作記録にあります。日付も明確に」

書記官フィオナが確認し、コツンと判子を押す。ベルトラムの額に汗が光った。



---


「机上だけでは退屈だ。簡易実演を許可する」

オルソンの一言で、会場はざわめく。


アメリアが取り出したのは、手のひらサイズの歯車模型「ミニ・トルクさん」。教育用に作った試作品で、ちゃんと軸受けに彼女の“7”のクセ刻印が残っている。


ライが障壁魔法で透明な安全ケースを張ると、アメリアがスイッチを押す。カチッ。

歯車がスムーズに回転し、負荷をかけても止まらない。

「ほら、これが改良ポイント。誰が作ったかは、動きを見れば明らかでしょ!」


子ども傍聴席のひとりが「あっ!これ収穫祭で見たやつ!」と叫び、拍手が広がる。


ギルドはあがき、「コーヒーのシミなんて誰でも付く!」と反論するが、バルドがすかさず畳み掛けた。


「では同じ位置、同じ大きさ、三回も? 偶然の神も困惑いたしましょう」

ドン、ドン、ドンとスライドで出される三連コーヒー輪。なんでこんなにこぼすのだと、会場は大爆笑。



---


判定はすぐだった。

「発明者はアメリア・スレート。ギルドの出願は却下する」

木槌がコツン。今度はちゃんと抜けなかった。


ベルトラムは肩を落とし、「偶然じゃなかった……」とつぶやく。


外に出るとアメリアが両手を突き上げる。「やったね!」

ライは懐中時計を胸に当てる。針が「ムズッ」と動き、危険信号。


「君の未来に……ぼ、僕も——」

言いかけた瞬間、ベルトのバックルがピンと跳ね、ライの声がワントーン上がりそうになる。慌てて咳払いでごまかした。


アメリアは気づかないで親指を立てる。

「さ、工房戻ろ! 次は本出願の書き方を研究だ!」

「理屈より実験!」

と叫びそうになって、今度は「理屈が先!」と笑って直す。


モフドラが「プシュー」と湯気を吹き、笑い声と一緒に消えていく…。


勝ったのは権利。でも、一番守りたいのは……君の自由だ


バルドは最後にひと言。

「若、権利は守るもの、距離は詰めるもの。本日は前者が満点。後者は——次回課題でございますな」


今回は「権利」と「信頼」をテーマに描きました。

アメリアの図面が奪われそうになるというシリアスな状況の中でも、ミーナの紙吹雪やロイスの爽やか立ち回り、バルドの鋭い一言などで、彼ららしいドタバタ劇に。

そしてライの恋腹ベルトは、やっぱり最後の一歩を邪魔してくれました。

発明を守る戦いの中で、少しずつライの心も動いています。権利は勝ち取ったけれど、距離はまだこれから。

次の物語では、さらに一歩踏み込んだ関係を描けたらと思います。


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