第17話 発明少女、K-BELTで恋腹を治す?
今回の舞台はアメリアの工房。
発明少女が思いついたのは、なんとライの“恋腹”を抑えるためのベルト、通称K-BELT β!
腹痛を軽減するはずの装置は、革やルーン石、バネを組み合わせた斬新な発明。
しかしテストを始めれば、紙吹雪やら声変わりやら、予想外のハプニング続出。
果たしてK-BELTは救世主なのか、それとも新たな災厄の種なのか――?
工房の中は朝からドタバタだった。
大きなテーブルの上には革ベルト、銀色のバネ、小さなルーン石、そして謎のメモ用紙が散乱している。真ん中に立っていたのは、いつもゴーグルを頭にのせた少女、アメリア・スレート。王立工房学院に通う発明好きで、口癖は「理屈より実験!」だ。
「よし! 今日はこれを作る!」
アメリアがバンッとテーブルを叩いて、紙を掲げた。そこには大きく「K-BELT β」と書かれている。
ライは首をかしげた。「けーべると……?」
「正式名称は『恋腹抑制ベルト』! 略してK-BELT! 君のお腹の“恋腹”を、科学と魔法でガードする装置さ!」
横でバルド執事が腕を組み、「若、発明で恋を殴るという発想……新境地でございますな」と真顔でつぶやく。
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革職人の店で手に入れた柔らかい鹿革のベルト。
魔具屋で買った低出力ルーン石。
廃材置き場で拾った時計職人の余りバネ。
材料はそろった。あとは組み立てるだけだ。
「ライ、ちょっとお腹見せて!」
「え、ここでか!?」
「いやいや! 採寸するだけ!」
アメリアは巻尺を取り出し、ライのお腹をミリ単位で測る。ライは直立不動で、なぜか軍隊の検査みたいな雰囲気になっていた。
「若、軍の健康診断でもここまで厳密には測りませんぞ」
「恥ずかしい……」
モフドラ(手のひらサイズの小竜)が接着樹脂をあたためる役を担当。しかし「プシュー!」とくしゃみをしてしまい、樹脂がドロドロに。
「ぎゃー! 熱すぎる!」
アメリアが慌てて冷却魔法をかける。
「すまない……」ライがなぜか謝っていた。
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なんとか完成したK-BELT β。
・革のベルトで適度にお腹を押さえ、
・ルーン石で痛みを「広くゆるく」分散、
・ダイヤルの針で安全度を表示。
針が緑なら平気。橙なら注意。赤なら「ピポッ」と警告音が鳴る。
さらに緊急リリース紐までついていて、引けば一瞬で緩む仕様。
「さぁ! テスト開始!」
アメリアの目はキラキラしている。
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工房の床にはテープでラインが引かれていた。30センチ、15センチ、5センチ。
「まずは“距離ゾーン”。私が近づいてもお腹が痛まないか試すよ!」
30センチ。針は青。ライも無表情で耐える。
15センチ。針が黄に動く。
「……むずっ」ライが小声で言った。
「よし、軽いムズだけ! 分散機能が効いてる!」
そして5センチ。アメリアが顔をぐいっと近づける。
針は橙に。
「むずむず……でも……まだいける」
「やった! 成功だ!」
後ろでミーナが紙吹雪を準備していたが、
「まだ早い!」とバルドに止められる。
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次は“言葉ゾーン”。
ロイスがカードを取り、妙に芝居がかった声で言った。
「『君の笑顔は朝日だ』」
針が橙に動き、ライが「……」と深呼吸。
「大丈夫だ」
アメリアはすかさず調整ダイヤルを回し、
「拡散率プラス1%!よし」
“香りゾーン”ではさらに面白い結果が。
花の香り=黄。
焼き菓子の香り=橙(でもライは少し幸せそう)。
そして整備油の香り=青。
「やっぱり現場の匂いは落ち着くのかぁ」アメリアがメモを取る。
「……僕は完璧だ。——恋以外はね」ライはなぜかドヤ顔をした。
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テストは見事成功。針は一度も赤にならず、ライのお腹も悶絶まではいかなかった。
「K-BELT、第一段階クリアだ!」
アメリアがガッツポーズ。
ライはお腹を押さえながら、「本当に、助かった。君の優し——」と言いかけ、深呼吸して飲み込む。
そのとき。
「祝成功ーっ!」と叫び、ミーナが紙吹雪を工房中にぶちまけた。
換気扇に吸い込まれ、天井からキラキラ舞い落ちる紙。
バルドはそれを見上げて、にやりと笑う。
「若、発明は“効いた気がする”の段階で浮かれぬのが上策。副作用というやつは、後から静かにやって来るものにございます。——恋もまた然り」
ライは少し顔を赤らめながら、腹にベルトを巻き直した。
「よし、街に繰り出して、副作用テストだ」
「理論より実験!街で実験だぁ!」
次のテストで副作用が爆発するとは、このとき誰も気づいていなかった。
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ライは革のベルトを外しながら、工房の木のベンチに腰を下ろした。
そのベルトには、小さなルーン石が埋め込まれていて、魔力で腹の痛みを分散させる仕組みがある。
アメリアが試作した「恋腹抑制ベルト」――通称K-BELTだ。
そして先ほどの街中での実験を思い出す……。
今日のテストは……一応、成功。
腹痛は前よりずっと軽くなった。けれど問題は、副作用だ。
「ありがとでしゅ!」
さっき街中で出ちゃった自分の声を思い出して、ライは顔を両手で覆った。
普段の低い声が、急にかわいいトーンに変わってしまうなんて。しかも頬が赤くなるオマケつきだ。あの瞬間、ロイスが肩を震わせて笑っていたのを、まだ忘れられない。
「やっぱり原因は“ほめ言葉”だね」
アメリアは作業台に広げた図面の上で、工具をくるくる回しながら言った。
「痛みを分散させるルーンと、“感情安定”のルーンが近すぎたんだよ。外から肯定的な言葉を受けると、声帯に魔力が流れちゃう仕組みになってた」
ライは真剣にメモを取りつつも、自分の声がまた裏返りそうでビクビクしていた。
試しにバルトが「若の剣さばき、尊敬しますぞ」と大きな声でほめる。
その瞬間――ライの声がまたピコーンと高くなる。
「ど、どもありがとございましゅ!」
工房に一瞬の沈黙が流れ、次の瞬間、机の下からミーナの爆笑が響く。
「ライ様、かわいすぎますっ!」
「笑い事ではない…っ」ライはうめきながら、腹当てをぎゅっと押さえた。
アメリアはため息をついて、でもどこか楽しそうに笑った。
「改良するから大丈夫。次は“言葉フィルター”を追加して、声に影響が出ないようにする。だから今日は休んでいいよ」
そう言って、アメリアは油で汚れた手でライの頭をポンと叩いた。
その手の感触が思った以上に優しくて、ライの心臓はどくんと跳ねる。懐中時計の針が「ググッ」と上がったのが、自分でも分かった。
「君の……その優しさが――」
思わず言いかけた。
けれどアメリアが片手を上げてストップをかける。
「はいはい、それ以上はダメ。今言うとまた声が高くなるよ」
ライは口を閉じ、肩で息をした。
せっかく勇気を振り絞ったのに、また副作用に負けるなんて。
夕方。工房を出ると空はオレンジ色に染まっていた。屋台の揚げパンを二人で半分こしながら歩く。
「今日はありがと、ライ。おかげでデータがいっぱい取れた」
アメリアは揚げパンをもぐもぐしながら笑う。
ライは少しだけ下を向いて答えた。
「僕は……完璧だ。——恋以外はね」
彼女に本当に伝えたいことは、まだ胸の中。
声が勝手に裏返らない日が来たら、そのときに言おう。
その横で、バルドが小さくつぶやいた。
「若、誉め言葉は毒にも薬にもなります。ですが、ほどよい誉めこそ栄養。恋もまた同じでございますな」
ライは苦笑しながら、揚げパンの甘さを噛みしめた。
K-BELT βのテスト回、いかがでしたでしょうか。
「恋腹を抑制する」という画期的な発明も、やっぱりアメリアが絡むと一筋縄ではいきません。
副作用でライの声が可愛く裏返る場面は、彼にとっては地獄でも、周りには最高のエンタメ。
それでもライが一歩前に進もうとする気持ちは確かに描けたと思います。
恋心と発明の実験は、まだまだ続きます。
次はどんな副作用が飛び出すのか――どうぞお楽しみに!




