第11話 発明少女、祭りの蒸気!?
王都は祭りの準備で朝から大騒ぎ。けれど華やかさの裏で、臨時設置の巨大ポンプが突如暴走!
そこに飛び込んできたのは、ゴーグル姿で「理屈より実験!」と叫ぶ発明少女・アメリアでした。
完璧侯爵ライにとって、第2幕は「頭脳vs実験」のドタバタ幕開け。恋腹の針は、果たしてどう動くのでしょうか——。
王都の広場は、祭りの準備で朝から大にぎわいだった。
屋台からは焼き菓子の甘い匂いが漂い、商人たちが声を張り上げる。子どもたちは走り回り、兵士たちも出店の手伝いに汗を流している。
その中央に、やたらと大きな鉄の塊が据え付けられていた。
臨時の蒸気ポンプ。
祭りのあいだだけ噴水や水車を動かすために組まれた特別製だ。動けば便利だが、見た目はどこか物騒で、「壊れたら爆発します」とでも書いてあるような迫力があった。
ライは執事のバルドと一緒に広場を巡回していた。
安全か見て回っているだけなのに、人ごみは勝手にスッと割れていく。
……別に睨んでいるつもりはないのだが。
「若様、本日も視線だけで避難訓練ができますな」
バルドがひげをなでながら皮肉を言う。
「オレの顔は防災ベルじゃない……」
とライはため息をついた。
そのときだった。
カン! カン! カン!
蒸気ポンプの鐘がひとりでに鳴りだし、計器がガタガタと震えた。次の瞬間、白い蒸気がモクモクと空へ吹き上がり、広場のハトが一斉に飛び立つ。
「やばいやばいやばい!」
侍女のミーナが、バケツを抱えて駆けてきた。
頼もしいと思ったら、中身は氷の入ったレモネード。
「ライ様! これで冷やしましょう!」
「それは飲み物だ。機械はのどが渇かない」
「じゃ、飲みます?」
「あとにしてくれ……」
ライが頭を抱えたその瞬間、広場に新しい声が響いた。
「どけどけーっ! 理屈より実験!」
ドタバタと駆け込んできたのは、頭にゴーグルをつけ、背中に大きな工具箱を背負った少女だった。
アメリア・スレート。王立工房学院に通う発明少女らしい。
元気いっぱいで、口癖はそのまま「理屈より実験!」だ。
彼女は広場の中心に走り込み、ポンプ横の非常停止ボタンへ突進した。
ボタンは赤いキノコのような形で、押せばすべてが止まる“最後の切り札”のはずだった。
「止まれぇ!」
ドン!
……だが止まったのはポンプではなくボタンのほう。根元からスポンと外れて宙に舞い上がった。
飛んでいったボタンは、屋台の「安全第一」の札にゴン!と直撃し、ボヨンと跳ね返る。皮肉が過ぎる。
その落下を、片手でスッと受け止める青年がいた。
金色の髪が朝日に光り、瞳は透き通るような青。燕尾服のように整った服装も姿勢も完璧。
ロイス・フォン・アルベール。十八歳、公爵家の息子。剣も教養もそつなくこなし、誰にでも礼儀正しい。ライにとっては友でもあり、少しだけ意識してしまうライバルでもある。
「帯電している。近づかない方がいい」
冷静な声。
次の瞬間、「バチッ!」と火花が走り、ロイスの金髪がぶわっと広がった。
まるでライオンのたてがみ。
だがロイスは眉ひとつ動かさず「問題ない」と言い切る。
周囲からクスクス笑いが起こり、張りつめていた空気が少しゆるんだ。
……やっぱりこういうとき、イケメンは得だ。
だが、非常停止ボタンが外れた穴からは
「シューーー!」
と細い蒸気が噴き続け、熱と音は増すばかり。
「説明書は!?」とアメリアが袋をあさると、出てきたのは屋台のカレーメニュー(大盛り・油ジミつき)。
「食欲はわくけど、これじゃない!」
ライとバルドは避難誘導に回った。
ライは木箱を動かしロープを張って簡易通路を作る。
「こちらへ! 金属には触るな!」
短く、はっきり。
落ち着いた声で指示を出す。
子どもが「ありがとう、おじさん!」
と笑顔で手を振る。
「おじ……まあいい、安全第一だ」
「若は“長身の十七歳”にございます」
とバルドの冷静な追撃。
ロイスも群衆に声をかける。
「小さなお子さまは右へ。年配の方はこちらへ」
彼の一言で人々がスッと従う。
……本当にイケメンで便利な男だ。
一方のミーナは巨大うちわを振り回し、蒸気をあおいでいた。
「これで空気を入れ替え——ゴホッ!」
逆流した蒸気で前髪が一瞬で天パになる。
「今日のわたし、恋の波動!」
「蒸気の波動でございます」
とバルドが切り捨てた。
その横で、肩の上の小竜モフドラが「ぷしゅ〜」と湯気を吐く。
「火を吹いた!」と通行人が叫ぶ。
「違う! 湯気だ!」ライは必死に否定するが、やっぱり誰も信じてくれない。
アメリアはすでに次の行動に移っていた。
「緊急止めピン・試作一号!」
金属ピンを差し込もうとするが、弾かれて像にカツンと当たった。
「……試作二号!」
「切り替えが早いのはいいことだな……」
オレは真顔で指摘する。
そのとき、ポンプ全体がドク、ドクと一定のリズムで震えはじめた。嫌な響きだ。
オレはチョークで石畳に簡単な図を描く。
「ここが応力でつまってるのが原因だ」
「なるほど!」
アメリアは即座に理解し、工具を握る。
「じゃあこの角を少し動かせばいい?」
「触るのはオレの合図のあとだ」
「了解!」
ゴーグルを下ろしたアメリアが構える。
ロイスは最後尾を確認し、「導線、確保済み」と落ち着いて報告する。
ミーナは濡れ布を配り、モフドラはオレの腹にぴとっと張りついて「ぷしゅ〜」。
ポンプの震えがさらに速くなる。
オレは広場全体を見回し、深く息を吸った。
「合図する。三、二——」
広場に緊張が走るなか、オレは息を整えて叫んだ。
「今だ、回せ!」
アメリアがゴーグルを下ろし、レンチを全力で回す。
「よいしょーっ!」
その瞬間、ポンプの奥から「ボフン!」と蒸気が逆流。
風圧でミーナのうちわが吹き飛び、屋台の団子を串ごとさらっていった。
「だ、団子が空飛んだー!?」
観客がざわつく。
飛んでいく団子串をロイスが片手でスッとキャッチ。
冷静に障壁魔法を展開して、周囲の人に当たらないように守る。
「安心を」彼は短く言うだけ。群衆から拍手が起こり、なぜか「かっこいい!」の声まで飛んだ。
……やっぱりイケメンは得だ。
ライは魔法障壁を重ねてポンプを安定させる。
最後にアメリアがとどめとばかりにハンマーをドンッ!
途端に、あれほど暴れていたポンプが「ぷしゅ〜」と小さく息をつき、静かになった。
――広場がシーンと静まり返る。
次の瞬間、拍手と歓声が一斉に巻き起こった。
「助かったぞ!」
「お嬢ちゃんすごい!」
「侯爵様ばんざーい!」
アメリアはガッツポーズ。「やっぱり実験は最高!」と満面の笑顔。
ロイスは髪を直しながら
「実験と理論の勝利だね」
と淡々とつぶやいた。
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一段落して、オレとアメリアは並んで腰を下ろした。
アメリアは工具箱から、金属パイプそっくりのお菓子を取り出す。
「はい! ごほうびのパイプ菓子!」
細長い筒の中にクリームが入っている。
修理のあとに甘いものを食べるのは“工房の常識”らしい。
「糖分補給は大事!」とアメリアは言って、オレに半分差し出した。
2人で一緒にかじると、サクッと軽い音。
ほんのり甘くて、緊張でこわばった胸が少しほぐれる。
思わずオレは口にしてしまった。
「君の笑顔は……いい」
カチリ、と胸ポケットの銀の懐中時計が動く。
針が“ムズッ”の位置へ。
お腹がきゅうっと痛み、思わず腹に手をあてる。
モフドラがすぐに飛び降りて、オレの腹にぺたん。
「ぷしゅ〜」と湯気を吐き出して温める。
「ひ、火竜だーっ!」
広場にいた子どもがまた叫び、通行人も「水を持ってこい!」と大騒ぎ。
「違う! 湯気だ!」オレは必死に否定するが、どうも信じてもらえない。
アメリアはケラケラ笑いながら
「ありがと! でも修理が先!」とあっさり言う。
その笑顔がまた痛い。恋腹も痛い。
オレの心も腹も、同時にキリキリと締めつけられた。
(……やんわりスルーか)
オレは小さく肩を落とした。
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群衆は少しずつ散っていき、広場に静けさが戻ってきた。
ロイスは片手を胸に当てて、
「今回は君の冷静さと、彼女の大胆さの勝利だ」
と真顔で言うと、颯爽と背を向けて去っていった。
……最後まで絵になるやつだ。
ミーナはというと、耳を真っ赤にしながら叫んでいた。
「次こそは花びらシャワーを成功させますから!」
「まずは現場を成功させなさい」
とバルドに耳をつねられ、「ぎゃああ!」と叫びながら引きずられていった。
オレはひとり、止まったポンプを見上げて小さくつぶやく。
「きっと、幸せの欄外に名前はない。——それでも、余白は次の設計図になる。」
すると、背後からバルドの落ち着いた声が落ちてきた。
「若様、まずは会話に油さしでございます。機械も恋も、潤滑油が大事ですな」
オレは苦笑し、腹を押さえながら歩き出した。
モフドラが「ぷしゅ〜」と慰めるように湯気を吹き、広場にはようやく平和な空気が戻った。
第2幕がいよいよ始まりました!
第1幕のクラリスとは打って変わって、アメリアは元気いっぱい&突撃型のヒロインです。
理屈派のライと、実験派のアメリア。正反対のふたりが出会ったとき、広場の蒸気は大混乱、でも読者には笑いとトキメキを届けられたらと思っています。
次回はさらにアメリアの「工房流朝稽古」に巻き込まれる予定。ライのお腹が無事でいられるのか……ご期待ください!
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