第14話 ブラッドスーブニール-③
「お、お騒がせして申し訳ありません……。夢じゃないなんて! あのレオパ様がッ、今目の前にィ! しかも認知されているだなんて……‼ あっ♡ 死ぬっ♡♡」
「死ぬな。しかし其方は汚らわしい」
「黙れ小僧。いや、ジャマ川くん」
「オレが連れてきたってのに解せねぇ」
気絶した緋月ちゃんを部屋に運び、起きたところで対話を試みようとした結果、もう二回気絶させてしまった。なんとか今は篠川と言いあう程度まで落ち着いてもらっている。
それにしても、この部屋は物凄く落ち着かない。部屋一面に僕の写真があるのは……うん、だいぶ怖いね。
「それにしても、なんで僕の写真をこんなに?」
「それは! 昔にレオパ様に助けていただいたからです! 昨日のことのようにそれは鮮明に覚えております……! あの時助けていただいた時から、アタシはレオパ様を推しております‼」
「そうなんだね。ありがとう、嬉しいよ」
「はぐぁ――ッ‼」
「⁉」
緋月ちゃんは見えない何かに吹き飛ばされたかのように後方に吹っ飛び、吐血しながら恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ちょっとパパ。限界オタクは推しの一挙手一投足で死にかけるから気を付けないとダメなんだよ。ちゃんと配慮しないと」
「そ、そっか……。気を付けないとね」
「マンボウみてぇな生態だな」
先ほどの余裕ありなお姉さんムーブをしている緋月ちゃんは息を引き取り、推しに限界化するオタクへと変態を遂げている。
生まれたての小鹿のようによろめき、小刻みに震えながらも立ち上がり、満身創痍になりながら再びこちらに向かってきた。
「そ、それで……レオパ様は一体全体どうしてアタシのところへ……?」
「あ、そのことなんだけれどね、直近の事件で商店街で溺死した異人がいただろう? それの血液でも保管していないかと思って訪ねたんだ」
「ま、まさかあの名探偵レオパ様の復活⁉ これは何が何でも協力……と言いたいところなのですが、流石に異人の血液サンプルを外部の方へ渡すというのがバレれば懲戒処分される可能性が……」
濃縮されたレモン汁でも一気飲みしたような苦しそうな顔をしている緋月さんを横目に、篠川がこの話に割り込んでくる。
「ほーん、いいんだな。ま、お前以外にも玲央羽のこと好きな研究者いるしそっちに頼むわ。あーあ、今なら推しの玲央羽とその愛娘の円羽ちゃんとのスリーショットも付いてくるのに。本当に残念だ。あ~~~~あ」
「ぐ、ぎぎぎぎぎ……‼ ゴガギッググググガガガガ‼」
今にもビームが飛んできそうな機械音を発しながら、殴りたくなるようなムカつく笑みをしている篠川に睨みを利かせている。そんな彼の挑発に呆れつつも苦笑いした。
彼女にも職があるのだし、不正はしたくないのだろう。異人や終人の研究というのはまだ未確定なことも多く、公にするのは危険なものもある。故に情報規制が多く、持ち出しなど言語道断だろう。
今回の事件では、実際の事件現場で円羽の異能力は使えない。しかし、ダニの異人ということなので過去の事件と関係があると思われる。そのため、過去を見るという円羽の新たな能力を発動させるために血をもらいたいと思っていたのだが、難しそうだ。
「くっ……! 確かにレオパ様と円羽ちゃんとの写真は欲しい……けど、アタシはこの職に誇りを持ってるのよ! そんな誘惑に負けないのよっ‼」
――数分後。
「うっひょーー‼ レオパ様と円羽ちゃんとのスリーショット最&高♡ さすがに家宝は決定事項‼」
チョロかった。
先ほどの威勢は何だったのか。撮った写真を早速印刷して眺める彼女を眺めながら、そんなことを心の中で呟く。
「アタシが死んだら、これを棺桶いっぱいに敷き詰めてもらおうかな……。いや、棺桶にこの写真を貼りまくろう‼」
「痛車ならぬ痛棺じゃねぇか。んなことしようとすんな」
「なんだか火葬の時一緒に僕等も連れていかれそうで怖いね……」
何はともあれ、これで目的の異人の血をもらうことができる。
緋月ちゃんは軽やかな足取りで部屋を歩き、棚を漁った後、赤い液体の入った瓶を手渡してきた。
「うっ……!」と声を漏らし、頭を押さえて顔を顰める円羽。
「円羽、大丈――って、なんか僕も痛くなってきた」
しかし彼女だけでなく、なぜか僕の頭にも衝撃が走って、何かが流れ込んでくる。今までこんなことは体験したことなかったし、僕の異能力にそんなも力はない。流れ込んでくる記憶と痛みを感じつつ、頭を回転させて一つの説が思い浮かんだ。
あの時、クウナの契約とやらをした際、彼女の異能力に入ることができた。血の繋がりだとも言っていた。円羽とは親と子の関係なので、彼女の異能力にも〝巻き込まれて〟いるのだろうか?
「痛たた……。パパにも記憶が流れ込んできたの?」
「うん。近くにいたら僕にも記憶が見れるみたいだね」
「うーん。でも見るだけじゃほんの一部しか無理そう。……あ、そうだ。 緋月さん、この血を青酸カリることってしていいですか」
「ペロッて舐めることを『青酸カリる』って言うんじゃねぇ」
突っ込み役の篠川は一旦置いておき、緋月ちゃんの返答を待つ。彼女からは、大丈夫だけれど異常があればすぐに精密検査をする、とのことで了承を貰えた。
「ふー……よし。パパ、いくよ」
「うん、よろしくね」
そして円羽はその瓶から一滴、指に異人の血を垂らす。僕の片手をぎゅっと握りながら、決意を宿してその血を舌に乗せ、飲み込む。
紅蓮に輝く円羽の隻眼を最後に、僕たちは記憶の波に飲み込まれた。




