どうせこんなもん
自分は特別じゃない。
何か才能があるわけでもない。
中島界は高校二年生だ。父、母に2つ年の離れた弟が一人いる。
ゲームが好きで、暇があればゲームばかりしている。
けれど、なぜか視力だけはよく視力検査に関しては怖いものなしだ。
無駄に筋肉質ではあるが、身長は平均だ。
ある日いつものようにゲームをしていると、急にジュースが飲みたくなった。
「買いに行くか」
休みの日に久しぶりに家から出る。
自販機に行こうと考えた界は、財布の中から180円を取り出し、歩いて数分のところにある自販機に向かう。
誰もいない道をポケットに手を入れたまま歩く。
とっくに日は落ちて辺りは暗い。電灯だけが界を照らしてくれる。
自販機の前に立つと、握りしめていた小銭を小銭入れに入れていく。
早くジュースが飲みたくて仕方ない。
そう思っていると、小銭を入れている最中10円玉が自販機の下に落ちてしまった。
「面倒くせぇ」
無駄なことをするのは嫌いだ。やってても意味がない。
暗いせいで自販機の下はまるで何も見えない。
「くっそ、スマホスマホ」
ズボンのポケットの中からスマホを取り出す。ライトを照らしてみようと考える。
こんなところを誰かに見られたら、恥ずかしくてたまらない。
そうすると、茶色い何かが見えた。
「あったあった」
汚い自販機の下をあさるのは気が引ける。はやく取ってジュースが飲みたい。
目を瞑りながら手を伸ばす。
「あれ?ここらへんにあったはずなんだけどな」
もういちど場所を確認しようと目を開く。
「は?」
状況が理解できなかった。脳の処理が追いついたのはその数十秒後のことだった。
「ここ、どこだ?」
見たことのない景色。さっきまでは暗かった空が明るくなっている。人の話し声が聞こえる。さっきまで目の前にあったはずの自販機が消えている。
立ち上がって周りを見渡す。唖然となった界はピクリとも動かない。
人々の視線を感じる。これは幻覚か?なにかの夢か?
そんな時、こちらに近づく足音が聞こえる。どんどんその音が近くなっていることに気づいた界は、振り向いて誰が来ているのかを確かめる。
「なにか困りごとかな?」
爽やかな声で訪ねてきたその男は、白髪で、年齢は界と同年齢か少し上、身長は190近くほどあり、目の色はアジア人にはあまり見ない緑色の目、顔は整っていて、腰に刀のようなものを持っている。細身だが、ただ細いわけではなく鍛えられた細さだと直感した。
界はどこから話そうか迷った。まずは挨拶?というかこの男は誰だ?誰にも会わないと思っていた界は、少し恥ずかしかったがこう答えた。
「あの、多分異世界から飛ばされたと思うんですけど...」
それを聞いた男は鬼のように形相を変え、飛び、腰から刀を抜いた。
「お前は何者だ」
数秒間の沈黙が続いた。