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だって秋くん、



しばらく仕事に没頭する日々だった。


あのスニーカーは、靴箱の一番上の段に押し込んだ。

秋とは仕事上のメッセージのやり取りだけで、会社に来るときは亜由美に任せてあたしは外に出るようにした。


「秋くんと喧嘩でもしたんですかぁー?早く仲直りしてくださーい」と、亜由美には呆れられたが、どんな顔して会えばいいのかがわからない。


そんなある日。


「ごっめーーん!急だったのに!すごい助かった!!!」

「いいよー、暇してたしね」


専門学校時代の同級生、美湖と駅前のカフェで落ち合った。

急に必要になった資材を貸してもらうことになり、ついでに久しぶりにお茶でもとなったのだ。

旧知の仲ということもあって、話題に花が咲く。

いい気晴らしだ。


仕事の話から始まり、話題のコスメから、美湖の結婚間近の彼氏の話。

あたしの相変わらずの男運のなさは笑われてしまったが。


「写真って今自分で撮ってんの?」

「ううん、うちのスタッフか、大きい広告のときは秋にお願いしてる」

「秋?ああ、達海秋ねぇ。一緒にやってるんだっけ」

「そう。秋の写真評判よくてね」

「今も仲良しなのねぇ」

「美湖まで!今もって何よ。普通よ普通」


美湖は意味ありげにニヤニヤする。

あたしはなんとなく居た堪れなくて、蒸らし終えた紅茶を自分で注いでいく。


「それは秋くんちょっと不憫かなー」

「不憫?」


たまに飲みに行く程度には仲良いけど。ついでにやけ酒に付き合って家まで送ってくれてありがたかったけど。


「だって秋くん、あの頃から麗のこと大好きだったじゃない?」

「………は?」

「麗に構ってもらいたくって憎まれ口叩いてさぁ、好きな子いじめちゃう感じ?可愛いよねぇ」


美湖の口から語られる話は、全く理解できなかった。

反芻する。


待って待って待って。


…え?


「………誰のこと?」

「ん?達海秋くんだよね?カメラのアキ王子」

「秋が?…あたしに?…構ってもらいたくて…?」


あたしの頭は疑問符で埋め尽くされる。


思い浮かぶのは、余裕そうに笑う秋。


秋が?そんなわけ。


「んん?麗に彼氏できたときとか心配になるくらい凹んでたじゃない?」

「し、知らない…」

「………ウソ。」


あたしが目を見開いて固まると、美湖は信じられないという顔で手を口に当てる。


秋が?

そんな秋、知らない。


秋はいつも余裕そうに、意地悪言って、あたしを怒らせて楽しんで。


え?全部愛情の裏返しだったってこと?


「驚いた。てっきり知っててあしらってるんだとばっかり。」


はーと息を吐き出して、美湖はスコーンを口に放り込んだ。


「秋くんも、麗に男が途切れないから、言えなかったんだろうなぁ」

「や、まっさかぁ…」


口で否定しながら、冷や汗が止まらない。


もしかして、と思うことも、なかったわけじゃない。


でもその度に、他の子との扱いの差を見せつけられてきたのだ。

あたしは完全に恋愛対象外なんだと。


からかって、ムキになったあたしの反応を見て、満足そうに笑うところとか。

彼氏の話は興味なさそうに聞いているのに、愚痴や別れたときのやけ酒には律儀に付き合ってくれるところとか。

気のせいかと通り過ぎていた、時折見せる寂しそうな表情とか。


「ど、どうしよう…」

「えっ!何その反応!今の麗的にはアリってこと!?」

「や、ちがッ」

「へぇぇーーーー???」


否定しようとすればするほど顔が赤くなり、恋バナ大好きな美湖の目が輝く。


「いいじゃん秋くん!イケメンだし、一途だし、仕事にも理解あるし、面倒見いいし!家事もバッチリなんじゃん?スパダリ彼氏!!早いとこ捕まえてときな!」


きゃあきゃあ盛り上がる美湖。

それを聞いているはずなのに、にわかには信じられず、あたしの頭は渦を巻いたようにぐるぐるしている。


だって。そんな。まさか。そんなわけ。


自惚れて、勘違いだったときのショックが大きすぎる。

当たって砕けるには、近すぎる。



秋が?あたしを?


……昔の話だよね?





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