バイバイ
「麗さーん」
「げ」
待ち合わせ場所に少し早く向かっていると、歩幅を合わせて隣に並ぶ男。
あたしはあからさまに嫌な顔をしたが、そいつは顔色を変えない。
「げって、酷いなぁ可愛い後輩に」
「だぁーれが可愛い後輩よ。可愛げのない後輩の間違いでしょ」
背の高い細身の男が隣に並んだ。
女子にしては高身長のあたしが見上げるほどの背の高さ。
ふわっふわのパーマの前髪は目にかかる長さ。なのに襟足は短く切り揃えられてるから清潔感も捨てていないというバランス感覚の持ち主だ。
奴は目尻の下がった目を細める。
このタレ目が色っぽくて、王子様みたいと密かに人気なことを知っている。
あたしには、サッパリ良さがわからないけれど。
「今帰りですか?飲みに行きましょうよ」
達海秋。専門学校時代の後輩。フリーのフォトグラファーをしていて、現在業務委託先でもある。
仕事の腕は尊敬しているが、あたしは昔からどうにも秋が苦手だった。
「嫌よ、デートなのよデー…ト」
言いかけて、凍りついたように足が止まってしまった。
ーーーあ、ほら、まただ。
「やめろよ、これから待ち合わせなんだって」
「えーまだ時間あるでしょー?」
待ち合わせ場所に早めに着くと、そこには見知らぬ女が腕に絡みついて、彼氏にキスをしていた。
立ち止まった麗の隣で秋が気まずそうにしているのが空気でわかった。
「あっ、麗!!!」
彼氏の隣にいた女は、彼氏にしなだれかかって、勝ち誇ったように唇が弧を描く。
あたしの存在に気付いて慌て出した彼氏をどこか冷めた目で見ながら、考えるより先に体が動いて隣にいた秋の二の腕を掴んだ。
「麗、これには訳があって、」
言い訳しようとするのは、彼氏、
「ちょうどいいわ。今日は、この人と付き合うから貴方にさよならを言いにきたの。バイバイ。」
ーーーだった人。