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いいんですよ、今、僕の話は。 -sideアキ-



調べれば調べるだけいろんなものが出てきた。

悪い噂も、出てくる出てくる。

N社との癒着やら賄賂やら、セクハラパワハラやら。


亜由美さんがデータへの不正アクセスの痕跡も見つけたらしい。

元彼のIPアドレスと一致も確認できた。


社会的に追い詰めることもできたけど、逆恨みされても嫌だしということで安全優先。この情報は折を見て出すべきところに出すということでまとまった。


「うぅん、やっぱりかぁ。N社に謎に情報握られてることもあったので変だなぁって思ってたんですよねぇ。」


また別の日の仕事の合間、亜由美さんと僕は調べたことを出し合った。

話せば話すほど、仄暗い感情が揺らめく。


「…何でそんなのと付き合うかなぁ…」

「愛されたいんじゃないですかぁ?」

「え?」

「外側を褒められても埋められない寂しさみたいなの。この人ならもしかしてーって縋っちゃう気持ち、ちょっとわかる。」


あんなに周りに愛されている人が?


チラリと亜由美さんを見遣ると、真面目な表情を引っ込めた彼女はニンマリと意地悪な笑顔で言った。


「だったらボクがドロドロに愛してあげますよーって言っちゃえばいいんですよぉ」

「……いいんですよ、今、僕の話は。」


正論すぎて何も返せなかった。

思わず、ため息ひとつ。


「まぁしばらくは元カレも接触しようとしてくるでしょうから、アタシも気にかけておきますけど、秋くんも何かあったら教えてくださいー」

「亜由美さんもね。麗さんの為に無茶しないでくださいね。」


僕が言うと、亜由美さんは大きな目をさらに大きく丸めた。


「…秋くんって」

「はい」

「天然タラシですよねぇ」

「はい?」

「その1割でも、麗さんに向けていればねぇ…」

「………」


哀れみの目を向けて、亜由美さんはパソコンに向き直った。

僕も使った機材を仕舞い始める。


「帰りますね。今日撮った分は後ほど送ります」

「はぁい。また連絡しますねぇ。ありがとうございましたぁ」


ヒラヒラと愛想よく手を振る亜由美さんに手を振り返しながら、今日も麗さんに会えなかったなと落胆した。


「会いたいな」


麗さんだって暇じゃない。

会社にいないことも多いし、僕だってフリーでやっている分忙しいときは忙しくて長期で遠方に行くこともあるし。

でも、こんなあからさまに避けられて会わないのとはまた違う。



言えたら悩んでない。

そう思っていたが、こうやって避けられて会えないなら何を言っても同じか。


「潮時かなぁ」


今のぬるま湯のような関係も。


腹を括ろう。


今度こそちゃんと思いの丈をぶつけて。


ーーー想うくらいは、赦してくれるだろうか。




◇◆◇




フォトスタジオの仕事の帰り、麗さんと元彼を見付けて心臓が冷えた。

抱き付かれた麗さんに駆け寄って引き剥がそうと思う間もなく、元彼が崩れ落ちた。


肩で息をする麗さん。


「あたしはもう完全に冷めてるから、何言われてもよりを戻すつもりはないわ。二度とあたしに関わらないで。メッセージも着歴も全部残してあるから、これ以上付き纏うならストーカーの被害届出すよ。」


ハッキリとした拒絶に安堵して、こんなときにも毅然とした態度に思わず笑ってしまった。


「あっはっは!麗さんかっこいいな。僕出る幕なし。」


僕の姿が見えると麗さんは少し緊張を緩めた気がした。

よく見ると顔を蒼くしていて、震えているようだ。


「振られたからって麗さんの侮辱はやめてくださいねー。同じ男として情けないので。」


うずくまったままのそいつを胸ぐらを掴んだ。

胸のあたりを不快な熱が渦巻くが、頭はやけに冷え切っていた。


「麗さんの会社の情報流してたみたいで?不正アクセスも賄賂も裏取れてますから、これ以上付き纏うようなら…わかりますね?」


本当なら何発かお見舞いしたいところだけれど、相手に有利になることは一つもしたくない。

元彼は尻餅を着いたまま青ざめている。


麗さんの方を振り返ると、呆然と立ち尽くして僕と元彼を交互に見ていた。

触れた手はキツく握りしめられていて、冷たくなっていた。


「行きましょうか」


そう声を掛けると、頷いて手を握ってくれた。


こんなときだからだとしても、ホッとした表情を見せてくれるなら、何でもいいやと思ってしまうわけで。


「ということなので、僕の麗さんのことは諦めてくださいね」


これくらい、いいだろう。

“僕の麗さん”くらい言っても。

元彼の前では、付き合ってることになっているわけだし。


震える肩に触れた。

困ったらように眉を下げて僕のことを見上げる麗さん。


今考えてるのは、何?




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