なんで、
亜由美に報告すると「もぉどんだけヤキモキしたと思ってるんですかぁ!まとまるまで時間かかりすぎ!しかも後先考えずに仕事増やしすぎ!バカ!」とすごい剣幕で怒られた。美女が怒るとすごい迫力。ちなみに仕事は綺麗に片付けられていた。
敏腕秘書。
美湖にメッセージを送ると、すぐに折り返し電話が来た。さすがは噂好きの美湖。根掘り葉掘り聞かれて、しばらく電話を切れなかった。
が、男運の酷さを知っている分、最後は誰より喜んでいた。
優は最近の忙しさを心配してくれていたらしくホッとしていた。
何故か姉たちの彼氏には厳しい愛も「麗ちゃんをお姫様だっこで送ってきてくれた王子様みたいなお兄さん」として、秋が気に入ったようだった。
今までは気にしていなかったが、初めて理由を聞き出したところ、「…麗ちゃんと優ちゃんを泣かせる彼氏は絶対ダメ…」とのことだった。
◇◆◇
休みを合わせて、一緒に朝ランニングしたり、秋の手料理を食べたり、お出かけしたり。
秋の部屋で過ごすことにも慣れてきた頃。
「秋はさ」
気になっていたことを聞いてみた。
「んー?」
秋の部屋で、秋の家に置いてるスウェットで、秋の隣に膝を抱えて並ぶ。
「なんで、お姫様って、言ってくれるの?」
「ん?」
「だ、だって、お姫様って柄じゃ、ないでしょあたし」
大人になるにつれて、あたしは気付いたのだ。
あたしはお姫様じゃないんだなということに。
女王様や王子様。騎士様。
そういう役回りだ。
真ん中の妹の優みたいに、気立がよくて安心感を与えるわけでもないし、下の妹の愛みたいに天衣無縫で誰にでも愛されるわけでもない。
そう、ずっと思ってきたのだ。
なのになんで。
シンデレラみたい、なんてバカなこと口を滑らせたから、合わせてくれているんだろうか。
秋は、優しいから。
思いながら、胸のあたりがずーんと重くなった。
「…何かまた余計なこと考えてます?」
秋は飲んでいた水色のマグカップをゆっくりローテーブルに置いた。
あたしは、秋の方を見れずに、両手で持ったマグカップに入ったカフェラテを眺める。
秋が用意してくれた、あたし用のピンクのマグ。
「美人でかっこよくて、いいお姉さんでしっかり者で男勝りで女王様っぽいのに、ほんとは全然しっかりしてなくて女王様じゃないし」
「え、ひど」
「嘘つけなくて、意地悪したときの反応が子どもっぽくて、全部顔に出るのに甘え下手で、甘えたら甘えたで恥ずかしそうにしてて」
誰。誰の話。
秋は楽しそうに話しながらあたしが手に持ったマグカップをテーブルに置き、頬に触れて秋の方を向かせる。
「女王様より、おてんばなお姫様って感じですけどね」
つつつと頬を撫でられ、頬が熱くなるのを感じた。
「か、からかって…!」
からかってる。からかってるのだ秋は。
付き合って優しくなっても、こうやってあたしの反応を見て満足そうにするのだ。
わかってるのに。
「まあ、そんな可愛いとこ、僕だけが知ってたらいいんですよ」
ちゅ、と音を立てて、秋があたしの指先に口付けた。
「ね、僕のお姫様?」
上目遣いで長い前髪の隙間からあたしを見る秋に、心臓がドキドキとうるさい。
「あ、秋ってすぐ、そういうこと…」
「嫌いじゃないでしょう?」
「う…」
「あ、そのうち改めてプロポーズしますけど、プロポーズはタキシードでバラの花束がいいですか?」
言い当てられて、顔が真っ赤になる。
はくはくと、何も言えずに眉を下げると、可愛いと呟いて秋はあたしを抱きしめた。
こうやって甘やかしてくれるのも、思ったことを言えて甘えられるのも秋だけなんだけど、それをちゃんと言葉にできるのは、まだ先の話。
お姫様にずっと憧れていた。
物語に出てくるお姫様は、みんな素直で可愛らしくて、周りに愛されていたから。
「今のままのあたし」でも、思ったよりちゃんと周りに愛されているのかもしれない。
これにて本編完結です。
エトセトラを少し投稿します。




