…甘えすぎ…?
「朝ごはん、パンとご飯どっちがいいですか?」
「パン」
「卵は半熟?完熟?スクランブルエッグ?」
「半熟!とろんとしたのがいい。」
「コーヒー?紅茶?オレンジジュース?ココア?」
「んー…」
「あ、ロイヤルミルクティー?」
「できる?」
「できます」
「あ」
「あ?」
「…甘えすぎ…?」
料理は好きなのでと、秋は上着を羽織ってキッチンへ向かう。
ワンルームの部屋のベッドで横になったまま、秋のにおいにつつまれて手際よくご飯を作っていく秋を見る。
待ってていいのだろうか。手伝う?でも邪魔しそうだし。
不安がムクムクと出てきて、居ても立っても居られなくて、キッチンに立つ秋の隣に立った。
秋は牛乳を鍋に注いでいた手を止める。
「麗さん?できたら呼ぶので寝てても」
「あ、あのさ…」
あたしは秋のシャツの裾を握る。
あたしを見下ろす秋が、困惑しているのがわかって怯みそうになる。
「秋、昨日…その…け、結婚を前提に…とか言ってくれたけど…」
「…あ、あー…はい…」
気まずそうに目が泳ぐ秋。
でもこれは、ハッキリ言っとかないと…
「あのね、あたし、料理とか家事、全くできなくてね…?」
「……へっ?」
ぱちくり。
タレ目がちな目を丸める秋。
「うちでも、ゴミ捨てと食器洗いとかたまにやるくらいで…しかも食器洗い機だし…あ、ご飯は炊けるのよ?あとサラダチキンと半熟でゆで卵作れる。」
「うん…?」
「名もなき家事?とかもたくさんあるんでしょ?その、ほんとにできなくて」
秋の反応が怖くて掴んだシャツに目を落として、早口に要らないことまで喋ってる気がする。のに。
秋は、コテンと首を傾げて。
「知ってますけど…?」
「え」
「家事は妹ちゃん…あのしっかりした礼儀正しい子が優さん?あの子がほとんどやってくれてるんですよね?」
「なんで」
「そりゃ…何度も聞いてますからね。家事できないことくらい見てればわかります。何年の付き合いだと思ってるんですか。それで?」
あっけらかんと言われて、あたしは何が言いたかったのか一瞬忘れた。
「ええっと、女らしいこと何もできないけど…いいの?って…話?」
はあーーーと、大きなため息。
肩に顎を乗せて、あたしを抱きしめる。
「てっきり、重いって言われるのかと」
「それは…思ってない、けど…」
思っていない。
不思議なくらいに。
仕事優先で、結婚なんてまだまだ先とずっと思っていたのに。むしろ一生独身とさえ考えていたのに。
「嬉しかった、し…」
「…ほんと?」
「うん」
「…よかった。」
「心配した?」
「そりゃーもう。これまで何度上げて落とされたことか」
「…知らないわよ」
「ですよねぇ」
恨めしそうな声音の秋。
なのに、頭を撫でる手は優しい。
「というか、女らしいって、何ですか?元彼が『女なんだからそれくらいしろ』とでも言ってました?」
「ゔ」
「ほんとさぁ…男見る目なさすぎ…」
抱きしめたまま、秋があたしの頭を撫でる。
体温が心地よい。
「家事、僕結構好きですし」
「でも」
「麗さん仕事はずっと続けるでしょう?」
「うん。でも秋も…」
「僕も仕事は続けると思いますよ。必要なら家事代行とか、いろんな手段ありますよ。その都度話し合ったらいいと思うんですよね」
子どもに言って聞かせるように、秋は一つ一つ丁寧に言葉を落としていく。
もぞもぞして秋の顔を覗き込むと、真剣そのもの。
寝起きで髪はいつもよりふわふわだが、シンプルなシャツでも秋は色っぽい。
「よ、よろしくお願いします」
「はい。まずは朝ごはん食べましょ」
こんなに当たり前みたいにあたしのこと考えてくれるのなんて、初めて。
って言ったら、また秋が拗ねそうだったから、しばらくはそっと心に仕舞っておくことにした。
離れていく体温が寂しくて、思わず秋の手を握ってしまった。
秋はクスクスと笑って、その手であたしの頬を撫で、ついでにフニっと頬をつまんだ。
「ハイハイ、ご飯作るから待ってて、お姫様。」
今度こそ離れて行った秋。
邪魔にならないようにローテーブルの前に膝を抱えて座り、秋が手際よく朝食を作っているのを眺めていた。
「どうぞ」
「…す、すご…」
トーストにベーコンエッグ、トマトとブロッコリーまで添えてある。
お店顔負けのモーニングプレートだ。
しかも、朝からロイヤルミルクティという贅沢。
こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか。




