ほんとう?
秋は解ける強さで手を握って、手を引いた。
あたしは引かれるまま、秋の骨ばった手を見つめながらついていく。
「いやー、流石麗さん、かっこよかったなー」
公園のベンチに座らせた。
「ど、どうして…」
「たまたま通りかかったんですよ。今日現場近くだったので」
震えていたのに気付いていただろうに、秋はのんきな声色で自販機にジュースを買いに行った。
ほんっと、こういうとこ。
よく気が付く。なのに、気付いていることを表に出さない。
だから信頼もしているのだが、あたし個人は振り回される。
「はい」
あたしに差し出したのは、温かいお茶。自分はミルクココア。
暖かいお茶のペットボトルを口を緩めて渡してくれた。
コーヒーが好きだけど、午後はなるべくコーヒーを飲まないのを、なんで知ってるの。
自分に都合のいい答えを導き出してしまいそうで、あたしはお茶を傾けた。
「飲んだら帰りましょうか。そのまま家帰るなら送りますけど」
チラと隣に座る秋を見上げると、ニコッと微笑んだ。
ーーーああほら。
あくまで選択権はあたし。
ここで、1人で帰るとか予定があると言えば秋は何も言わないだろう。
うだうだ悩んでいるのはやめよう。
「……ねぇ、秋」
「はい」
中途半端に振り回されるのは御免だ。
「あたしのことずっと好きだったって、ほんとう?」
意を決して聞いたはずなのに、弱々しい声が出た。
「ぶ」
「あ、ごめん」
ココアを吹き出し、苦しそうにしばらく咳き込んでいた。
「………誰から聞いたんすか…」
涙を浮かべて目元を赤らめた秋が口にしたのは、否定の言葉じゃなかった。
「と、とあるスジから…?」
「…まあ、知らぬは本人ばかりでしたしね。」
「ま、まじか…」
眉を下げて、チラリとあたしの顔を伺う秋。
「い、いつから…?」
あたしが絞り出すように訊くと、しばらく秋は無言で自分の手元を見ていたが、堪忍したようにポツリポツリと話し始めた。
「…最初はいちファンとして、外見が好みだなと思ってただけだったんですよ。コンクールで先生に言われて組まされたときも、ラッキーってくらいで」
もうあまり覚えていない当時の話。
ふわりと、秋の顔を隠す長い前髪が風に揺れる。
表情は、見えない。
「天才だと思いましたし、思い切りの良さも、人を惹きつけて引っ張って行く力も兼ね備えていて。その分批判を真っ向から受けることも多いのに、淡々と受け止めていてすごいなって」
秋がどう思っているかなんて、初めて聞く。
頬が熱くなるのを感じ、秋の横顔を見つめて言葉を待った。
「でも、堂々としてたのに、たまに非常階段のとこで1人でこっそり泣いてるのを見て健気だなって気になるようになって」
「な、な、なんでそんなの知ってるのよ!?」
慌てふためくあたしの反応を見て、秋はクスクスと肩を揺らした。
議論が白熱して、過ぎた言葉が投げつけられたこともあった。熱が入ったからとわかってはいても、傷付かないわけじゃない。
時折耐えきれなくなって、買い出しや資料を探しに行くと言って、1人で泣いていた記憶がある。
「甘えられない人なんだなと思って、いろいろ考えたんですけど…冷たいジュースほっぺに当てて驚かせたり、差し入れって言ってこっそり激辛のスイーツ食べさせたり…したときの反応が可愛くて…その…後に引けなくなったというか…」
俯いて珍しくボソボソと喋る秋。
その耳は、赤い。
初耳だが、冷たいジュースで驚かされたのも、激辛スイーツも記憶にあった。
ピリピリしていた空気がそれで和んで、コンクールに向けていい空気になっていったのだが、まさかそんな裏があったとは。
「僕としては、それで麗さんがコンクールのメンバーと付き合うようになるし、痛し痒しでしたね。」
吐き捨てるように言ったその言葉で、そんなこともあったなぁとぼんやり思い出した。
「僕は完全に恋愛対象外だわ、男は途切れないのに付き合う男はダメ男ばっかだわ。せめて幸せになってくれれば諦めもつくのに、いい加減にしてほしい」
ココアをグイッと飲み切って、立ち上がって缶をゴミ箱に捨てた。秋にしては珍しく乱暴だ。
「もういいですか?」
背を向けて立ち去ろうとする秋の手を、思わず掴んでいた。
まだ、肝心なことを聞いていない。




