地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがまったくどういうことですか?
仕事というのは、理不尽の連続だ。とはいえ業務内容に関係のないことで責められるのは、なかなかに辛いものである。それが日々繰り返されることならなおさらだ。
「だから、あの方の好みを教えなさいって言っているのよ」
「少なくとも、ご自身の仕事を抜け出したあげく、迷惑も省みず職場に乗り込んでくるような女性は兄にしろ、弟にしろ好みではないようですね」
「なんですって!」
目の前の女性を上から下まで見つめて鼻で笑ってやれば、相手の顔に朱が差すのがわかった。ぷるぷると小刻みに震えるのは、怒りを抑えているからか、涙をこらえているからか。後者だとちょっと面倒くさいなと思いながら、入り口の扉を指差した。
「なによ。あなたみたいに、結婚を諦めたような方にはわからないのよ!」
「失礼ですが、さきほど時計台の鐘が鳴りました。急いで戻った方が良いのではありませんか」
「また来るわ!」
怒り心頭と言わんばかりに、足音高く戻っていく女性を見ながら、ため息をついた。今日もまた朝から無駄な時間を使ったわ。仕事が始まるまでの間に読むはずだった本を鞄に戻し、小さく伸びをした。
ここは王宮内にある薬学研究所。薬師として働いている私のもとには、ひっきりなしに邪魔……もとい来客がある。そのほとんどが、兄弟関連の類いだ。
氷の貴公子と呼ばれる兄。
天使の末裔と噂される弟。
彼らとお近づきになりたい人々が、ツテを求めて私のもとにやってくる。お見合いをしていたはずが、途中から相手の姉妹の話に変わり、結局私を通して兄弟への面会を希望されることもある。本当に失礼な話である。
それでも私がひねくれずに生きてこられたのは、家族仲が良かったおかげだろう。侯爵家という立場でありながら、両親は「結婚こそが女性の生きる道」だとは言わなかった。祖母だけは、「女が学をつけたところで……」と顔をしかめていたけれど。
兄弟も美人とは言えない私のことをお荷物扱いせずにいてくれる。とはいえ、人前で仲の良さを見せつけることはない。本気で嫉妬して危険物を送りつけてくるような人間がいるのだから、こればかりは仕方がないのだ。
普通に考えて意中の相手の身内には、優しくしておいた方が得だと思うのだが、世間の常識では異なるらしい。将来の義姉や義妹を敵視するのは勝手だけれど、そのせいで相手を射止め損なうなら本末転倒どころの騒ぎではない。
***
「おはよう、アイリーン。今日も一段と綺麗だね」
「おはようございます、カラムさま。血湧き肉躍る会話をちょうどやっていたからかもしれませんね」
私の返事に、カラムさまがなんとも言えない微妙な顔をした。
「毎日あれだけ大騒ぎをしているのだから、相手の職場に苦情を申し入れれば多少マシになるのではないか」
「いいえ。彼女はうちの兄弟を巡る女性陣の中では、だいぶマシなほうです。回りくどい嫌味を言ってきたり、理不尽な嫌がらせをしてきたりはしませんから」
突き抜けている相手とのおしゃべりは疲れるが、彼女はおかしな連中の中ではだいぶまともな方だったりする。その事実が少しだけ悲しい。
薬学研究所に名指しで苦情を送ってくることもないし、薬草園に塩を撒いたり、薬草を片っ端から引き抜くこともしない。私の不名誉な噂を流すこともないし、暴力をふるうこともない。非常に短絡的な形で兄弟の好みを聞き、アプローチして失敗した恨みつらみをこちらにまっすぐぶつけてくるだけである。せめて相手を兄弟のどちらかに絞ってから戦いを挑んでくれるとよいのだが。
「それを『マシ』だと思うのは、いささかマズイと思うよ」
「そうですね。お茶会に誘われたので出席したら、『兄弟を呼んでこないなんて気が利かない』『あの兄弟がいなかったら、お前なんかを誘うはずがないのに』みたいなことを、回りくどくねちねちねちねちと半日かけて集団で言ってくるお嬢さま方に比べたら、彼女は可愛いものでして」
「地獄絵図だな」
「まあ、こういう嫌がらせをしてくる人たちの名前は名簿にして兄弟に渡しているので、親戚になることはないと思います。結婚相手の候補としての有無だけではなく、各種情報の照合に役立つらしいですよ。裏表が激しすぎる人間は、正直罰則を設けてほしいくらいです」
「これはまた手厳しい」
「こちらは身を守るために必死ですからね」
鼻息荒く語る私に向かって、カラムさまが微笑んだ。
「僕は何があってもあなたの味方だ」
「もうやだ、カラムさまってば。その言い方じゃ、女の人がみんな勘違いしちゃいますよ。自分が美男子だってこと、ちゃんとわかって行動してくださいね。まったく、天然のタラシはこれだから危険なんです」
「いや、アイリーン、僕は……」
「大変、朝摘みの薬草を取りに行くのを忘れていました。まだギリギリ間に合うので、出かけてきますね!」
うちの兄弟みたいに見境なく女を引き寄せるタイプも良くないけれど、カラムさまみたいに女性を勘違いさせてしまうタイプも罪作りだと思う。私はカラムさまの方を見ないように気をつけながら、慌てて部屋を飛び出した。
***
カラムさまは、謎多き同僚だ。
あんな美形、しかも高位貴族にもかかわらず、いまだに婚約者がいないらしい。
眉目秀麗、物腰も柔らかく、女性に対しても紳士的。これで結婚していないなんて詐欺だと思う。もしかしたら私が知らないだけですでに既婚者なのかもしれないと思ったが、その疑問を口にした時には爽やかに否定された。
『僕が結婚したい相手は、アイリーンだけ。いつになったら、色好い返事をもらえるのかな』
両手をそっと握られて、鼻血をふくかと思ったわ。カラムさまは危険だ。気がついたらベッドで朝チュンしているかもしれない。
すでに行き遅れ確定の私がうっかり社交辞令を本気にしたら、お互いにダメージが大き過ぎる。そういうわけで、私は意識的にカラムさまと距離を取ることにしていた。
ちなみにだが、カラムさまに婚約者がいないのと同じくらい、うちの兄弟に婚約者がいないことも話題になる。実際私も、早く兄弟の婚約者が決まればいいのにと思っていたくらいだ。そうすれば、私にちょっかいを出してくる女性陣が減るはずだと信じていた時期があったのだ。
けれど父や祖父曰く、物事はなかなかそう単純にはいかないようだ。早めに婚約者を決めた祖父の場合には、毒やら暗殺者やらが飛び交い、なんとも殺伐とした状況に陥ったらしい。その様子はまさに各家の女性陣による戦争だったとか。
恋愛結婚を推奨された父の場合には、惚れ薬やら謎の儀式など怪しげな魔術が横行したそうだ。おかげで父はいまだに、他家で提供される食事を食べることができない。血やら髪の毛やら、信じられないものが混じっていた経験ゆえに信用できないという。お気の毒なお父さま……。
さてそんな父や祖父の話を散々聞かされた私の兄弟はどうなったかというと、かなりシビアな人間に育ってしまった。
例えば、私の現状だって彼らは把握している。言いがかりやらいじめやら、それらのことの発端が自分たちの美貌にあることを理解した上で、彼らは表立って私を助けることはない。
時々、私が兄弟に嫌われているとマウントをとってくる女性がいるが、物事はそう簡単ではないのだ。
自分に降りかかる火の粉は自分で払え。利用できるものは利用し尽くせ。それが彼らのモットーだ。
もしも万が一火の粉を振り払えずに丸焼きになったら、骨は拾ってくれるし、しっかり復讐もしてくれるのだろう。全然嬉しくない。
そして、その条件は彼らの配偶者についても適用されるらしい。
そのため兄弟の周囲にはしたたかというか、たくましい女性たちしか残っていないのだ。美貌の兄弟と結婚したい最強女性決定戦。人間版蠱毒。うちの兄弟は、猛獣使いにでもなるつもりなのかもしれない。
***
薬草を摘み終わり、部屋に戻る途中で珍しくうちの兄弟を見かけた。何せ我が兄弟は、私の安否にも基本的に無関心な奴らである。職場訪問などするはずがない。王宮勤めをしている彼らが、一体どうしてこんなところにいるのか。
朝から押しかけてきた某王宮侍女さんみたいに、気になる相手がいたから研究所に忍び込んできた……ということはさすがにないだろう。これはなにかあると踏み、こっそり近づいて聞き耳をたてた。
「それで、カラム。いつになったら、身を固めるつもりだ」
「僕もできるだけ早く結婚したいと思っているんだよ。とはいえ、彼女は僕なんかには手の届かない女神だからね。彼女が僕を必要としないのなら、近くでそっと見守っていられるだけで満足さ」
親しげな三人の様子、そして初めて聞くカラムさまの想いびとの話に思わず息がつまった。
「カラムさまになびかない女神ねえ。意外と鼻血を出してそこらへんで悶絶しているんじゃないの」
「ふふふ、それはどうだろうね。彼女がいなければ、僕はこんな風に明るい光の下で過ごすことはなかったからね。彼女の嫌がることだけはしたくないんだ」
「『押してダメなら引いてみろ』とは言うけれど、カラムの女神の場合には、『押してダメなら押し倒せ』だからなあ」
「君たちは、僕の女神のことをどういう風に認識しているんだい……」
そう呟いたカラムさまは、廊下の向こう側を見つめてふんわりと笑っていた。初めて見る、優しい柔らかな微笑み。その笑顔の向こう側にいたのは、朝から私のもとでゴネにゴネていた押しの強い王宮侍女さんだった。
兄弟の元に走り寄る彼女を見つめるカラムさまは、確かに先ほどの言葉通り好きな女性を見守っているようにも見える。
そんなまさか!
カラムさまは、うちの兄弟を狙っている女性に恋をしているとでもいうのか? なんとまあ、不毛な恋愛なのだろう。
カラムさまの本命を知って胸がチクチクするのは、ライバルがうちの兄弟で、泥仕合になるのが確定しているから。そう、思い込むことにした。
***
「まったく、あの兄弟と血が繋がっているとは思えないわ。化粧くらいなさればいいのに」
「……仕事柄、不適切ですので」
「爪もこんな風に短く切ってしまって」
「……仕事柄、必要なことですので……」
「ねえ、あなた。どこか具合が悪いんじゃないの? 早退したほうが良いのではなくって?」
「本当にそうですね……」
「あなたがそんな風だと、わたくしも張り合いがないわ。今日はゆっくり休みなさい」
懲りることなくまたもや研究所を訪れていた押せ押せ侍女さんが、実は根は優しいらしいことを知り、私はさらにショックを受けていた。なんてことだろう、いっそどうしようもなく性根が悪いほうがテキトーにあしらいやすく、諦めだってつくのに。
ちなみに化粧をしないこと、爪を伸ばさないことは、薬師として勤める上で大切なことだ。
まず、薬草を取り扱っているから不純物が交じらないように化粧はしないことが望ましい。香水も不適切。薬草は見た目だけではなく、手触りや匂いも重要なのだ。
それから爪は短くするのが鉄則。爪紅は厳禁だ。とはいえ、薬草をすりつぶしているうちに、爪の間が薬草の地味な色に染まってしまうのだが。そして作業中にしょっちゅう手を洗うため、手が荒れやすいことが薬師ならではの悩みだったりする。薬師なのに手荒れがひどいとはこれいかに。
職業婦人としての生き方は私が自分で選んだこと。それなのに、貴婦人然とした彼女を前にして胸が苦しくなってしまうのはどうしてなのか。せっかく会えたカラムさまの顔を見るのも辛い。
「アイリーン、肌荒れに効く軟膏をもらったんだ」
「……私に、ですか」
「こまめに塗るのは作業上難しいだろうから、寝る前にたっぷり使ってみるといい。それだけでだいぶ違ってくるそうだから」
「……ありがとうございます」
「どうしたんだい? どこか具合でも……?」
「本当に、大丈夫ですから!」
普段なら気にならないあかぎれや逆剥けが、とてつもなく恥ずかしかった。彼女のように指の先まで女性らしく気をつけていたなら、カラムさまに好きと伝えてちゃんと失恋できたのだろうか。
我が兄弟に突撃し、そのままナチュラルに回収されていく侍女さんを見送りながら、私は唇を噛み締めた。
***
結局あのあと、早退させてもらった。滅多に風邪も引かず、お腹を壊すこともない私が早めに帰宅したことに、両親含め使用人達も驚いたらしい。おかげさまで、翌日もあっさりお休みをもらうことができた。
ズル休みです。ごめんなさい。でも、昨日の今日で、押せ押せ侍女さんとカラムさまに会うのは辛いんです。許してください。来週からまたしっかり働きますので。
などと神さまに懺悔していたら、自宅に押せ押せ侍女さんがお越しになりました。大きな帽子を目深に被り、幅広のスカーフで顔を覆った姿は、正直不審者である。そもそも誰が屋敷に通したの?
「……だい」
「え?」
「薬をちょうだいと言ってるの。わたくし、知っているのよ。あなた、王家の奇病を治した薬師なのでしょう」
「ちょっと落ち着いてください。まずは皮膚の状態を見せて頂かなければ、お薬はお出しできません」
「何よ、わたくしが醜ければいいと思っているのね! わたくしがあなたに意地悪だったから、仕返しをしているのだわ!」
自分が若干意地悪だったことには、気がついていたんだね。少しだけ意外に思いながら、それでも私はうなずけなかった。
「違います。日頃の行いは、治療には関係ありません。あの薬をお求めということは、おそらく皮膚の状態があまりよろしくないのでしょう。薬は使い方によっては毒にもなりえます。皮膚の状態を確認しないまま、薬を渡すことはできません」
「どうせ、ざまあみろと笑うに違いないわ」
「薬師が笑うはずがないでしょう」
それは薬師としての矜持だ。渋々外した帽子の下の顔は、赤くただれていた。もともと真っ白な肌だったからこそ、余計に炎症がひどく見える。
「何か心当たりはありませんか?」
「とある化粧品を手に入れたの。肌がよりきめこまかくなると評判のものよ」
「なるほど」
もしかしたら強めのピーリング効果があるのかもしれない。あれは、ちょっと使い方が難しいのだ。
「どのように使いましたか?」
「もともと毎日ではなく週に数回、しかもほんの少しで十分とは言われていたの。でも、それでは効果が薄かったから毎日たっぷり使っていたわ」
「おそらく原因はそれですね。何事にも適量というものがあります。度を越えた使用量で皮膚が過剰に薄くなり、炎症を起こしていたようです。まずは化粧水の使用を中止して、肌を保護する軟膏で落ち着かせれば大丈夫です。きっとすぐに良くなりますよ」
「ごめんなさい。わたくし、罰が当たったのね。ひとの話や注意も聞かず自分のことばかり。他人を傷つけた分がこんな形で返ってきたのだわ」
正直、その通りだと言いたくなる自分だっている。けれど、ここで彼女を馬鹿にするのは違うと思った。
目の前にいるのは、どこにでもいる恋する乙女。まあ、少しばかり傲慢ではあるけれども。
後悔する彼女の姿を愚かだと笑うことは簡単だ。けれど、根本は私も同じなのだ。身の程知らずだと思われることが怖くて、カラムさまに気持ちを伝えずに逃げ回る私には、貪欲に愛を求めにいく彼女の強さがまぶしかった。
べそべそと泣き続ける彼女に、使用人が近づいてきた……ってお兄さま? このどさくさに紛れて、どこへ連れていくつもり……。え、なに? 「これならほどほどに使い道がある」って聞こえたような……?
今の言葉は聞かなかったことにしよう。まあ、彼女はもともと自分から粉をかけていたわけで、この先お兄さまたちの役に立つならきっと本望に違いない。
カラムさまの想いはもう叶わないのだな。ただ、それだけがどうしようもなく心に残った。
***
押しの強い侍女さんが嵐のように連れ去られたので、つい油断していたのかもしれない。私の兄弟たちは、カラムさまと親交があったことを私は知っていたのに。
「良かった。具合が悪いわけではなさそうだね」
「え、ちょっ、カラムさま?」
部屋着のままぼんやりしていた私の元に、今度はカラムさまがお見舞いにやってきた。押せ押せ侍女さんのときもそうだけれど、みんな私にアポをとって! 使用人のみんなも連れてきていいか聞いて! って、たぶんお兄さまが許可を出しているんだろうなあ、ちくしょう。
「君は、優しいんだね」
「な、なんのことですか」
「先ほどの件だよ。普段から迷惑を被っている君は、彼女のことを突き放したってよかったはずだ」
「別に言うほど優しくなんかありませんよ」
「でも、薬をあげないとは言わなかった」
「それは、薬師として当然のことです」
「その当然のことができないひとは多いんだ」
困ったようにカラムさまは肩をすくめた。
「何を……」
「僕は、奇病を患っていてね。医者からはさじを投げられていた。彼らはそもそも嫌だったのだろう。万が一治療に失敗したら失脚、毒でも見つかれば政治的な争いに巻き込まれるからね。その結果、僕は不治の病を患った悲劇の第三王子として、幽閉されることになった」
私の脳裏をよぎったものがあった。この大陸で、一定数の人々が患う皮膚の病。それは他人に感染するようなものではなかったけれど、見た目の問題から忌み嫌われていた。その薬の開発に携わったのが、恩師と当時助手だった私なのだ。
「まさかカラムさまは、王宮のお化け王子……?」
「ああ、懐かしい呼び名だ」
「私はただ恩師の手伝いをしただけです。王子殿下にお礼を言っていただくなんて……」
「あの薬に使われた薬草は、君だからこそ配合できたものだ。普通なら組み合わせとして考えられなかったものだよ。外に出られないぶん、ひとり薬学の研究を続けていた僕にも思いつかなかった」
「なんだか恥ずかしいですね」
「君のおかげで、僕はこうやって外を歩けるようになったんだ。そんな君が悲しむ顔は見たくない」
そこで思わず私はカチンときてしまった。
「何でそんなテキトーなことを言うんですか。カラムさまは、好きな女性がいらっしゃるんでしょう? それなのに、私なんかに優しくして。モテない女の惚れっぽさを、カラムさまはご存知ないんです! もうやだ、責任とってくださいよ!」
「僕は、ずっと君のことが好きだったよ。もしも君が僕を好きになってくれたというのなら、喜んで責任をとらせてもらいたい」
「……は?」
カラムさまが、私を好き? 押せ押せ侍女さんじゃなくて?
「困ったなあ。全然伝わっていなかったのかい」
「冗談かと思っていました」
「君のそばにいたくて、王子としての地位を返上して研究所にきたというのに」
爽やかにとんでも発言がきました!
「な、なんで、そんなことを?」
「君が社交界への出入りを疎んじていることは聞き及んでいたからね。王子としての地位は、邪魔にしかならないだろうと判断した」
「ご家族は反対なさらなかったのですか?」
「奇病が治った僕の見た目は相当に魅力的だったようで。僕を担ぎ出そうとする人間もいたから、臣下に下ることは歓迎されたよ。これで、本気だってことは伝わったかな」
「は、はい、なんとなく?」
すごすぎてなんだか現実味がない。そのせいでぼんやりとした返事をした私のことを、カラムさまは逃してはくれなかった。
「なるほど。それならば冗談ではないことをしっかりわかってもらわねばなるまいね」
えーと、つまりどういうこと?
自分の家のはずなのに孤立無援となった私は、その日のうちにしっかりとわからせられたのでした。
***
私とカラムさまの毎日は、前に比べて少し賑やかになった。
カラムさまの口添えがあったのか、行儀見習いの腰掛けではなく、一生の仕事として王宮で働く女性も出てきているらしい。
少しずつ変わっていく世界をカラムさまと眺めていきたい。そう願いながら、私もまた薬師として働き続けている。