新訳『ジェヴォーダンの獣』
むかしむかし、ある所に1匹のケモノがおりました。
ケモノは群れの中で生きていました。オオカミの群れの中で生きていました。
ケモノは産まれたときから他のオオカミの子供たちより身体が小さく、そして左の耳が欠けた状態で産まれてきした。
また、他のオオカミたちの毛の色が美しい灰色だったのに比べて、ケモノの毛は星のない夜空のように真っ黒でした。
他と異なる者を排除しようとするのは動物の本能なのか
オオカミたちはケモノにとても冷たく当たりました。
ケモノは産まれたときからそうでしたから、それが普通のことだと思っていました。
自分が他のオオカミたちより小さいから。片耳が欠けているから。皆のように美しい灰色の毛をしていないから。自分がおかしいのだから、痛くても苦しくても仕方ない。
ケモノはそう思って生きてきました。