1 はじまり
これはとある島国―――いくつもの島で形成された国のお話、元は統一された国であったが今ではばらばらの勢力で争い続ける戦国の時代であった。
島国の名は日輪連邦国、大陸からは輪国とも呼ばれる。
4つの島に多数の小島で連なる自然豊かな国で、金銀などの鉱産物が豊富にとれる秘境と呼ばれることがあった。
その中で最も価値を見出されたのは桜化石と呼ばれる石である。
これを利用することで魔力を補うことができると大陸の魔法使いから重宝されていた。
各勢力はこの桜化石の鉱山を手に入れることで大きく勢力図が変わっていった。
4つの島のひとつ、玖邦と呼ばれる島でもそれは同じことであった。規模の大小関係なく有名な鉱山は5つ存在する。
所有するのは500年前より朝廷より領地を任されていた5つの豪族であった。湯縞、縞音、珂縞、立縞、縞隈、この5つの家を玖邦五家と呼ぶ。
彼らは桜化石は神より委ねられた神聖なものと信じて疑わなかった。
むやみやたらととらず採石するのは一定量、そして神にお礼を申し上げて自然の恵みを約束してもらうというならわしであった。
しかし、島国の大部分を占める島、本邦の勢力はそれを是としなかった。
本邦にも桜化石はたくさん存在していたが、50年前から一気に採石量が激減し微々たる量しかとれなくなったという。
本邦の彼らからすれば玖邦は宝の島のように見えたことだろう。
本邦の大部分の領地を勝ち取った、富貴嶋はこの玖邦の富に目がくらみ、多くの部下を派遣して玖邦五家に介入した。
うち一つの珂縞家は富貴嶋の横暴さに我慢できず挙兵した。
激しい戦いであったが、2年経過したところでお互い疲弊し和睦を行うことになる。
珂縞の桜化石の採石量は珂縞が決め、その分の3割を富貴嶋に献上する。それで戦は終わるはずであった。
富貴嶋の部下、玄今家は珂縞家をだまし討ちし和議交渉の場に訪れた珂縞棟梁を打ち首する。待機していた家臣らも打ち首となり、彼らの子息・子女も狩られることとなった。
棟梁夫人は屋敷に火を放ち自害、嫡男は逃亡中に捕まり打ち首、長女・ちより姫は追手が迫る中母の死を知り川へと身を投げた。これにより珂縞家は滅亡した。
◆ ◆ ◆
『ちより姫身投げ』
珂縞家の悲劇を琵琶曲にしたもの。その響き、歌は悲しみの曲で人々の涙を誘う人気曲となる。
〜〜母の死を嘆きながらも姫には休む時間はない。
姫が隠れていた山寺も場所が判明し、追手がさしかかる。
侍女を伴い荒れた山を歩き逃げ惑う。
白い滝のところで、ついに追手に見つかってしまう。
このまま姫は捕らえられそうになる。
「姫さま、もはやこれまでです」
吊り橋のところで侍女はそう口にする。
姫は侍女を抱きしめ今までの苦労を労う。
追手はますます姫に近づいてくる。
敵に辱められるのを否とし、姫は身を投げる。
姫の身柄を確保せよと命じられた追手はみな吊り橋の下へと降りていく。生き死に関係なし、姫の死の確認が何よりもの優先であった。
姫の最期を見届けた侍女は涙を流しながら持っていた小刀で首を切る。
悲しい物語であった。
人々は姫の死を嘆き悲しみ、この滝を姫滝と呼ぶようになった。〜〜