14話 こじれた関係
三人は今、リリカの部屋の中にいる。
リリカはピアノの椅子に腰を下ろし、フェレスはベッドに、フィーネは彼女と手を組みその隣に座っている。
「マスター……この状況に何か違和感はないの?」
「何ですか? フェレスちゃん」
フェレスは自分の肩に頬ずりしてくる、この出会ったばかりの少女に、真顔ながら少しだけ嫌そうな声音で言った。
「気持ち悪いからやめて」
それに対しフィーネはニヤ付きながらフェレスの肩を舐め始める。
フェレスは大きな溜息を吐き心底嫌そうに顔を逸らしたが、フィーネはそんな事には気に掛ける様子もなく、何かを語り始めた。
「ふひひ……いいじゃないですかぁ……。このキメ細やかで輝くような白い肌……お人形さんのような整ったお顔……成長途中の何とも言えない控えめな胸の膨らみ……太腿は細いけれど、それが逆にかえってエロスを感じさせるんですよね……。安直に肉感的に太い"性"を前面的に押し出した魅力とは違って、なんて言えばいいのかしら……ふふ……触れがたい少女性、とでも言いましょうか? 綺麗で美しくて、天上の天使のような汚れを知らない少女を前にして、逆に、それを傷付けて永遠に汚したくなるような……そんな劣情を感じさせるほどの透明感があり、尚且つそれを絵画的なレベルでまとめ上げた存在がフェレスさんだと思うんです……ふひひ、にへへ……ほら、見て下さいよこの輝くような純粋な瞳。線の細い腕。そしてやっぱり触りたくなる柔らかな太腿……ふひひひひっ……あぁ、この肌の質感が私の劣情を無限に加速させるのですね……吸い付くような触感ではなく、さらりとした無機質な、それこそドールのような……愛くるしく反抗的な触り心地……たまりません……」
「本当に気持ち悪い……」
フィーネはフェレスのスカートの中に潜り込み、遠慮無く太腿に頬ずりする。
「ふひ……フェレスさんの太腿、ひんやりしていて気持ちいいです……。パンツ、脱がせてもいいですか……?」
「ダメに決まってるだろ……。マスター、こいつ早く追い出そう?」
「でも追われてる身ですし、一応話だけは聞いてから……」
「マスターは私のこと心配じゃないの……?」
フィーネはフェレスのスカートから顔を出しフェレスの言葉に反論する。
「心配なんていりませんよ! 私は立派な淑女ですから、フェレスさんをきっと幸せにしてみせます!」
「変態淑女なのは認めるけど、それはそれとして私は今気持ち悪い」
「もういいですから。フィーネさん、早く事情を話してくださいよ……」
促すリリカに、フィーネは咳払いしフェレスの隣に腰を下ろす。
フェレスは少し距離を開けるが、フィーネもフェレスが退いたぶん、いやそれ以上に距離を詰める。
彼女は真剣な顔になり、今までの成り行きを話し始めた。
「ではまずは再度、私の自己紹介から……。私はライディアナ王国の東部に位置する辺境の地を治める「オペレッタ家」の長女、フィーネ・フォン・オペレッタですわ。オペレッタ家は、周辺諸国は元よりライディアナ王国内でも全くの無名であり、領土は少なく地位も低い下級貴族の階級です。ですので、リリカさんやフェレスさんが私を知らないのは当然と言えば当然です」
フィーネはフェレスの太腿を撫でながら続ける。
「しかし、一部の貴族階級の中ではその話が変わってくるのです。オペレッタ家は公爵号こそ持たないものの、ライディアナ王家の血を引く、正統な王位継承権を持つ家系でもあるのです。そのため、権力的な実体こそ伴っていないものの、周辺諸侯からは強く危険視される立場に置かれています……」
フェレスに払われた手を再度彼女の太腿に乗せ、揉みながら続ける。
「そして問題なのは、ここ最近、ライディアナ王宮の保有する国宝……それも、国を象徴するほどの神器が盗難に遭ったという噂があるのです。私はその噂に直接的な関与はないのですが……オペレッタ家は無実の罪を圧し着せられ、お父様とお母様は収監され、領土も地位も財産も、何もかもを没収されてしまったのです……」
フェレスは無理矢理フィーネの手を引き剥がそうと苦心するが、フィーネはフェレスのスカートを捲り、太腿の付け根を撫で続ける。
「私だけは何とか逃げおおせたものの、追跡までは撒くことが出来ず……」
「それで、ここまで逃げて来たってわけですね?」
「はい……」
嫌がるフェレスは壁際まで退き、フィーネは執拗にくっつきに行く。
「それで、盗まれた国宝っていうのは何なんですか? 宝石とか剣とかですか? それとも大昔の絵画とか……」
リリカの問いに、フィーネは目を細め、答えた。
「楽器ですわ」
彼女の回答に、リリカは自らの背後にある"それ"へと振り返る。
黒光りする悪魔のグランドピアノ、"メフィストフェレス"……。
フェレスのこのピアノは……リリカが集積場から無断で持ち出したものだ。
「まさかその楽器って……」
リリカが言い終える前に、彼女はハッキリとこう言った。
「ピアノですわ……」




