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12話 どっちがいい?

 リリカはいつも通り教会でのミサ合唱を終え、名残惜しそうに家への帰路につく。

 朝のきれいな青い空の下、農作業をする村人たちに挨拶をしながら、リリカは目の前を歩くフェレスに聞いた。


「フェレスちゃんは、あっちの世界から来たんですよね?」


「うん。ろくでもない最悪の世界だった……。地上には毎日のように核弾頭の雨が降り注いで、地下シェルターにはわずかな物資で暮らす生き残りの人類が、いつシェルターが壊れるか戦々恐々としながら暮らしていた。上院議員は地上を支配する暴走したAI兵器たちに為すすべなく全てを諦め、人類は今にも機械生命体にその存在意義を譲ろうとしていた……。第四次世界大戦……今思い出すだけでも、背筋が冷たくなる光景だった……」


 フェレスは青ざめた顔でそう語り、震える体を抱いてうずくまる。


「それは酷い世界ですねー。で、実際はどうだったんですか?」


「別に、神才が語った通り。特に私が補足するようなことは何もない」


 フェレスはケロッと真顔に戻り、少し先を歩くリリカの隣まで駆けてくる。


「私の世界の話なんて、急にどうしたの? マスター」


「いえ、少しだけ羨ましいだけです。物が沢山溢れていて、平民でもピアノやギターを簡単に買えるんですよね? それって最高の世界じゃないですか! そりゃあ天才的な音楽家が沢山出てきても何もおかしくないですよ……」


 リリカの言葉にフェレスは腕を組み考え込む。

 そして、気の利いた言葉が思い浮かんだといった顔で、自分の考えを話し始めた。


「今日の晩御飯はカレーがいいと思う。久々にお米が食べたい」


「フェレスちゃん、私の話聞いてましたか……?」


「うん。物が沢山溢れていて、楽器も簡単に始められて羨ましいって話だよね」


「だったら関係ない話を始めないでください~!!」


 リリカの要求にフェレスは大人しく従うことにした。


「確かに、そういう面ではいい世界だったと思う。だけど、いい面ばかりではなかったのも確か。現代はサブスクや動画配信サービスで簡単にうまい人の演奏が目に入る。これは音楽に限らず、クリエイティブ系の趣味全般に言えることだけれど、上を目指そうと思ったら、いくらでも上が目に入る世界ってことでもある。それって、心の弱い人にとってはすごく過酷。井の中の蛙ではいられない世界だから」


 サブスクが何かリリカには分からないが、フェレスの言いたいことはよく分かる。

 つまり、上には上がいるということがすぐに分かってしまう。

 物事を始める敷居が凄く高くて勇気がいる……ということだろう。


「でもそれって、幸せなことではないでしょうか……? いくらでも人の演奏が参考に出来るってことですよね……?」


「マスターみたいな戦闘民族はそうかもしれないけど、世の中意外とマスターみたいなタイプは多くない」


「そういうものですかぁ……」


「だから私はマスターを選んだ」


「えへへ~! それは光栄ですね!!」


 そうこうしているうちに、二人は家へと帰ってきた。

 リリカは父から二組の軍手を貰ってきて、その片方をフェレスに渡した。


「さあ! ちゃちゃっと農作業を終わらせて、残りの時間を全部ピアノに充てちゃいましょう!!」


「ケケケ……私の悪魔の力で農作物を全てピアノに変えてやる……」


「それはとても儲かるので却ってありがたいことなのでは……?」


「本当にいいの? おいしいお野菜が食べられないよ? マスター……」


「私としてはピアノ以上に価値のあるものは……」


「……今回はマスターにピアノ系の冗談を言った私の負け」


「冗談だったんですか!? 沢山ピアノが弾けると思ったのに~!!」


 頭を抱え絶叫するリリカの裾を掴み、フェレスは真顔のまま言った。


「私で我慢して、マスター」

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