第7話《おひる!おひるなのよ!》
「いってらっしゃーい!」
「有松のばかーーーーーー!」
間に合うといいなぁとか完全に他人事な感じで俺は鈴郷さんを見送った。鈴郷さんは全力疾走だった。寝癖も直してない。
さて、俺は鈴郷さんが帰ってくるまで掃除他、洗濯とかやっておこう。だいたい、それしかやることないしね。
※
有松め。
なんとか遅刻は免れた。本当にギリギリだったけど。これも偏に私の健脚があったからこそ。この脚をくれたパパママに感謝をしながら有松を怨んだ。
おのれぇ。
お蔭様で汗だくだ。ベタベタするし、ちょっと汗くさいし。しかも朝。これで一日過ごせって?最悪。
とりあえず休み時間にウェットティッシュで身体を拭いてみたけど、いまいち、違和感までは拭えかった。
むしゃくしゃしたので午前の授業は寝て過ごした。
……。授業の内容がわからなかったから、ふて寝したわけではないわよ?
気がついたらお昼になっていた。
「おひるー」
わたしの表情に笑顔に戻る。学校に何しに来ているのか?と問われれば、私は迷わずおひるを食べに来ていると胸をはって宣言するだろう。それに今日わー、ふふふー。
「あ、すずちゃんが起きた」
どこかぽやぽやっとした女の子――咲夜がふらふらと私の席の近くまでやって来ていた。ちなみにすずちゃんは私のことね。名前で呼ばれるのが嫌いなのでそう呼ばせていた。
「咲夜!おひるよ!おひるなのよ!おひるを食べるわよ!」
「すずちゃん、おひる言い過ぎー」
にこにこと笑う咲夜。くっ、かわいいな、この娘。
「咲夜は机並べて、私はおひるになってもまだ寝てる寝ぼすけを起こしてくるから」
「さー」
せっせと机を動かし始める咲夜。ひとつ、ひとつの動作が一々かわいい。くっ、これが萌えやつなの?まあ、いいわ。私が向かうのは教室の窓際一番後ろの席。そこには今だに机に顔を伏せてお休み中の女の子が一人。
「おひるよ!ほたる!いつまでも寝てないで、さっさと起きなさい」
躊躇なくパシンと私はほたるの頭をひっぱたく。
「……んー……すず?」
「おきた?おひるよ、ほたる」
「……」
「ほたる?」
「……今日はいい。食欲ない」
起きたみたいだけど、いまいちほたるは元気がないみたい。
「とりあえずこっち来なさい。べつにおひるは食べなくてもいいからさ」
「……」
ほたるは無言で立ち上がり、私について、咲夜が並べてくれた机に向かう。
やっぱり元気がない。最近なんかいつもこんな感じだ。普段からほたるは無口な娘ではあったけど、この無言は無口だからという感じではなかった。
「さあ、おひるー。そして、見なさい!」
席についてわたしは、じゃんじゃじゃーんと効果音。高々とかわいらしい花柄の布で包まれたお弁当箱を掲げた。
「あれ?すずちゃん。今日はカップラじゃないの?」
「私もたまには普通のお弁当食べようかなーってね。もちろん手作りだから!」
有松の、と最初に入るけど。あえてつけない。普段、当然カップラな私。だけど、今日は家を出る間際に有松に手作り弁当を渡されていたのだ。有松はいいお嫁さんになれると思った。
「すずちゃんの手作り!?すごーい!すずちゃん料理できたんだね!」
案の定、盛大に勘違いしてくれた咲夜。ふっふー、これで、私も少しは女の子らしいところ見せられたわね。
普段から、がさつだ、おおざっぱだ、女の子らしくないと言われてたのが実は、ちょっと悔しかったりしていた。
「ねぇ、ねぇ。すずちゃん、すずちゃん。私、早く、お弁当の中身見てみたいな」
「ふふふ、多分びっくりするわよ」
まだ、私も中身を見てはいないが、有松のことだから、日の丸弁当ってことはないと思う。なんでって聞かれればなんとなく、としか答えようがないけど、私は確信してた。有松ならやってくれるって。うん、なんとなくだけど。
「それじゃ、あけるわよ」
ぱかっ。
「おおー」
「おおー」
「す、凄いね、すずちゃん!なんてゆうか、なんか凄いね、すずちゃん!」
「そうね。私もびっくり」
「んー?なんで、すずちゃんがびっくりしてるの?これ、すずちゃんの手作りじゃないの?」
「な、なにいってんのよ!もちろん、手作りに決まってるじゃない!」
嘘はついてない。故意的に主語は抜かしてるけど。
「すずちゃんお料理上手なんだね!いっつもカップラばっかりだったから、てっきりお料理なんて出来ないのかと思ってたよ!」
ぐさり、と咲夜の笑顔がわたしの心に突き刺さる。いたい。いたい。その笑顔がすごく痛いわ、咲夜。そんな汚れをしらない微笑みでわたしをみるんじゃねーよ。ちょっと廃れた。
「ほら、みて、みて、ほたる!これ、手作りよ!すごいでしょ!」
とりあえず自慢したかったのでほたるにも有松弁当を見せ付ける。
「……」
だけど、やっぱりほたるは無言。元気がない。上の空だった。