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第6話《理由とかないから気にしたらいけない》


「……なにこれ?」


顔を洗ってスッキリした私。そういえば有松を住まわせてあげることにしたんだと思い出した。


昨日、一緒に寝たし。あえて、大いに誤解されるであろう言い方で言ってみた。


そして、ダイニングに戻ってきた私はテーブルの上に並べられた、いかにも健康的なTHE朝ごはん。白いご飯にお味噌汁、焼き魚にその他。を見た第一声がそれだった。


「朝ごはん」


有松が言った。


「鳥ガラ」


私も言った。


「鳥ガラ?」


「朝は鳥ガラ!じゃなきゃいや!」


「なるほど。朝は鳥ガラなのか」


「朝はカップラじゃなきゃいや!こんな健康的なもの食べらんないわよ!」


ずびしと並べられた朝ごはんを指差して私は言う。


「まあ、鳥ガラではないけど食べてみないか?」


「せっかく作ってくれたのに悪いけど。片付けて。朝からこんなの食べらんない」


私は不機嫌を隠そうともせずに有松に冷たく言い放つ。


「そうか。わかったよ。でも、勿体ないから俺が食べてもいいか?」


でも、有松は落ち込んだ様子など微塵もみせなかった。


「まさかとは思うけど本当はそれが目的だったんじゃないの?私が食べないって言うのを予想済みで。自分がいっぱい食べたいから」


寝起きは性格が悪いらしい。妹の有灯が言ってた。人間として最低だとか。自覚はないけどそうらしい。だからだろうか、言わなくていいことまで私は言っていた。


「いや、いや。流石に俺もこんなものはいっぱい食べたくないから」


こんなもの?


「こんなものってなによ。あんたは私にこんなものを食べさせようとしてたの?」


僅かに眉間にシワが寄るのがわかる。


「言い方がちょっと悪かった。これはな、鈴郷さん専用の味付けになってるから俺にはちょっとあわないんだよ」


「はぁ?私専用の味付け?」


「そう。とりあえず一口食べればわかると思うよ?」


「……むぅ。わかったわ一口だけ食べてあげる」


渋々といった具合に納得した。


「まあ、いつまでも突っ立ってないで、座って、座って」


「……」


ぶすっと無言のまま席に着いた。


私専用の味付け?何をわけのわかんないことを。有松が私の何を知ってるっていうのよ。


「それじゃ」


「いただきます、は?」


「……むぅ。い・た・だ・き・ま・す」


はん!こんな健康的で美味しそうな料理なんて一口食べたら吐き出してやるわよ。ああ、絶対、これ美味しいわよ。やってらんないわ。


がっと箸を掴んで、とりあえず焼き魚の身を解して一口食べた。


もしゃもしゃもしゃ。


「有松」


「ん?」


「だいすきー」


その時の私の表情といえば、それはそれはだらしがないほどに緩みきっていたことだろう。


だってね。


なんかね。


この焼き魚、カップラの味がするの!


なんでとか?そんな疑問より先に箸が進む。進む。むしろ、進め!もっとはやく!


焼き魚に続き、だし巻き卵からその他。そして、味噌汁、さらには白いご飯まで。その全部が全部カップラの味がした。





「どうなってるの!」


「理屈なんてない。それがそこにそういうふうに存在してるんだから、そういうことなんだよ」


「なるほどね。って、そんなこと言ったってわかんないわよ」


「まあ、気にするなってことだ。カップラ味の朝ごはんでなにか問題あるのか?」


「問題ありよ。凄く嬉しいじゃない」


「ちなみに材料にカップラは一切使用しておりません」


「ばんなそかな」


「ところで、鈴郷さん」


「why?」


「なんか、返答がおかしい気が……。まあ、いいか。で、鈴郷さん。鈴郷さんは今まで三食カップラだったんだよね」


「私はもうカップラ無しじゃ生きられない身体になってるの」


「あ、そうだ。whyって何故?って意味だった。鈴郷さん、ちゃんと英語勉強してる?」


「う、うるさいわね。英語なんて出来なくても。生きて行けるわよ」


「鈴郷さんは成績よくないのか?」


「う、うるさいわね!べ、別に勉強なんかできなくても生きて行けるわよ!つーか、そういう有松はどうなの?成績いいの?」


「俺は勉強できたってしかたないから」


「ニートだもんね」


「ニート言うんじゃねーーーーーーー!」


「で、有松の在学中の成績はいかほど?」


「学年11位」


「1が二つも並んでる!?嘘よ!私そんなの信じないんだから!」


「俺は奨学金で学校通ってたからさ」


「なによあんた!家事できて、勉強できるなんて!欠点は!?欠点はないの!」


「貧乏?」


「なんかごめん」


「気にしてないよ。それで、話を戻すけど。鈴郷さんは三食カップラだったのに、なんで冷蔵庫の中身は至って普通なの?」


「青狸」


「は?」


「電気鼠」


「はぁ?」


「アメリカ鼠」


「ちょっ!?」


「サイレントライン。それは越えてはいけない境界。身分を弁えなさい。言っていいことと、悪いことがある。今、私に言えることはそれだけよ」


「ようするに、この話題はこれ以上触るんじゃねーよってこと?」


「飲み込みが早くて助かるわ」


「青狸と電気鼠はともかくアメリカ鼠はネタにするのは危険だしね」


「ところでどっこい」


「どっこい」


「なんかいいわね」


「なにが?」


「ところでどっこい」


「どっこい?」


「うふふー」


「だから、なに?」


「で、有松」


「はい、はい?」


「あんたはなんで、そんなに家事万能なの?」


「万能って、ほどでもないと思うけど。ウチじゃ家事やるやつが俺意外にいなかったんだよ。だから、しぜんにね」


「へぇ。私とは真逆ね」


「家事はお母さん?」


「メイドさんよ」


「ひょっとしなくても鈴郷さんはお嬢様?」


「らしい」


「らしい?」


「私はじぶんのことふつうだと思ってるわ」


「なるほど。本物のお嬢様はお嬢様だって自覚がないわけか。それはそうと、鈴郷さん」


「なに?」


「今日は平日だよ」


「ん?そうね。だから?」


「随分ゆっくりとしてるけどさ。ここから学校まで何分かかるの?時間大丈夫?」


「……あ」


「……」


「きゃーーーーーーーーーーー」


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