第38話《砂糖と小麦粉などを混ぜたものを細く切ってオーブンで焼いたものにチョコを塗ったくったもの》
「あきた」
かれこれほたると衣菜ちゃんの決着がつかないままツイスターを初めて3時間ほどが経過した。
初めのうちは美少女二人のあられもない姿に興奮していた私だが、流石にこうも長引くと飽きる。
両者一歩も退かずの一進一退の攻防。一向に引かない二人の激突――というかただの意地の張り合いなわけで。飽きる。
二人の有松への執念恐るべきね。
このままだと一向に決着がつかなそうなので強制終了を執行する。
「せい」
「「うわっ!?」」
ツイスターのシートを思いっきり引っ張った。
二人はものの見事にバランスを崩し折り重なるようにして倒れる。
「はい両者ダブルノックアウトに付き、この勝負引き分け!むしろ私の勝ちで!」
カンカンカーンとゴングを鳴らす。
「待ちなさいよ!まだ勝負はついてないわよ!ていうかあんたが勝ちってなに!?納得いかないわ!」
「そうだぞスズ!この戦いはどちからが力尽きるまで終わらないんだ!」
当然の如く、二人のデモ勃発。だけど今の私は独裁者!二人のデモなんて駄々をこねてひねり潰す!
「だってつまんないんだもん!飽きたんだもん!」
わーわーと喚いて、床を転げ回る。そんな私に呆れて二人は深く溜め息をついた。
「まったくスズは……子供じゃないんだから」
「私まだ16だもーん!未成年だから子どもだもーん!」
「しょうがないわね。お子ちゃまの鈴郷には300円あげるからこれでなんか買ってきなさい」
「わーい!衣菜お姉ちゃんありがとー!」
「うぅ、今月の生活費が……大事に使ってね!」
「今さらりと大切なこと言われた気がするんだけど!?使いづら!この300円使いづら!」
とそんな感じに紆余曲折。無理矢理に引き分けにしてはみたものの釈然としていない赤緒バカ二人。
「仕方ないわね……よし!じゃあ二回戦やるわよ!」
こうして赤緒争奪戦の二回戦が始まった。
「よし望むところね」
「負けないからな」
バチバチと火花を散らす二人。
「で、勝負の内容は?」
「ちょっと待ってて」
ダッと台所に蝶のようにダッシュして、目標のブツを確保してまたダッシュで蜂のように舞い戻る。
「ジャジャーン!ポッキー!」
私が高々と掲げたのはスナック菓子のポッキーだった。あなたも私もポッキーだ。ちなみにポッキーのチョコをぬりたくる過程は企業秘密だとかなんとか。けしてオッサンが手作業で一本一本塗りたくってるわけではない。
「ポッキー?」
首を傾げる衣菜ちゃん。
「まさか……」
私がなにを言い出すのか感ずいたのか、ほたるは顔を引きつらせていた。
「はい、では二人にはポッキーゲームをして貰います!」
「はぁ!?なんでポッキーゲームなのよ!?それで勝負ってなんなのよ!?!」
「ほほん。衣菜ちゃんは出場を辞退。ほたるの不戦勝ー」
「なっ!待ちなさい!やっぱりやる!やるから!誰もやらないなんて言ってない!」
ふん、ちょろあまね。まんまと私の口車に乗っかりおったな!
「じゃぁルール説明ね。二人でポッキーの端と端をくわえてそれぞれが食べ進めていく。で、先に相手にチューした方が勝ちね」
「コラ待て鈴郷ッ!!それ根本的にポッキーゲームと違う!」
「はい衣菜ちゃんは出場を辞退ー」
「ぐ……ちょっと粟野!あんたからもこのオタンコナスになんか言いなさいよ!」
衣菜ちゃんはほたるに助けを求める。当の助けを求められたほたるはと言えば……完全に目が据わっていた。
「すべては有松のため……新高さん。私の覚悟は決まっている」
がしりとほたるの手が衣菜ちゃんの両肩をとらえた。
うん。ほたるなんだか男前。惚れちゃいそう。
衣菜ちゃんも衣菜ちゃんで頬を紅潮させていた。まさか脈有り!?
「あ、粟野……そ、そんなダメよ……私には……」
「今日だけ……今日だけでいい!今日だけは私だけを見てくれ!」
「粟野……」
「新高さん……」
「わかったわ……今日だけならいい――わけないでしょー!!バカなの!?バカだよね!?バカ以外はみてめない!このバカー!」
「まあ、なんでもいいから早くやるやる。はいポッキー」
ポッキーをぐいっと衣菜ちゃんの口に突き刺す。
「ふぐっ!?」
「よし。ほたるゴー!」
「はぐっ」
私のゴーサインと同時にほたるがはむりと衣菜ちゃんが喰わえたポッキーの反対側を喰わえる。そして――。
「ぱきぱきぱきぱきぱきぱきぱきぱき」
「んーー!?」
物凄い速さでポッキーを食べ進める!
まさに速攻!高速!悪即斬!いやまて、最後のはただの斎藤で関係無いわね。それにしてもなんたる速さ!ほたるの残像が見える!衣菜ちゃん遅い!遅すぎる!
「むちゅー」
「んーーーーーっ!?!!」
そして、ほたるの唇が衣菜ちゃんの唇をとらえた。
あ、ホントにした。と、完全に私は他人事だった。
「むちゅー」
「んー!んーー!?んんんっ!!」
嫌がる衣菜ちゃんを逃がさぬようにほたるの腕が衣菜ちゃんの腰を強く抱き締める。紅潮する二人の頬。背景には百合の花々が咲き乱れた。
いやー、美少女同士のチューとかたまりませんなぁ。じゅるり。つーか、長いわね。
「――ぷはっ」
と、やっとという間の後に二人が離れる。そして衣菜ちゃんはよろよろとよろけ、ガクリとその場に崩れ落ちた。
「わ、私の初めてが……初めては好きな人と夜景の綺麗な小高い丘の上でって決めてたのに……いや、でも女の子同士だから、今のはのーかうんと……ぶつぶつぶつ……」
どんよりした空気を発して衣菜ちゃんはぶつぶつとなにか呟いている。御愁傷様。
「ほたる、あんたなかなかやるわね」
「……なんだろう。凄い体が火照って……スズ……」
熱に浮かされた表情でほたるがこちらを向く。
えまーじぇーしーこーる!なんかとっても嫌な予感がするのですけれど!
私は迷わずほたるの頭からバケツで水をぶっかけた。
「冷たっ!なにするんだスズ!」
「いや頭冷したほうがいいかなーって」
びしょびしょの美少女。
「とりあえず、あれね。今の勝負はチューしたタイミングがお互い同時だったから引き分けってことで!さーて!三回戦いってみよーか!」