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第34話《愛って痛いモノなんですよ?》


「きょーなちゃーん!ただいまー!」


久しぶりの我が家。玄関のドアを開け叫んだ。どたばたと家の中から音がする。


「カスミ先輩!!」


姿を見せたのは当然キョウナちゃん。3ヶ月振りのキョウナちゃんはちょっと髪が伸びたような気がする。


「お帰りなさい!」


走ってきたキョウナちゃんに飛びつかれる。


「ただいま」


それをしっかりと受け止めて、改めて言った。ぐっとキョウナちゃんを抱きしめる腕に力を込める。


「まったく毎回毎回、突然いなくなっては突然帰ってきて、今回は早々に連絡がつかなくなりますし……」


「ゴメン、ゴメン。家出る時携帯充電するの忘れちゃってさ」


「コンビニで充電器でも買えばよかったじゃないですか」


「いやまてキョウナちゃん。あの代物は危険だぜ?アレは通信装置になっていてだな。充電したら最後、悪の秘密結社に個人情報が送信されて死ぬまで付け狙われるって話しだ」


「もう、また妄想ですか?そんなわけないじゃないですか」


「だってそうでもないと、あんな安価で小型軽量化された高性能窮まりないモノに説明つかないじゃないか。でなきゃ利益がでない!」


「……なにか根本的な部分で間違ってますね……」


はぁと溜め息を一つ。やれやれと言った具合だ。


「まあ、なにはともあれ、帰って来てくれたんでいいとします」


ぎゅっと抱きしめられて、ぐりぐりと顔を押し付けられる。


そっと俺はキョウナちゃんの頭を撫る。ふわりといつもの香りにただ幸せな気分になる。


「では先輩」


「……ん?」


「早速なんですけど……しても良いですか?」


顔を赤らめ俺を見上げるキョウナちゃん。


「はは……本当に早速だね……」


「先輩がいない間、私ずっと我慢してたんですからね?」


「あんまり激しいのは勘弁ね」


「ダメです。もうめちゃくちゃにしちゃいますから」


「えーっと……まだお昼だし……」


「時間帯なんて関係ありません。それにこの家には私と先輩の二人っきりです。誰にも邪魔なんて出来ません」


「いや、ほらさ。あんまり大きな声を出すと近所迷惑かな、と」


「ふふふ、そうですね。それならそれでいいじゃありませんか。私達の関係はみなさんに隠すようなことなんですか?私達は夫婦なんですよ?」


「そ、それはそうなんだけど……」


「先輩」


「はい?」


「今夜は寝かしませんよ」


「……ははは」


それは大層渇いた笑いだった。


ギシギシギシと何かが軋んでいるような音が聞こえる錯覚。


これはそう、


俺の背骨が軋む音。


「あの……キョウナさん?」


「どうしました」


「気の性かも知れないから一応聞くけど……なんでそんなに抱きしめる二の腕に力が篭ってるの?」


気の性レベルでは確実に済まない力だったけど、そこは痩せ我慢。


正直な話し、臓物的な何かが口から飛び出てきても不思議じゃない剛力だった。


「抱きしめる?なにを言ってるんですか?」


心底なにを言っているのか解らないのか、キョトンと小首を傾げるキョウナちゃん。その仕草が可愛くてキュンとした。まあ、そんな場合じゃないんだけど。


そしてキョウナちゃんはニコリと微笑み言った。


「これはベアハッグです」


ベアハッグとはプロレスで使われる締め技の一つで、相撲の鯖折りに類似しているため鯖折りまたは熊式鯖折りとも言われている。


プロレス技である。


両腕で相手の胴回りを抱き込み、絞り込むように締め付け、背骨から助骨にかけて圧迫するのである。まさに今の状況そのまま。


プロレス技である。


決して夫婦が再会し抱き合っている時にするものじゃない。


プロレス技である。


「カスミ先輩」


「……は、はい」


呼吸が苦しくなってきた。掠れ掠れに返事をする。


「知ってますか?人を逆さまに吊すと頭に血が昇って気絶出来なくなるんですよ」


なんで今その話しをするのか。ぞっと背筋を寒いものが駆け上がっていく。


「気絶出来ないんです。意識を失えないんです」


奇妙なほど楽しげにキョウナちゃんは笑う。


「そう、どんなに痛くても、苦しくても、泣いても、喚いても、ね。意識を失うという方法でそれから逃げることが出来なくなるんです」


――笑う……。


その瞳の奥には、一握りの悪戯っぽさが滲んでいる。上気し赤らんだ表情、大きな呼吸を繰り返し、繰り返し、そしてキョウナちゃんは……――。


「ふふふ、先輩……今夜は寝かせませんよ?」


――笑う……。


意識が暗転する。そんな中俺はやっぱりフルコースが待っていたかと、あまりに予想通りの展開に恐怖とも安堵ともつかない感情に支配されていた。


「今はおやすみなさい。でも、起きたらお仕置きを始めますよ。一人ぼっちはとても淋しかったんですからね?」


俺が意識を取り戻し、そして意識を失えなくなったのはそれから数分後のことだった。





「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゜あ゛あ゛あ゜あ!!!!」


「はぁ……はぁ……良いですよ!凄く良いです!もっと大きな声で鳴いてください!!」


「ガガガガガガガガギガギギガッッッ!!!!?!」


「もっと!もっとたくさん!こんなんじゃ全然足りません!もっといけます!まだまだ頑張れます!ほら!ほらぁ!!」


「ピギャアアアアアアアアッ!!!!」


「うふふふ……」


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