第33話《椅子》
前回のあらすじ。
うわー!うわー!どうしよう!?あ、有松と二人っきりだ!!
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有松がいれてくれたお茶……これを飲んだら……間接キスかッ!?いやまて、そんなわけないだろ!
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有松が私のことを凝視しているんだが……心なしか目線が下を向いているような……。
※
ちょっとまて!ちょっとまってくれ!!私はなんでこんなに有松から褒められているんだッ!?スタイルがいいとか、素敵な肢体だとか、ギャップ萌えとか……ま、まさかッ!?有松は私のことが好きだったのかッ!?いやいやいやいやいやいやいやまってくれまってくれまってくれまってくれまってくれ!!そんなことがありえるのか?いやでも有松はこんなことを軽々しく言う奴じゃないし……となるとやっぱり有松は私のことが……うわー!うわー!?どうしよう!どうしよう!?そんな急な展開、流石に予想していなかったぞ!?心の準備だって出来てないぞ!?いやでも、ほたる。ここで引き下がってもいいのか?折角のチャンスだ!当たって砕けろだ!
※
あはは、さあ、私と契りまっしょー。
※
要約。粟野ほたるさんはキャラが崩壊したのでした。
「おっはよーーぅ!!」
パーンと扉を蹴り開け居間に突入。ぐっすり寝たから気分爽快だった。もう昼過ぎだけど知ったこっちゃないわ。
「……」
「……ぅう」
居間にはほたると有灯ちゃんがいた。テーブルを挟んで二人は向かい合わせに座っている。
そして何故か大変気まずい雰囲気だった。有灯ちゃんがめっさほたるのことを睨んでいた。あれ、私もしかして場違い?
でも私は空気がよめなかったので普通に話し掛けることにした。
「あら、ほたる。来てたの?」
「来てたの、って……もとはと言えばすずが読んだんだろ……うぅ……」
ほたるは顔をしかめて、身体が動くのを確かめるようにぐるぐると肩を回す。
「ん?ほたるどうしたの?そんな顔しかめて。怪我でもしてるの?」
「うーん……怪我とかではないんだが……何故か目が覚めてから体中が軋むように痛いんだ」
「寝違えたかなんかした?」
「いや、朝起きたときはなんともなかった」
「あれ?でも目が覚めた時って」
「うん。そこがややこしいところなんだが、朝起きてだな、ここまで来たところまでは覚えてるんだが、それからの記憶がないんだ。気がつくとそこで寝ていた」
ほたるは壁の方を指差す。そこの壁には見覚えのないヒビが入っていた。
「ほたる……発狂すして壁に突撃するのはいいけど、それで人の家の壁を壊すのはどうかと思うわよ」
「そんなことするか!」
私も冗談で言ったのだけど、実際それは当たらずも遠からずだったりした。いやまあ、私は知らないことなんだけどね。
「ところで話しは変わるけど、有灯ちゃん」
ほたると話している間もじっとほたるのことを睨みつけていた有灯ちゃんに声をかけてみる。
「なに姉さん」
「さっきから気になってたんだけど。その有灯ちゃんが椅子にしてる大の大人がまるまる一人納まる級のおっきなダンボールはなに?」
「椅子」
いつも通りの素っ気ない返事。だけど今日はちょっとだけ機嫌が悪いようだ有灯ちゃん。声のトーンがいつもより少しだけ低い。
「……――ぅ……――ゥ」
不意に何処からともなく人が呻いているような音が聞こえた。
「あれ、いまなにか聞こえなかった?」
「そうか?私はなにも聞こえないな」
「気の性よ、姉さん」
ドンッ。
有灯ちゃんが急にダンボール箱に座ったまま踵でダンボール箱に衝撃を与えた。
「……――ぉ……――ぶ」
再び呻きみたいな音。
「…………チッ」
有灯ちゃんは一つ舌打ちをすると、ひょいっとダンボール箱から降りる。少しだけダンボールの蓋を開けてそこから片腕を突っ込む有灯ちゃん。
ガタガタガタガタガタ!!
「……!?」
有灯ちゃんが片腕を突っ込んだ直後、ダンボール箱が大きく揺れはじめた!?え、な、なにが入ってるの!?
「ゆ、有灯ちゃん!?なんでそれ揺れてるの!?」
「姉さん気にしたら負けよ」
と言ってる間にダンボール箱の揺れはとまった。なんだったんだろ……。有灯ちゃんはダンボール箱から手を抜き、蓋をすると、再び何事もなかったようにダンボール箱の上に腰を降ろした。
「あれ?そういえば赤緒いないの?姿が見えないけど」
そういえばと赤緒がいないことに気がついた。朝は(もう昼だけど)決まってゴハンを用意して待っていてくれるのに。つーか、お腹が空いたわ。
「私が起きた時にはもう"いなかったわ"」
有灯ちゃんが答える。んー、買物にでもいったのかな?
「はっ!?赤緒がいないと朝ごはんが食べられないじゃない!!」
「すず、もう昼だぞ」
どたばたと台所に急行。勢いそのままに冷蔵庫を解放!
「なんだちゃんとあるじゃなーい」
ホッと一息。冷蔵庫の中にはしっかりラッピングされたゴハンがあった。今日のゴハンはカツ丼のようだ。うーん、赤緒ったら朝からなかなかヘビーなものつくるわね。いやまあ、もう昼なんだけどね。
とりあえず食べましょう!そうしましょう!カツ丼だぜ!いぇあぁ!テンションがあがった。
「有灯ちゃーん!ほたるぅ!冷蔵庫にカツ丼あったけど食べるー?」
リビングに戻り二人に声をかける。
「カツ丼?お腹が空いてきたところだからご馳走になりたいところだが……すず、それは私の分もあるのか?」
ほたるはちらりと有灯ちゃんを伺いながら答える。
「あ、そういえば二つしかなかったわ」
恐らく、私と有灯ちゃんの分なのだろう。冷蔵庫にカツ丼は二つしか入っていなかった。
「うーん。まあ、それは有灯ちゃんとほたるではんぶんこにしなさい!ちなみに私の分はあげません!」
「ははは、相変わらずすずは自分に正直だな」
私の自分勝手な物言いをほたるは笑って受け流した。
「私はそれで構わないが、有灯さんはいいのか?」
「それでいいよね。有灯ちゃん」
「……私はいらない。ちょっと用事があるから出掛ける」
有灯ちゃんは立ち上がりながらそう言った。
「用事?」
「ちょっとね」
有灯ちゃんはひょいとダンボール箱を中身が入っていないのかと錯覚させるほどに軽々しく担ぐ。
「おっと手が(棒読み)」
だが、有灯ちゃんはそれを床に落としてしまった。しかもわりと高い位置から。
ドンッ!!
ダンボールが床に落ちた。
「――……ぁ゛ぁぁ」
またも呻きのような音が聞こえた。
ホントにあのダンボール箱の中にはなにが入っているんだろ……。つーか、あの音からして結構な重さじゃないのだろうか、あのダンボール。
「じゃ、姉さん。私行くから」
有灯ちゃんは再びダンボール箱を担ぐと玄関に向かう。
「帰りは?」
「わかんない」
「そっか。あんまり暗くならないうちに帰ってくるんだよ」
「……ん」
有灯ちゃんは曖昧な返事とともに部屋からでていった。
有灯ちゃんのふらり一人旅はいつものことだ。あまり心配することでもないかな。有灯ちゃんはテラ無双だし、ワンパンで大の大人を圧殺できる剛の者。退廷のことは拳で解決できるから心配する必要はそもそもない。とはいえお姉ちゃんとしてはあんまり危ないことして欲しくないんだけどなー。
「……ふぅ」
「どしたの、ほたる。そんな疲れた顔しちゃって」
「いやなに、有灯さんから終始殺気を宛てられていたからな。やっと一息つけた」
「うーん。そうだね。有灯ちゃんなんであんなに機嫌悪かったんだろ。しかもほたる限定で。ほたるなんかした?」
「んー……まったく思い出せない……」
「まあ、それならしょうがないわね。そんなことより!今はゴハンよ!早くカツ丼食べましょー!」
と、気持ちを入れ換えようとした矢先。
ピンポーン。
「ん?」
「誰か来たみたいだな」
来訪を告げるインターホンが鳴った。