第29話《未成年の飲酒ダメ絶対》
「くっはーっ!!た・ま・ん・ねぇええぇえ!これよ!これ!天ぷらってのは本来こうあるべきものなのよ!サクサクの衣に包まれたぷりっぷりっの海老!他、野菜!それをあえてめんつゆを使わず塩で頂くアッサリ仕上げ!たまんない!たまんないわ!赤緒!ビール!ビールっていうか生中はどこッ!?こんなベストオブオサケのツマミーを前にしてビールがないとは言わないわよね!?」
「ビールはありません。ツキ姉さんはまだ未成年だろ?お酒は二十歳になってから」
「ぶーぶー!お堅いこと言ってんじゃないわよー!いいじゃない!今時、未成年の飲酒なんて暗黙の了解よー!」
「ダメなものはダメ」
「うー、ケチー。赤緒のバーカ、バーカ。くるくるぱー」
駄々をこねるでっかいお子ちゃまだった。
まったく最近の若い奴らはと老け込んでみる。
どーも、そこら辺の考えが甘くなっていると言うか、何と言うか……とにもかくにも、ダメなものはダメ。お酒は二十歳になってから!未成年の飲酒はお兄さんが許しません!
「んー……まあ、天ぷら美味しいからべつにいいけどさぁ……ビール、あったらもっと美味しくなると思うんだけどなー」
ちらちらと俺の表情を伺ながらぼやく。
「はぁ……ツキ姉さん。俺はね。ツキ姉さんに意地悪しようとか思ってるわけじゃなくてね。ツキ姉さんの身体を心配して言ってるんであるからして。身体がまだ完全に出来てない未成年がお酒を飲むとイロイロと悪影響が……――」
云々。
そんな感じでぐちぐちとお説教。
「あぁ、赤緒マジうぜぇ。てめぇはあたいのオカンかっつーの。ぐちぐち言ってんじゃねーよ糞が」
「こら!あなたってばなんて汚い言葉を!お母さんはあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
思春期でやんちゃな息子と口煩い母親の図。
「うっせぇ!ババァ!こんな家でてってやるぜ!」
「こら待ちなさい!」
「うふふ、捕まえられるものなら、捕まえてごらんなさーい」
「このやろー、まてー、こいつぅー」
浜辺で追いかけっこな恋人達の図。
「……なにやってんのよ。バカじゃないの」
冷ややかなツッコミが入る。もちろん、有灯ちゃんである。
程なくして俺とツキ姉さんが現実へと帰還する。ふう、なんかトリップしてたぜ。
「なにはともあれ、赤緒。たまにはまともな料理もいいものね。天ぷら美味しいわ。グッジョブよ」
そんな具合に喜んで貰えているようなので、今回の作戦は、まあ、概ね成功といったところだ。
俺と有灯ちゃんが家についた時にはすでに帰宅していたツキ姉さん。これはまずいと、首の後ろをトンってやって気絶させ、その隙に夕食を完成させた。
なにはともあれ、特に問題はない。ないったらない。
改めて三人で食卓を囲み、夕食をもしゃもしゃと食べた。
※
「あ、そうだ。赤緒」
そういえばと私は口を開いた。
「赤緒の幼なじみにさ、衣奈ちゃんっているわよね」
「いなちゃん?えーっと、誰?」
「黒のツンデレツイン」
「黒のツンデレツイン……あー、もしかして、絵奈ちゃんのこと?」
「そうそれ、多分それ」
確か、衣奈ちゃんの旧名はそんな感じだった気がする。
「絵奈ちゃんかー、そういえば転校してから会ってなかったなー」
赤緒は懐かしむように言葉を口にする。どうやら、衣奈ちゃんとは本当に幼なじみみたいだ。いや、疑ってたわけじゃないんだけど。
「それで、絵奈ちゃんがどうかしたの?ん?いや、その前になんでツキ姉さんが絵奈ちゃんのこと知ってるの?」
「んーっとね。今日、その衣奈ちゃんがね。転校して来たのよ」
よくよく考えると転校して来たのは昨日だった気がしないでもないけど、特に問題はないだろうとスルー。
「へぇ、絵奈ちゃん戻ってきてたんだ」
「それで、その衣奈ちゃんなんだけど、明日ここに来るから」
「へぇ、ツキ姉さん絵奈ちゃんと仲良くなったの?」
「もうマブダチよ、マブダチ。何てったって、夕暮れの川原で殴り合った仲よ」
「あー……もしかして、昨日のケガって……」
「あれは名誉の負傷よ!」
ははは……と有松は苦笑いだった。
「それにしても、なんでまたそんなことに?」
「そんなん決まってるじゃない。衣奈ちゃんがあんたに会いたいって話しよ」
「俺に会いたい?」
「そうそう。転校して来たのにしても、あんたに会いたかったからだって言ってたし。いやー、赤緒、あんた愛されてるわねー」
「あはは、そんなことないよ」
慌てるでもなく、赤くなるわけでもなく、普通に流された。
うーん。この反応からして、赤緒と衣奈ちゃんは普通の幼なじみみたいね。
友達以上、恋人未満な関係とみた!
うん。これなら、ほたるにもまだまだ可能性はある。
「ふふふのふ、ふふふのふのふ、ふふふのふ」
「姉さん気持ち悪いよ」
「有灯ちゃん、いきなり酷くない!?」
「だって急にニヤニヤするから……姉さん美人なのに喋ると残念だから、とりあえず黙ってたら?」
「うぅ……ごめんね。残念なお姉ちゃんでごめんね」
「姉さん、教えたよね?人に謝るときは額を床に擦りつけて土下座しなきゃダメだって。忘れちゃったの?まあ、残念な頭の姉さんだから、仕方ないか」
「うぅ……ごめんなさい。ごめんなさい」