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第26話《シチューと天ぷら》

いつものばっくらんどです


「へい!マッキー!俺は夕食にステーキ的素敵料理をご所望だぜ!」


「つまんないこと言ったから却下。なにがステーキ的素敵料理だ、バカ。それにだいたい今日の夕食はシチューだから」


放課後。父さんにメールで夕食の買い出しを頼まれたので、俺は最寄りのスーパーに寄り道した。ちなみに仁はまた家にゴハンをたかりにくるつもりなのだろう。俺について一緒にスーパーにやって来ていた。


「つーか、人の家にたかりにくる分際でリクエストとは厚かましいにも程があるわ。しかもリクエストがステーキとか馬鹿か?死ぬか?」


「それはだから、マッキーがゴーサインをだしてくれれば俺はいっちゃん高い肉を万引ってくるって言ってるじゃん!」


「なんでそういう発想になるんだよ!」


相変わらず変なとこで思い切りのよくなる仁だ。普段はただのヘタレなのに。


「ん?ねぇねぇマッキー」


「どうかしたか」


「あれって有松だよな」


すっと仁が指差した方向を見る。


「あ、ホントだ」


そこには先日、学校を中退した元級友の有松赤緒の姿があった。カートを押しながら何やら買い物中のようだ。時間帯からして、夕食の買い出しだろうか?


それはもとより、その有松の隣をセーラー服の女の子が寄り添い歩いていた。あれは一体……。学校を辞めて何してるんだ奴は……。


「スーパーでお買い物……しかも隣にセーラー服の女の子が一人……匂う!匂うぞ!マッキー!俺の第六感が奴らをストーキングしろと轟き叫んでるぜ!兄さんこれは事件の香りでっせ!」


「だれが兄さんだ。だれが」


「よし!ここは俺が磨きあげたストーキングスキルお披露目の時だぜ!マッキー、俺は今から奴らをストーキングしてくるぜ!オペレーションスタート!」





「それで夕食には何つくるの?」


カートを押しながら有灯ちゃんと一緒に店内見て回っていた。


「うーん。やっぱり、ご馳走といえば天ぷらじゃないかな」


「……」


ジロリと有灯ちゃんの鋭い眼光が俺を射ぬいた。ひっ!っと僅かに声を漏らして後ずさる。こ、これが殺気か!?生物としての本能的なものがこれはまずいはよにげいと警鐘を鳴らした。


「へぇー、天ぷら、ねぇ。ダーリンの言うご馳走って天ぷらなんだ。へぇー……」



「あ!いいいい、いや!その……ッ!あ、ああああ、あれ?お、俺なんか今変なこと言ったの!?」


「べっつに、ダーリンが天ぷらをご馳走って言い張るならそれでいいんじゃないの」


おかしい!有灯ちゃんの態度がなんかおかしいよ!?天ぷらってご馳走だよね!?だって、あの天ぷらだぜ!?具材には山の幸も、海の幸も使うんだぜ!?マジ半端ない豪華さだよねぇ!?俺なんて生まれてこのかた両手の指で数える程度しか食べたことないんだよ!?


「まあ、いいわ。それならそうと、さっさと材料買って帰るわよ。なんか、もう面倒臭くなってきたわ。あー、早く帰ってごろごろしたい」


だったら、なんでついて来たの?なんて台詞が喉元まで競り上がって来たが、俺はその台詞をぐっと飲み込んだ。多分、薮蛇にしかならないだろうし。間違いなく撲られ――。


バキッ!


ほら、撲られた。いやまて、今はまだなんにも行ってなかったけど!?


「事前制裁、事前制裁」


うずくまる俺を見下ろしながら、ニヤリと笑って有灯ちゃんはそう言った。


事前制裁って……。


「……それ便利だね」





うわぁ……痛そうだな、あれ。


有松が年下の女子中学生に顔面をぶん殴られるという衝撃シーンを目撃してしまった。


「へい!マッキー!これは由々しき事態だぜい!」


「なんだそのアメリカのホームドラマみたいな口調わ。つーか、おまえどっから沸いて出たんだ?」


「流石はマッキー、疑問より先にツッコミを飛ばすとはやるな」


俺の静止を振り切り姿を消していた仁が、それはまるで虫のように湧いて出てきた。


「そんなことより!やべぇよ!マジヤバなんだって!ねぇ、マッキー!耳かっぽじって聞いてくれ!」


「あー……うるせぇな。聞こえてるからそんなでっかい声出すなって」


耳元でわーぎゃーとでかい声で話す仁にうんざりした。


「おぉ、すまん。ちょっと興奮しちまってよ。騒がずにはいられんかったのさ」


「なにがあったんだよ」


「それがさ!聞けって!有松がさ!有松のヤローがよぉ!クソッ!有松がッ!あの裏切り者が!地獄に堕ちろ!」


支離滅裂でなにを言ってるのかさっぱりである。そして、やっぱりでかくなる声が耳に響いた。頭が痛くなりそうだ。


あー、ダメだ、これは。テンションが上がって暴走気味だ。


こうなった仁を真面目に相手するのは疲れるだけなので、テキトーにあしらうことにする。


「とりあえず、落ち着けよ!マッキー!落ち着いて俺の話を聞くんだマッキー!あせっちゃイカン!あせっちゃぁいかんよ!」


「はいはい。落ち着いたー落ち着いた」


仁の話をテキトーな受け答えで流しつつ、俺はカートを押しながら目当ての食材をカゴの中にいれていく。


「それがな!あの有松と女子学生はそれはもうやんごとない関係みたいなんだよ!聞いて驚くなよ!いや、やっぱり驚いて!うーむ、揺れ動く繊細な男心…そこんとこを考慮したうえでベストでリアクティブなリアクションをとってくれ!」


「はいはい……えーと、あとは玉葱とニンジンと……」


「なんとな!なーんーとな!あの女子学生は有松のことを「ダーリン(ハート)」なんて糞甘ったるくて、糞羨ましい感じで読んでたんだよ!有松のヤロー!チクショー!俺だって暁ちゃんにダーリンって呼ばれたいわ!もしくはご主人様とか!願わくばご主人様とか!出来ればご主人様とか!うああぁ!俺をご主人様って読んでくれッ!」


「よし。あとはルー買って終わりだな。っと、で仁。ダージリンがなんだって?」


「ご主人様ッ!ご主人様ッ!ご主人様ッ!」


あ、仁が壊れた。いや、もとからこんなだったか。ダージリンってなんのことだったんだろうか?まあ、仁の言うことだ。たいしたことではないだろう。華麗にスルーしとこ。


さっさと買って帰ることにしよう。


結局、有松はなにをしてたんだろうか?普通に考えれば夕食の買い出しってとこだろうけど。気になるのは有松と一緒に歩いていた女子学生だ。


仲よさ気に女の子と二人で夕食の買い物。先日、学校を中退した有松。


駆け落ちか?なんてぶっ飛んでるアホな想像が脳裏を過ぎった。仁じゃあるまいし、なんて馬鹿な想像をしてるんだ俺は……まぁ、どうせ実は兄妹でした、なんてオチだろう。


兄妹か……。有松はともかくとして、あの一緒にいた女の子。短かったが、あの髪の毛の波打ち具合はなんとなく見覚えがあるような……。


「くぉらぁ!貴様!ご主人様の言うことが聞けんのか!そないなやつにはきっついお仕置きをしてやらないかんのう!ゲハハハ!」


……仁はなにもない空間に向かって喚いていた。


俺が考え事をしている間に仁の身に一体なにが……。


「……」


俺は一人で帰路についた。


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