第21話《転校生登場せず》
「たっだいまー」
「おかえりー……って!ちょ!鈴郷さん!?それどうしたの!?」
帰ってきた鈴郷さんの有様を見て、俺は思わず声をあげていた。
全身ボロボロである。綺麗な白い肌に浮かぶ擦り傷、ボサボサな髪の毛、学生服を汚すドロ、所々擦り切れてる部分も見られた。
「これ?まあ、名誉の負傷ってやつかな」
ニッカリ笑って鈴郷さんはそう答えた。結構大丈夫そうだ。だからといって、放っておいていい状況にもみられなかった。
「とにもかくにも手当するから早く中に入って!」
「え?あ、うん」
鈴郷さんの腕を引ったくると俺は強引に部屋の中へ連れ込んだ。
「とりあえず、お風呂入って汚れおとしてきて」
「うーん。傷口に染みないかな?」
「間違いなく染みるね。タオルで拭くだけにしておこうか?」
「あ、それでいいや。それじゃ脱ぐから、綺麗に拭いてね有松」
「子供じゃないんだから自分でやりなさい」
「うー、傷口が痛むなー」
「……はぁ、わかったよ。拭いてあげるから、さっさと脱いで」
「はーい」
元気のいい返事と共に服を脱いでいく鈴郷さん。その間に俺はお湯で湿らせたタオルと乾いたタオルを用意する。
そして、俺は鈴郷さんの身体を綺麗に拭いてあげた。
……なんだろうか。なにか激しく問題があることをしているような気がする。
「有難う、有松」
「どういたしまして」
笑顔の鈴郷さん。細かいことなんてどうでもよくなった。
「それじゃ手当するから、ちょっと座って待ってて。救急箱持ってくる」
ダイニングのソファーに鈴郷さんを座らせて俺は救急箱を引っ張りだしてくる。ここは鈴郷さん宅なわけだが、どこになにがあるかは完全に把握していた。
掃除している時に気がついたのだが、基本的に鈴郷さんの部屋にはなんでもあった。必要なものから不必要なものまで(ちなみにそれらは全部、掃除した時に必要なもの不必要なものを勝手に選別した)おそらく、とりあえず買っておけばいいんじゃね?的なニュアンスで買い込んだのだろう。そして、片付けるのが面倒で散乱みたいな。
それが今は有り難かった。
テキパキと馴れた手つきで手当を行って行く。
「うー、傷口に染みるー」
「すぐ終わるから、今は我慢我慢」
所々の傷口は見た目には痛々しいものの、案外、深い傷ではなかったのでよかった。それにしても、一体、鈴郷さんはなにをしてこんなになったのだろうか?
「ねえ、有松」
「ん?」
俺がなにがあったのか聞こうとした時、鈴郷さんが一息早く口を開いた。
「なんかこうあれだよね」
「なに?」
「何て言うか、有松とは初めて会った気がしないんだよね」
「……そりゃ、そうなんじゃ?」
「あ、間違えた」
「間違えたの?」
「んー、こんな時はなんて言うんだったか……えーっと、そうね。あ、そうだ。あれよ。有松とは他人の気がしないって言おうとしたのよ」
初めて会った気がしないと他人の気がしないを間違えたのか。うむ、何と無く間違えるのもわかるような気がした。
「有松はしっかり者の弟って感じ」
「俺が弟か。鈴郷さんって誕生日はいつ?」
「聞いて驚きなさい。私の誕生日は4月1日よ」
「おお、すげぇ」
「で、有松の誕生日は?」
「俺は3月30日」
「おお、すごっ」
「となると俺と鈴郷さんは、同学年にも関わらず、ほぼ一歳差なわけだね」
「んー?有松が年上?」
「いや、鈴郷さんが年上だよ。俺の生まれは1994年」
「私が1993年だから……。あれ?やっぱり有松が年上じゃないの?」
「……えっと、鈴郷さんは今、何歳?」
「16歳だけど?」
「俺はまだ15歳」
「おお!私のほうが年上じゃない!やっぱり、私がお姉さんだね!」
「鈴郷姉さん?なんか、変だ」
「有松。私のことは名前で読んでいいわよ」
「暁さん?」
「さん付けはダメ」
「暁ちゃん?」
「うーん。私、実は自分の名前あんまり好きじゃないのよね。アカをとってみようか」
「ツキちゃん?」
「おお!それよ!それ!いいわねツキちゃん!今後は私のことツキちゃんと呼ぶように!」
ツキちゃんか。メイドさんみたいな名前だな。その言葉を口にすると、なんかくすぐったいような、なんとも言えない感じ。
「ねえ、今更だけど有松の下の名前ってなんだったっけ?」
「……ぐっ、俺精神に会心の一撃」
名前を覚えて貰ってなかった。
「俺の名前は赤緒。有松赤緒です」
「アカオか。アカオねー。なんとも微妙な名前ね。それに私とちょっと被ってる」
アカツキとアカオ。若干、被ってる言えば被っていた。アカの部分が。
「呼び方は私風にアカをとって、おーちゃん?」
「それは何と無く嫌」
おーちゃんって……とくに理由はないけれど、何と無く嫌だった。
「それならアをとってカオちゃん」
「なんかしっくりこないね」
「有松のことは顔面って呼ぶね!」
「てめぇ!ちょーしくれてっとヤッちまうよ!」
「うぅ、ごめんなさい……謝るからそんなに怒らないで……ぐす」
「えぇ!?鈴郷さん!?ごめん!そんなつもりじゃなくて!えっと、本当にごめん!ほら!俺は全然怒ってないから!だから!泣かないで!」
「……ぐす」
「そうだ!俺なんか死ねばいいんだよね!そうだよ!鈴郷さんを泣かせるようなゴミクズはさっさとこの世からいなくなればいいんだよね!もう本当に生きててごめんなさい!そうだよ……俺みたいなやつがなんで生きてるんだ……早く死ねよ……ごめん、本当にごめん。今すぐ首吊ってくる……」
二人が立ち直るまで、少々お待ちください。
テンテンテカテン。
「――無難に赤緒でいいか」
「そうだね。ツキちゃん」
「うふふー。なんかいいわねー。その調子よ、赤緒」
ニコニコと鈴郷さんは機嫌がよかった。
「さて、話しを戻すわね」
「うん」
「それで、なんの話しをしていたんだっけ?」
「うん?えーっと、確かね。ツキちゃんが俺のお姉さん云々の話し」
「あー、そうそう。実は私と赤緒の血が繋がってるんじゃないかって話しだったわね」
「そうそう。って、あれ?なんか結構なズレが生じたような」
「赤緒は血液型なに?」
「A型」
「んー、私はO型だから、やっぱり血は繋がってないか」
「まあ、そんな都合の言い話しはそうそうにないってことだね」
ばっくらおまけ
ネタバレ
有松赤緒と鈴郷暁は父親違いで同じお腹から生まれた。