第2話《基本的に二人はネガティブ》
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
食パンを食べていた。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
食パンを食べていた。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
食パンを食べていた。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
ああ、この食パンしょっぱいよぉ。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
そうか、私の涙の味だ、これ。
夕日に赤く染め上げられた公園のベンチで私は泣きながら、味も、素っ気もない食パンを食べていた。二人で。
隣には同じく泣きながら食パンを食べる有松がいた。
「鈴郷さん」
不意に有松が口火をきった。
「この食パンもしょっぱいね」
今、私と有松が食べている食パンは私が買ってきたものだった。
ぶちまけられたレジ袋の中身で辛うじて無事だったもののひとつだった。
なんで、食パンを食べているのか?
そんなの私がわかるわけないじゃない!
※
「有松」
「なに?」
「結局、あんたは何してたの?」
「……」
「言い難いこと?」
「いや、なんてゆーか恥ずかしい」
「恥ずかしいの?今この時よりも?」
「だよな」
「強要はしないわ。でも、困ってるなら力は貸すよ?」
「……鈴郷さん」
「何?」
「惚れていい?」
「な!?何言ってんのよ!?」
「あ、そうだよな。ごめん。俺みたいな奴に惚れられても迷惑なだけだよな」
「え?いいい、いや!そういうことではないわよ!?」
「なんか、ごめん。本当にごめん。俺みたいな奴は公園のベンチで食パンでも食ってろって話しだよな」
「あんたネガティブくない?」
「ネガティブくなくなくないないない」
「とにもかくにも、とりあえず何があったのか話しなさい」
「さっきと言ってることが違くなくなくなくないないない」
「それはもういいから、さっさとゲロっちまいなさい。多分、力にはなれないと思うけど、つーか、力になる気なんてさらさらないんだけどね」
「やっぱりなんかさっきと言ってることが違う」
「なによ。さっきからぐだぐだと。有松ははっきりしないやつね。いい加減にしないと惚れるわよ」
「ごめんなさい。言います。言いますから。それはやめてください」
「そ、そうよね……。私みたいな奴に惚れられるのは迷惑以外のなにものでもないわよね。ごめん。本当にごめんなさい」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃ。なんか、俺の方こそごめん。本当にごめん。そうだ俺なんて死ねばいいんだ」
「そうよね私なんて死ねばいいのよね」
「……う、うぅ」
「ぐす……ひっく」
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
「やっぱり……」
「……この食パン」
しょっぱいね。
この時から、二人の間に変な絆が芽生えたのであった。
※
「――というわけです」
羞恥心なんて今更なので、俺は鈴郷さんにこれまでの経緯を話した。
「そんなことが、ね。それで、有松はこれからどうするの?」
「……」
どうすると聞かれても答えようがなかった。俺自身これからどうしようなんて考えていなかった――否、考えようとしていなかった。
帰る家はない。住む場所はない。頼れる親戚もいない。行く宛てがない。お金もない。食糧もさっきなくなった。ないない尽くしだった。
でも、死にたくはないから、必然、俺は生きなて行かなくちゃいけない。
どうやって生きて行こう?
「……ねぇ。鈴郷さん。俺はこれからどうしたらいいのかな?」
俺はもう自分で考えるのを放棄していた。
「行く宛てはないの?親戚のおじちゃんとかおばちゃんとか」
「親戚はいるのだとは思うけど、会ったことないから。無理だと思う」
「そう……。それならウチに来る?」
「…………ん?つまりはどういうこと?」
ウチに来る?何?身体の内部で何か起こったの?ウチから沸き上がるまがまがしき力が!?的な?いやまて、それはウチから来るだ。
「私一人暮らししてるの。よかったら私と一緒に住まないかってことよ。所謂同棲」
「なにその素敵な響き!する!する!そんなんもちろん首を縦に降るに決まってるじゃん!って!そういう問題じゃねーーーーーーー!」
同棲だって!?クラスメイトと!?しかも美人だし!そんなことになったら俺今夜にはもう理性と言う名のダムが決壊していろんなものをぶちまけちゃうよ!?なんか白くてドロドロしてるやつとか!何とは言わないけど!俺だって健全な男の子だから!
けしからん!実にけしからん!そんな、じゅんじょーな男の子をたぶらかしてるんだなこの女は!一般的なじゅんじょーの基準はなにかは知らんけど!
粛正してやる!そんな淫魔は俺が粛正する!
し・ゅ・く・せ・い・だ!
主に白くてドロドロしたやつをぶっか――結果が一緒になってる!?なんで!?
「ふ、ふぉあああ」
「き、急にどうしたのよ?」
「な、なんでもない……。取り乱しただけだから。悩内で」
「そ、そう?」