第17話《それでもこれはミルクティー》
「そんなまさか!?このミルクティー、カップラの味がするわ!」
「姉さん。それはもうミルクティーじゃなくて、ただのカップ麺のスープじゃ……」
確かにそうかもしれない。
私と有灯ちゃん、それと有松は三人でダイニングにあるテーブルを囲み、有松が煎れてくれたミルクティーで一服していた。
「有松、これミルクティーじゃないの?」
「ミルクティーだよ」
「だってよ、有灯ちゃん」
バキッ。気がつくと有灯ちゃんの右拳が有松の顔面に減り込んでいた。
「有松さん、本当は?」
にこやかーに微笑んだ有灯ちゃんは有松にそう言うと、なぜか有松の表情が見る間に青ざめていった。一体、どうしたのだろうか?その後はひたすらにごめんなさいを連呼する有松。壊れた玩具みたいだ。
「で、姉さん。このダーリ――じゃなくて、有松さんは姉さんとはどういう関係?」
当然といえば、当然の質問をされた。
「なんで、姉さんの留守中にコレはこの部屋に一人でいたの?」
いつものごとく私の部屋にサボりに来た有灯ちゃん、そこには見知らぬ男が一人、有灯ちゃんびっくり……――みたいなことが、なんとなく想像できた。
これは、ちゃんと説明しておいたほうが良さそうだ。
「なんと言いますか、元同級生で、今は同居人かな?」
「……はぁ?」
呆気に取られたといった具合に有灯ちゃんは口をぽかんと開けた。
「同居って……姉さん、正気?」
「実はかくかくしかじかなのよ」
私は簡潔に説明した。
「……ふーん。なるほどね。そういう事情だったのか」
「そういうわけなのよ」
「まあ、そういうことなら仕方ないか」
「そう、そう、仕方ないのよ」
「で、姉さん」
「なに有灯ちゃん?」
「かくかくしかじかってなに?」
「……」
「……」
「……」
「姉さん?」
「……やっぱり、通じなかった?」
「当たり前でしょ」
「……」
「姉さんさっさと説明して」
「はい、わかりました」
で、私は有灯ちゃんにことの顛末を改めて簡単に説明した。
有松が学校を辞めたこと。
有松の実家のパン屋が潰れて、生き場を失ったこと。
公園で一人、泣きながら食パンを食べていたのを私が見つけたこと。
「なるほどね。それで、優しい姉さんはこれをこの部屋に居候させてあげようと思ったわけね」
「えへへ、優しいだなんて、そんなことないよー」
「ちっ、この偽善者が」
「うぅ、ごめんなさい。偽善者でごめんなさい」
「もし、これが極悪非道の変態野郎だったらどうすんのよ。わかってる?姉さんは下手をしたら今頃、三角木馬の上でひいひい言ってたかもしれなかったのよ」
「……え?」
「……あ」
サンカクモクバ?……って、え!?
「ゆ、有灯ちゃん……さ、三角もく――」
「わー!わー!わー!忘れて姉さん!今の台詞は無し!私は三角木馬とか言ってないから!」
「え?あ、う、うん!わかった!私は何も聞いてないよ!有灯ちゃんが急に三角木馬なんて拷問器具の名前をポロッと口にするはずないもんね!」
「そ、そうだよ!私が三角木馬なんて言うはずがないよー!」
顔を引き攣らせてあははーと笑う有灯ちゃん。
「……三角木馬ってなに?」
有松の一言で場が凍った。
瞬間、バキッとよくわかりません顔をした有松の顔面に有灯ちゃんの右ストレートが減り込んだいた。
「ちょっとこい」
「えぇ!?ちょ、な、なんで――」
「いいからこいって」
バキッ。
「……(チーン)」
有松は有灯ちゃんの無慈悲な一撃で完全に沈黙した。
「姉さん、すぐに済むから、ちょっとだけ待っててね」
ズルズルと有灯ちゃんはぐったりとした有松の身体を引きずっていく。心なしか有灯ちゃんの表情が生き生きしていたような……。
バタン。扉が閉まる。有灯ちゃんと有松は物置になってる部屋の扉の向こうに消えた。
ガタガタガタガタ!
イギャー、と有松の声が聞こえた気がした。
きっと、扉の向こうはさぞ残酷な描写になっていることだろう。南無、南無。
でも、喧嘩するほど仲が良いって言うし、なんか、ちょっと羨ましいなぁ。撲られるのは嫌だけど。
「……んー」
なんだろうこの感情は。なんだかよくわからないけど、もやもやする。
はっ!まさか!これが嫉妬!?私は仲が良い有灯ちゃんと有松に嫉妬している!?
つまり、それは私が有松のことを好きってことなのではないでしょうか?そうなんですか?
どうなんだろう。
確かに有松は良いやつだし。悪くはないと思う。昨日なんて一緒に寝たわけだし。有松、暖かかったなぁ……。
「う、うわぁぁ……」
いまさら、なんだけど恥ずかしくなってきた。
昨日の私は一体、何をやっていたのか?思い出しただけで顔が火をつけたように真っ赤になった。いや、鏡見てないから本当はどうなってるかわからないけど。多分、真っ赤になってるはず。
忘れてしまえ。私はニワトリ!だから、きっと三歩進めばすべてを忘れられるはず!
そんなわけで立ち上がり三歩進む。
「……うー」
当然のことだが三歩進んでも昨夜の恥ずかしい記憶は忘れられるはずはなかった。
ばっくらおまけ
当たり前だけど、みるくちーではなくミルクティー