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第16話《それは寒く冷たい冷血なる響き》


「あねさん!ダブルソフト買ってきやした!」


俺はひざまずいて買ってきたダブルソフトをあねさん――もとい、有灯ちゃんに掲げた。


バキッ。


そして、やっぱり撲られる。


「だれがあねさんよ。幼い少女にそれは失礼な呼び名ね変態。もっとかわいらしいくて、甘ったるい感じの呼び名にしなさい」


「ごめんなさい。えっと……ゆうひちゃんとか?」


バキッ。


「捻りがない。つまんない。もっと、こうキュンキュンして、嬉し恥ずかしな、甘ったるいやつにしなさい」


結構な無茶振りだ。


「マイハニー!」


バキッ。


撲られた。いや、わかってたけど。


「だれがマイハニーよ。なに?それで私は変態のことをダーリンと呼べと?ねえ、そこらへん、くわしく説明お願いするわ、ダーリン」


目が笑ってない!ガチでキレてますか!?


「ごめんなさい。もう言いません。ごめんなさい」


そして、俺はやっぱり謝ることしか出来ないのである。


「わかればいいのよ、ダーリン」


背筋をぞっと寒いものが駆け上がっていく。


何故だ!?何故、俺はダーリンとか本来は甘ったるい、嬉し恥ずかしな呼び名で呼ばれたのに、こんなにも恐怖しているのだ!?


「どうかしたのダーリン?ねえダーリン。顔が真っ青だよダーリン。具合が悪いのダーリン?大丈夫ダーリン。少し横になったほうがいいんじゃないダーリン?それとも病院に行ったほうがいいのかなダーリン?どうするダーリン?」


「ごめんなさい!ごめんなさい!もう許してください!」


「どうしたのダーリン?私、全然怒ってなんかないよダーリン。ふふふ、おかしなダーリン。なんでそんなに怯えてるのダーリン?なにか怖い夢でも見たのかなダーリン?でもね、大丈夫、今より怖いことなんてなんにもないんだよダーリン」


「う、うわああああ!」


なんで、ちょっとホラーになってんだ畜生!


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だやめろやめろやめろやめろやめろ――とりあえず錯乱してみた。


「変態のことはこれからダーリンと呼ぼうと思います。異論はある?ないわね。てゆーか決定。むしろ喜びなさい」


俺だって素直に喜びたい。ダーリンなんて甘ったるい呼び名に憧れたことがないわけじゃない。


でも、なんで有灯ちゃんが言うダーリンには甘ったるい響きが一切ないんでしょうか?


なんで、背筋を寒いものが駆け上がっていくのでしょうか?


これは精神攻撃なのでしょうか?


肉体的にいたぶるのに飽きたから、今度は精神的に追い込む作戦なんでしょうか?


「ふふふ、ダーリン」


「ひぃッ!」


とにかく怖かった。これはもう潜在的なものだ。蛇に睨まれた蛙が身動き出来なくなるのと一緒だ。


「そんなわけでダーリン。ダブルソフトをトースターでチンよ。そしてマーガリンとストロベリーなジャムを華麗に塗りたくりなさい。つーか、言われなくてもやりなさいよ」


有灯ちゃんの発言の節々にちょっとエロを感じた。チンとか塗りたくるとか……ダメだ!俺の頭は腐ってる!落ち着け!


「畏まりました有灯様」


バキッ。撲られた。脈絡ねぇ!


「有灯様?ダーリン、その呼び方は正しくないよね?まさか、さっきの今で忘れたわけじゃないよね?ダーリンは私に一発撲られただけで記憶喪失になるようなすっからかんではないよね?」


いや、あなた様の一撃で正確な記憶を保つのには結構な努力が必要ですよ有灯さん。つーか、一発だけじゃないからね。複数発だからね。会話中、あまりにも自然に撲るから描写が間に合わないところいっぱいあったからね。


「えっと、それはまさか……ま、マイハニー……?」


「なぁに?ダーリン」


何故だ!なぜ、甘くない!?嬉し、恥ずかしにならないんだ!なぜ、悪寒しかしないんだッ!


こ、殺される!いやまて、さすがにそこまではいかないだろ。


魔異破新(まいはにぃ)


バキッ。


「ダーリンは今ふざけたでしょ?調子に乗ってると撲るわよ」


「ごめんなさい」


もう撲ったじゃん。撲られることが呼吸することのように自然になってきた。


「とにもかくにもダーリンを撲りまくって私はお腹すいてるんだからさっさとダブルソフトをこんがり焼きなさい。ウルトラ上手に焼きなさい」


言われるまま俺はダブルソフトをもってキッチンへ。備え付けてあったトースターにダブルソフトをガチャンする。


「……」


考えた。ダブルソフトをセットしたら後は待つだけだからやることがない。


あたふたとうろたえた。うろたえていると様子を見に来た有灯ちゃんに撲られた。いやまて、なんでだ?


そして、有灯ちゃんはすっきりした表情でダイニングへと戻っていく。どうやら、ただ、撲りに来ただけのようだった。


俺はそんな有灯ちゃんに愛おしさのようなものを感じ始めていた。彼女を守ってあげたいと俺は純粋に願う。


……俺の脳がついにショートして、誤作動を始めたようだ。


愛おしさってなんだ?守ってあげたいってなんだ?なんでそんなこと思ってるんだ?もう、脳細胞がイカれてしまったとしか思えない。まあ、あれだけ撲られてるんだから、それも頷ける。いやまて、冷製に分析してるけど大問題だ。


それとも、俺はドMだったのか?撲られて喜んじゃってるんですか?頭は大丈夫ですか?ダメなんですね。分かります。


バシュ。


そうこうしている間にダブルソフトが飛び出した。


ふっ、ついに俺の出番というわけだな。


ベーカリーARIMATSUの一人息子にして、そのベーカリーARIMATSUの営業活動の9割を受け持っていた、この俺の!出番というわけだな!


そんなわけで、さっとトーストにマーガリンとジャムを塗りました。ついでにミルクティーも煎れてみた。それをもって有灯ちゃんの元へと戻ろうと、そこで……――。


「ただいまー」


玄関の方から声が聞こえた。


ばっくらおまけ

有松はイチゴジャムよりマーマレードのほうが好み

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