第14話《ダブルでソフトとかマジすきがねぇ》
「ほーたーるのひーかーり、まぁどぉのつぅきー」
咲夜、ほたると別れて蛍の光。つまり帰路。
例のほたると有松ドッキング大作戦!(命名は咲夜、凄く卑猥だ)だが、結局、作戦らしい作戦はたてられなかった。
咲夜はちょこちょこ話しを脱線させるし、私もなんだけど。ほたるはほたるで、なんか鎖に縛られて感じてるだけだったし。
ぐだくだだった。いつものことだけど。そんなこんなで気がつくと脳内で蛍の光が流れる時間帯になっていた。
そろそろ帰ろうと二人と別れたわけである。
ほたると有松か……。
夕焼けに染まる道を歩きながら考えるのは二人のことだった。
びっくりだった。あまり他人と関係を持とうとしなければ、寄せ付けようとしない、そんなほたるに好きな人がいたなんて。
なにがきっかけだったのかまでは聞きだせなかったが、ほたるを惚れさせた有松、恐るべしだ。
確かに在学中の有松は誰にでも優しかったから、あまり話したことなかったけど。きっと色んなとこで色んなことしてたのだろう。
ちなみに私も面倒臭さかったから掃除当番を変わってもらったことがある。
あんちくしょーいろんなところでフラグたてまくってやがったなちくしょー。ちょっと廃れてみた。
さて、本題。どうやって、あの二人をくっつけようか。
普通なら、ほたるには問答無用で強引に押せ押せな作戦を言い渡すんだけど……問題は有松だ。
有松は学校を辞めている。これが大きい。
アタックを仕掛けるにしても、仕掛ける本人がいなけるばどうしようもないのである。
もないのである。
いのである。
である。
エコーをかけてみた。とくに理由はない。そういう気分だった。
と、バカなこと考えてる場合ではなく。
どうしよっかなぁ。
自宅に直接乗り込む?いや、なんか不自然。でもまって、確か有松の実家はパン屋。これは通い詰めれば自然と好感度が上がってイベント発生する?あ、そういえば、有松の実家、兼、パン屋潰れたんだっけ。となると有松の行方はどうなっ……――。
「あ、そういえば有松は私ん家に居候」
すっかり忘れてた!
この状況、例えるなら……。
親友の好きな人が自分の内緒で付き合ってる彼氏なことを知らずに「応援しちゃうんだからん(ハート)」みたいな展開。いや、有松とは付き合ってるわけじゃないけど。
この先、ドロドロした展開になったりするのかしら。肉欲?NTR?これは昼ドラを見て勉強しなきゃ。って、なんでやねん。
脳内一人ノリツッコミ。虚しくなんてならない。
しかし、びっくりだわ。学校を辞めて行方知れずだった有松が、まさか私の部屋に居候してただなんて!してただなんて!
これはナイスアドバンテージね。これを利用しない手はないわ。
「ふふふのふ、ふふふのふのふ、ふれむべる」
いいこと思い付いたわ。
ダブルソフトを買いに行こう!
……。
うん。関係ないわよ。なんか、無償に食べたくなっただけ。
あれよ。そろそろ夕食な時間帯だから、こっちはお腹へってんのよ。さっきファミレス二人とカップラ食べたけど。育ち盛りだから仕方ない。
そんなわけで寄り道、最寄りのスーパーマーケットへ。
到着。無駄は極力省く方向で。
購入。再び帰路。
もしゃもしゃもしゃもしゃ。
食!食!食!
気がつくと歩きながらダブルソフトを一均まるまる食べ尽くしていた。軟らか美味しかった。プレーンでもいける、いける。
ふう、今日の夕食はなに食べよっかな。あっさりと塩あたりが良い感じかな。
と、そんな取り留めのないことを考えながら歩いていると気がついたら公園の前に差し掛かっていた。
昨日、有松を拾った公園だった。
ふらふらとなにかに誘われるように公園の中へと入って行く。
とくに理由があったわけじゃない。なんとなくだった。
夕暮れの公園にはすでに誰もいなかった。もう、カラスが鳴いたからみんな家に帰ったのだろう。
ベンチに腰を降ろす。有松と一緒に食パンを食べたとこだ。そういえば昨日食べたのもダブルソフトだったっけ。
「……ふぅ」
一つ息をついた。
何とは無しにケータイを取り出す。電源が切れていた。そういえば朝から使ってなかったことを思い出す。
電源を入れると、そのままメールの受信画面に切り替わる。
『未読メール2件』
一つは知らないアドレスからだ。
『幸福のメール。おめでとうございます。このメールを見たあなたは、このメールと同じ内容のものを5人の人に送ると幸福になれます。さあ!みんなで幸福になりましょう!れっつえんじょうはっぴーふぅー!』
よっしゃ!なんかラッキー!とりあえず、幸福になってほしいほたるに同じ内容のメールを5通送信してみた。これで万事上手くいくことだろう。
もちろん、言うまでもなく悪ふざけだったりする。
そして、2通目。一つ下の妹の有灯ちゃんからだった。
『部屋に上がってるから』
題名なし。本文にそれだけ短く。
受信した時間を見ると、私がお昼休みに入るか入らないかという微妙な時間だった。
今日は平日、つまりは学校がある。それは中学生である有灯ちゃんも同じ。つまり、こんな時間帯にこんな内容のメールが着てるということは……――。
――サボり……。
「……またかー」
有灯ちゃんはサボり癖にはまいったものだった。今のクラスが肌に会わないだなんだと、理由をつけて有灯ちゃんは事あるごとに学校をサボる。
私がちゃんと行かなきゃダメだよと説教したことも数知れず、本人いわく義務教育なんだから問題ないそうだが、そんなことはないのが現実だ。学校にはちゃんと行ってほしい。
イジメられてる、とかいうことではないっていうのが、責めてもの救いだった。むしろ有灯ちゃんはイジメる側だ。
そんな有灯ちゃんがサボるスポット、つまり、サボスポとして活用しているのが私の部屋だ。
わざわざ5駅ほど跨いで遥々やってくる。最近はわざわざ定期券も買ったみたいだ。
有灯ちゃんはまだ中学生ということもあり実家で暮らし、地元の中学に通っている。
有灯ちゃんいわくサボスポとはお金がかからず、補導される心配もなく、見つからず、安全で、一人に馴れて、寛げる、所謂一つのベストプレイスなわけだそうだ。あのロリーゼントさんが探してるみたいな。
それで私の部屋はベストプレイス。ナイスなサボスポだと。
お金はかからないと言っているが私のとこにくるまでの交通費は?と疑問を投げ掛けたが「姉さん、お金は使うためにあるんだよ」と、微妙に答えになっていないような答えを返された。
なにはともあれ、有灯ちゃんが部屋に来ているようなので早く帰ろう。ケータイをポケットに仕舞いベンチから立ち上がった。
一人にしとくのは可哀相だし、来てるとわかってれば、もう少し早めに帰ったんだけどな。
「……?」
小骨が喉に引っ掛かったような違和感を感じた。また、なにか忘れているような……。
思い出せない。
まあ、思い出せないのだから、そんなに大事なことでもないのだろう。
さっさと帰ろう。
私は公園をあとにした。
ばっくらおまけ1
有松は実家がパン屋であるにもかかわらず、なけなしのお小遣でダブルソフトを買って食べていた