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第13話《美味しいのはダブルソフトだけである》


『契約書』


1、絶対服従。逆らうことは赦されないこと。


2、当人の基本的人権は鈴郷有灯の所有するものである。


3、当人の発言権も鈴郷有灯が所有するものであり、当人の勝手な発言を禁ずる。


4、命令に従わない場合はそれ相応以上の罰がかせられる。最悪、その命をもってして償う。


5、サンドバック


6、これらの事柄はいかなる場合であっても有効であり、鈴郷有灯本人が、これを破棄しないかぎり当人は半永久的にこれを守らなければならない。






有灯さんに差し出された紙にはざっとそんなことが書かれていた。人権なんて知ったこっちゃないって感じ。


とりあえず、5番目のサンドバックってなんですか?文字通りの意味なんですか?ただひたすらに殴る蹴るの暴行をうけるのですか?勘弁してください。


バキッ。


「もたもたしてないで、さっさとサインしなさい」


拳がとんできた。サインの前から俺は有灯さんのサンドバックになっているような。


「いや、でも――」


バキッ。少し口を開いただけで再びとんでくる拳。


「いいから」


「で――」


バキッ。


「さっさと」


「や――」


バキッ。


「サイン」


「お――」


バキッ。


「しなさい」


もうやめてー!俺のライフは0だからー!自己申告。


見事なコンボを決められた。浮かせて対空キャンセル超必殺キャンセル最終奥義クリティカルフィニッシュみたいな。余裕でオーバーキルですよ。ライフどころかタイムも0で、もう、らめぇー。


その男、理不尽の塊である。いや、女の子だけど。


「……(虫の息)」


親父に家族解散宣言された時、俺は今が人生でもっとも辛い時だと思った。


だけど、今、この理不尽(有灯さん)を前にして思うことがある。


下には下があるんだなぁ、と。


泣く泣く俺は契約書にサインした。


俺はこの先どうなるんだろう。


「書きました」


「よろしい」


受け取った契約書に有灯さんはさっと眼を通すとあらたて、俺に向き直る。


「改めて、変態の所有者になった鈴郷有灯よ」


そんなことを言った。


「あの、聞きたいことがあるんですが?」


そんな感じで返す。


「許可する」


「あの、ゆ――」


「やっぱりダメ」


バキッ。


「気がかわったわ。約0.1秒で」


「うう、なんか知らないけど、ごめんなさい。許してください」


「その素直な反応は大変よろしい。機嫌が良いわ。話していいよ」


「あ、ありがとう。それで、有灯さ……」


バキッ。


「わかってると思うけど、呼び方は有灯様よ」


まだ言ってないのに……。


「あ、改めまして、有灯様」


「なに?」


「有灯様は鈴郷さん――つまり、暁さんのご家族様かなにかですか?」


「ええ、暁は私のお姉ちゃんよ」


なんとなく、どこかで見たことあるような気がしたら、やっぱり姉妹のようだった。


見た目からして、小学校高学年か、ぎりぎり中学生ぐらいな感じだし、あの波打ったショートヘアーなんて、まんま鈴郷さんのを短くしたものだった。


しかし、そんな女の子にいいようにされてる俺って……いっそヤっちまうか?いやまて、なんでそうなる。落ち着け俺。相手は女の子だ、殴れるわけがないだろ。


「あ、そういえば、まだ名前聞いてなかったわね。変態、あんた、名前は?」


「なんか、今更な気がするけど、俺の名前はあ――」


「変態ね。わかったわ変態。これからよろしくね変態。そうと決まれば変態。とりあえず椅子になりなさい変態」


俺――つまり有松赤緒、改めまして変態です。いやまて、流石にそれは嫌だ。


「あの変態はや――」


「姉さんの部屋に不法侵入した」


「実は俺――」


「あげく、クローゼットの中ですーはーすーはーしてた奴が変態ではないと?」


ば・れ・て・る!


「ごめんなさい有灯様。変態は有灯様の忠実な下僕です」


「わかればよろしい」


今だに有灯さんは俺のことをただの犯罪者だと思っているわけで……実を言うと、さっきの契約書だが事情を説明すれば、どうとでもなると安易に考えてサインした俺がいた。


だけど、これはまずい。こんな弱みを握られていたら、いくら事情を説明したところで「で?だからなに?」と返されることが容易に想像できた。そのまえに事情の説明すらさせてもらえないのが容易に想像できた。


結果、俺は諦めることにしました。なるようになるだろう。できれば、あんまり殴らないでほしいなぁ。痛いから。


俺は素直に椅子になった。


「……微妙」


バキッ。そして、やっぱり殴られた。


「ごめんなさい」


「あー、変態。私は、今、不機嫌よ。サンドバックになりなさい」


バキッ。


「ごめんなさい」


「殴ったから落ち着いたわ。寛大な私は許してあげる」


「ありが――」


「いや、私、寛大じゃないし」


バキッ。


「ごめんなさい」


「うん。そろそろ、本当に許してあげる」


「あ――」


バキッ。


「嘘よ。学習しなさい」


僕はもうダメっす……。そうだ。首吊って死のう。


「ごめ――」


「チョップ」


パコッ。


「え?」


その一撃は今までの容赦のない打撃とは違い、軽目のもので、また強烈なのがくると身構えた俺は呆気にとられて、思わず間抜けな声を漏らした。


「許す。だから、もうごめんはなし」


どういった風の吹き回しなのか、急に優しくなった?


「え、あ、ありがとう」


反射的にありがとう。


「どういたしまして」


やっぱり優しい!?よし!俺はこの人に一生ついていく!いやまて、優しいの基準ってなんだったけ?


度重なる理不尽で感覚が麻痺しているのか、普通に返答されただけでキュンときていた。


つまり、どういうことかというと……惚れた!いやまて、なんでそうなる。


「でも、急になんで?」


「天の人から、これ以上そんな感じでいられると話が一行に進まなくなるから、もちっとダブルソフトなみに柔らかくなってくださいって」


「天の人って誰?あと、ダブルソフト美味しいよね」


「内緒なんだけど、さく――」


「内緒なら言わなくていい!二次元的な話しはしたらダメ!」


「仕方ないわね。ダブルソフトに免じて黙っとく。そんなわけで、無償にダブルソフトが食べたくなってきたわ。買ってきて」


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