第11話《夕日。いやまだ昼だけど》
「……んで、あんた、ここでなにしてたの?」
改めて、現状の確認をしようと思う。
まず場所。鈴郷さん宅。
次に状態。仰向けに倒れている俺。その俺のマウントをとっているのは突如として現れた見知らぬ少女。腕なんかもガッチリ封じられていて完璧に身動きがとれなくなってる。見た目か弱き少女な外見と相反して、物凄い力で押さえ付けられていた。
立ち振る舞いからして鈴郷さんの関係者だとは思うが、今のところは不明。鈴郷さんに負けず劣らずの美少女だ。ちょっと、小さいけど。
「泥棒?それともストーカー?なにが目的?言い訳があるなら一応聞いてやるわよ?」
泥棒にストーカーって……。確かにクローゼットの中に忍び込んでればそう思われて当然か。あー、このまま行けば警察に突き出されるのかなぁ……。
いやまて、よく考えてみれば俺はここにちゃんと鈴郷さんの許可を貰っているわけだから、なにも問題ないんじゃないか?問題ないはず!よし、事情を話せばきっと大丈夫だ!案の定、この娘も言い訳は聞いてやるって言ってるんだから話しぐらいなら聞いてくれるはず。うん、いけるいける。
「じつは――」
「はい、そこまで」
「え!?ちょっ!?そこまでって!?」
俺が喋り始めてコンマ0.3秒。少女の言葉によって俺の言葉は中断させられた。
「煩い。黙れ。変態の言い分なんて3文字聞けば十分よ。むしろ、3文字も聞いてあげたことに感謝しなさい」
「横暴な!」
バキッ。
少女の右ストレートが顔面に減り込んだ。普通に痛い。
「煩い。変態、あんた誰に許可もらって話してるのよ。黙りなさい」
「ご、ごめん」
「だから喋るな」
バキッ。
少女の右ストレートが顔面に減り込んだ。二度目でも痛いのは痛い。
「わかる?変態の発言権は私にあるの。だから、変態は勝手に発言してはいけない。おわかり?」
「……」
物凄い剣幕で睨まれる。そこには有無を言わさぬしものがあった。普通にビビった。
身体が無意識のうちに反応して、俺はコクコクと無言で首を上下させていた。
バキッ。
少女の右ストレートが顔面に減り込んだ。いやまて、なんで今殴られたの!?
「変態、私の問い掛けに無言で相槌だけとか、何様のつもり?ちゃんと返事しなさいよ」
「ご、ごめ――」
バキッ。
少女の右ストレートが(以下略)。
「おかしいわね。今、私、変態に声だしていいって言ったっけ?言ってないわよね?なに、勝手に発言してるの?」
「……」
俺にどうしろと?
バキッ。
少女の(以下略)。
「なに、黙ってんのよ。変態は私に失礼なことをしたのにも関わらず謝罪もなしなの?はっ、これだから変態は、はやく死になさいよ。あんたに生きる価値なんかあると思ったら大間違いよ」
「ご、ごめ――」
バキッ(以下略)。
「だから、誰が勝手に話していいって言ったのよ」
泣いてもいいですか?
いや多分、俺は今普通に泣いてるような気がする。そんだよな、俺みたいなクズなんて死ねば良いんだよな。ああ、そうだ。生きててごめんなさい。本当にごめんなさい。
「……ふふふ」
不意に少女は口元ニヤリと歪めて、嫌らしい笑みを作る。
「……やっばり、いいわ。無抵抗な奴を一方的に弄ぶ。たまんないわね、これ」
なんてことを呟く少女。なんだかとっても生き生きしていらっしゃった。
ああ、知ってる。俺は知ってるぞ。これは所謂『ドS』という人種だ。
「とりあえず、もう一発」
(以下略)。
「あー、やっぱ、いい。人間を殴るのは最高にいいわ」
恍惚とした表情を浮かべ始めた。心なしか息が粗い。いやまて、なんかやばくない?いや、すでに今もヤバめな状況だけど!さらに悪化しそうですよ!?
「……ふふふ。変態、あんたに提案があるんだけど、聞く?」
「……え?ていあ――」
バキッ。
「あれ?私発言していいって言った?言ってないよね?」
「……」
バキッ。
「無能。黙ってないで、もっと気の利いた反応示しなさいよ。この愚図」
「ご――」
バキッ。
「あはは」
「……うぅ」
バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。バキッ。
中略。
「んー、すっきり。って、あれ?気絶しちゃった?」
「……」
バキッ。
「……」
「本当に気絶してるみたいね。まあ、不法侵入の変態には当然の仕打ちよね。必要悪。必要悪。どれ警察呼びましょうか」
「……」
「……うーん。でもなぁ……ここで警察にすんなり引き渡しても、たいして私にメリットないわよね……」
「……」
「……いいこと思い付いた」
「……」
「……うふふ」
見下し、ニヤリニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる少女。
鈴郷暁の一つ年下の妹で、人を疑うことを知らない真っ直ぐな姉とは違い、歪んだ感性をもつ捻くれた少女。
――鈴郷有灯……。
そんな彼女と俺が、これから切っても切れない深い仲になるなんて、この時、ぶざまにも気絶している俺には知りえることではなかった。
もちろん、それは俺を見下ろし、あらぬことを考えている有灯さんも、同じことだった。