牛乳瓶に想いをこめて
うちの中学校の給食はちょっと珍しい。周りの他の中学の給食の牛乳は紙パックなのに、ウチの学校だけ瓶牛乳なのだ。他の学校から仲間外れにされているみたいで、俺はそれが嫌だった。でも、隣の中学にいった友達にこの話をしたらとてもうらやましがっていた。牛乳の紙パックは飲み終わった後に潰して開くらしいのだが、その時手が牛乳で汚れてしまうのが嫌なのだそうだ。飲みにくい上に割れたら危ない瓶より紙パックの方がいい、そう言い返したが、それでも彼女は「瓶牛乳の方がいいに決まっている」と答えた。
ある日の給食の時間、俺はふと思いついた。彼女に瓶牛乳を飲ませてあげよう。そうすれば、瓶より紙パックの方がいいと思いなおすに違いない。俺はご飯をおかわりしに行くふりをして、配膳台に置いてある余った牛乳を誰に気づかれないよう忍びとって席に戻り、カバンに滑り込ませた。帰りのホームルームで牛乳瓶が一つ足りなかったと騒ぎになったが、俺が犯人だということはバレなかった。
早く彼女の家へ行って瓶牛乳を届けてやろう。帰りの挨拶が済み教室を出ようとしたとき、クラスメイトの一人が俺を引き留めた。それは昨日発売されたばかりのゲームをみんなで一緒にやらないかという、十四歳の俺にとってあまりにも魅力的すぎる誘いだった。その後俺が瓶牛乳の存在を思い出したのは、他のクラスメイトとともに彼の家の玄関を出た時のことだった。
帰り道、暗くてよく見えなかったが、牛乳は腐っているような気がした。俺は瓶のふたを開け中身を側溝へぶちまけた。瓶は明日の給食の時にさりげなく返しておこう。何も牛乳が余るのは珍しいことじゃない。彼女へ瓶牛乳を届けるのはまた今度にしよう。自分にそう言い聞かせた。
その日の夜。俺は勉強机に置いた空の瓶を見て、彼女のことを思い出していた。俺はなぜこんなことにこだわっているのだろうか。瓶だろうが紙パックだろうが、別にどっちだっていいじゃないか。わざわざ彼女に瓶牛乳を届ける必要なんて、一切ないじゃないか。彼女は、ただの友達……なのだから。
気が付けばノートにペンを走らせていた。彼女への気持ちで空白がかき消されていく。もうとっくに日をまたいでいるのに目がさえて仕方がない。今更ながら、自分がこんなにも彼女のことを想っていたことに気が付く。
そのページを切り取り、細長く折りたたんで、瓶に入れてふたをした。今日こそ、牛乳瓶を彼女に届けよう。
読んでいただきありがとうございます。
例のごとく企画応募作品です。そして例によって稚拙な文章で申し訳ございません。企画募集中はあと一つ二つ作品を執筆する予定ですのでそちらも見ていただけると幸いです。
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