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迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~  作者: あおい彗星(仮)
第8夜 心休める時
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第4話 寂しさと驚きと

 きっと大人は馬鹿にするであろう願いを信じて、結んだ約束。たぶん、あの子も欲しかったのだろう、一緒に信じてくれる人が。


 それでもよかった。あのときの私は、あまりにも兄を頼りにしすぎて、一人じゃなにもできなくて……。

 きっと、誰にも必要とされない、誰にもみつけてもらえない。そう思って、怖かった。それこそ、世界すべてに否定されるんじゃないかってくらい。

 だから、一緒に探そうって。一緒に鬼狩りになろうって言われたときに、嬉しかった。まるで居場所をくれて、一緒にいるよって言われたみたいで。


「嬉しかったんだ……」


 緋鞠は、はにかむように笑うと、折り鶴から少し離れる。


 けれど、ここまで鬼狩りが過酷だと思わなかった。それこそ、正義の味方ぐらいにしか思ってなかったのが正直なところ。だから、少し思ってしまう。

 少年が鬼狩りになっていてほしくないな、と。

 傷ついてほしくない。怖い目にあってほしくない。けど──。


「会いたいな……」


 胸のうちからこぼれ落ちた本心。小さく呟くと、突然折り鶴ががさがさと激しく動く。

 どうしたのだろう。


「どうし……あれ?」


 折り鶴へと伸ばした手に、水滴が落ちてきた。雨とは違う、温かい雫。自身の頬に触れると、それは自分の流した涙だった。


「なんで、私……」


 拭っても、あふれでてくる涙に焦りの方が大きくなる。折り鶴は小さな体でティッシュを引きずってきたり、頭を撫でるように飛び回る。


「ごめんね、ごめん! 何でもないの……!」


 今日はなんだか泣いてばかりな気がする。地下牢で目が覚めたとき、まったく体に力が入らなくて、わけもわからず泣いてしまったし。

 そういえば、澪には言わなかったけれど、温かい手が気遣うように撫でてくれていたのは覚えていた。だからだろうか、なんだか寂しく思ってしまうのは。

 頑張って止めようと目を擦るたび、どんどん涙が溢れていった。


 ──ガタンッ!


「!?」


 突然、なにか崩れたかのような音が聞こえた。驚いて、襖の方を見る。緋鞠は折り鶴と顔を見合わせると、そっと襖に近づいた。

さっきの音で驚いた拍子に、ぱったりと涙は止まっていた。


 ゆっくりと、静かに襖を開ける。廊下の向かい側に、もう一つ部屋があるようだった。この部屋から聞こえてきた気がする。

フローリングの床が小さく軋む音が響き、一旦部屋の前で止まった。

ふぅと息を整えて──。


「失礼しまーす……」


 そぉーっと、襖をゆっくりと開いた。なかは薄暗くてよく見えないが、ベッド一つにキャビネットといったシンプルな部屋。緋鞠が使っている部屋と同じ造りだった。おそらく、病室だろう。


「明かりないかな?」


 すると、折り鶴がまっすぐ飛んでいき、壁に備えられた小さな明かりをつけてくれる。オレンジ色の薄暗い光が、部屋のなかを照らしてくれた。

 ぐるりと部屋のなかを見回すけれど、パッと見た限り変わったところはない。

 もしかしたら何か妖怪が入り込んだのかと思ったが、その様子もなさそうだ。


(だとしたら、何か物が落ちたとか?)


 一応、ベッド横も見ておこう。

 そう思い、ベッド横を覗き込んだ。明かりの当たらない、黒い影しか見えない。と、思いきや──。


 ごそごそと、何かが蠢く音がする。


「……へ?」


 ガタゴトと壁にぶつかりながら、まるで芋虫のようなシルエットがだんだんと浮かび上がってくる。その得たいの知れない生き物か、妖怪かにだんだん恐怖を覚え、後退りする。びたっと壁にぶつかり、逃げ場がない。


「ひ、ひいぃぃやぁぁああ!?」


 現れたのは──。


◇◆◇


 蔵の地下にある蔵書室。床から天井まで本で埋め尽くされていた。その奥の蔵書に囲まれた一画、机に椅子の小さな読書スペースがあった。


 小さな燈籠の灯り一つを頼りに、澪は積まれた本を片っ端から捲っていく。紐で綴じられた和装本を捲る音が響き渡り、やがてあった本の塔は横に移動していった。そして最後の本を手にとり、パラパラと扇状に中身を確認すると、パタリと閉じた。


「……ないねぇ」


 ふぅと息を吐いて、頬杖をつく。


 昼間、無理な呪術の使用で翼は瀕死の状態となっていた。呼吸が浅く、心音は弱まり、青ざめていたそうだ。外傷はなく、石畳は血で染まっていた。おそらく肺の損傷に伴った吐血の症状だろう。零の報告から見て、失血の量もそこそこ多い。


 澪が駆けつけたときには、京奈はぼろぼろに泣いていて、零も珍しく暗い表情をしていた。だから、本当に驚いた。


『と、突然ね、ぴゃーってなって、パァァァって。それでしゅわわわわってなったの……! そしたら、そしたら……!』

『姐さん、いつの間にスゴイの開発してたンですカィ?』

『はあ!? なんの話だい! それより翼は!?』


 二人を押し退けるようにして見えた光景に、目を疑った。


「……まさか、きれいに治っちまってるとはねぇ」


 そこにいたのは、不思議そうな顔をして座り込む翼の姿だった。

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