↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~  作者: あおい彗星(仮)
第7夜 忘却の地下牢
PR
80/113

第14話 助っ人

 ──ドンッ!


 気が逸れた瞬間、大雅は思いきり女を突き飛ばす。地面に倒れ込み、酸素を取り込もうと大きく息をして咳き込んだ。


 女は邪魔が入ったことで、さらに険しい表情をする。大雅の方は見向きもせずに、立ち上がって二人を睨み付けた。

 澪はその視線を気にすることなく、煙を燻らせる。


「そう険しい顔をしなさんな。うちの隊長を丁重にもてなしてくれたんだろう? なら、こちらも礼をしないとねぇ」


 バサッと懐から扇を取り出すと、零が三味線を構えた。

 零がいつも持ち歩いているあの不気味な人形を思わせる、ツギハギだらけの三味線。細く、繊細な音が通路内に響き渡る。


『うぁ……! 頭が──』


 人間にとっては、美しい旋律。けれど、妖怪には毒の音波。

 直接脳を針で刺されているような感覚と痛みに、女は悲鳴を上げた。それを見て、澪は意地の悪い笑みを浮かべる。


「いい演奏だろう。こいつは阿呆でどうしようもない奴だが、演奏はぴか一でね。あたいの気に入りさ」


 そうして煙管を懐にしまうと、扇を構えた。カンッと下駄を高く鳴らすと、足元に赤い陣が浮かび上がる。


「それじゃあ今度はあたいの番さ。炎舞(えんぶ)・迦楼羅(かるら)──篤(とく)と見よ」


 三味線の演奏に合わせて舞い踊る。扇で描き出す一つ一つの所作と特殊な下駄で踏み鳴らす音。この二つを組合わせることで術式が完成する陰陽舞楽。


 扇をかざすたび、舞うたびに。二重、三重と陣が重なっていく。女はそれを止めようと、必死の形相で手をかざした。先ほどとは比べ物にならない、小さな火の玉。しかし、それを零の生み出す音波が一瞬で消してしまう。大雅との戦闘でほとんど力が残っていなかった。

 女は悔しげに顔を歪ませると、大雅に向かって指を指す。


『貴様の顔は覚えたぞ! いつか必ず報復してやるからな!!』


 それだけ言い残すと、女は通路奥へと走っていく。それを見て、澪と零は術式の起動準備に入った。


「逃がすか!」


 澪がカンッと思いきり下駄を踏むと、今まで蓄積された術式が眩い光を放つ。扇を上へかざすと、足元から炎の渦が舞い上がり、炎の鳥が現れた。


 ──パチンッ!


「やっちまいな!」


 扇を閉じると同時に、鳥は女に向かってロケットのように発射する。二メートルほどの大きな炎の鳥は、辺りに熱を撒き散らしながら飛んでいく。

 女が影に飛び込もうとした瞬間──。


 ──キィィィィ!!


 人を丸々飲み込めるほど大口を開け、上から影に向かってかぶりついた。地面を揺らすほどの轟音。ガリガリと石畳を削る音が響き、さらに火力が増した。そうしてごくりと飲み込むと、体を竜巻のように変化させ、熱と回転で相手を徹底的に砕く。最後に天井に向かって火柱が登ると、天井が焼き焦がしながら消えていった。


 澪は一度目を閉じて、辺りの気配を探る。

 天井から舞い落ちる残骸。すべて焼け焦げ、形も残っていなかった。

 だが、わずかに妖力の気配を感じた。


(仕留め損ねたか)


「零、追──」

「追うな」


 大雅は掠れた声で止める。まだ若干息苦しさが残り、軽く咳をした。


 ポフンっ!


 可愛らしい音とともに、零の人形が表れた。大雅の周りを一周すると、不気味な笑い声を上げる。


『ゲヒャヒャヒャ! 隊長、少し焼かれてイイ男になったんジャないカァ?』

「けほっ。え、レアじゃなくてミディアムがモテる時代なの?」

『ウェルダンもオススメ☆』


 澪はスパァンと軽く二人の頭を叩いた。痛みで踞る男共を呆れた顔で見下ろす。


「二人とも馬鹿言ってんじゃないよ! たくっ……本当に追わなくていいのかい?」

「ああ。陰陽院の奴等になら、術の痕跡から大体居場所を割り出せるだろ。ていうか、おまえらなんでいるの?」

「翼から連絡もらってね」


 そういって懐から出されたのは、人形の小さな紙──式神だった。人形の紙に術式を書き、霊力を流すことによって術師の姿形を真似ることできる。

 また、表に術式、裏に伝言を書いて紙のまま飛ばす方法。これが一般的であった。


 翼の放った式神には『救援 地下牢 緋鞠』と書いてある。


「いつの間に……」

「あんたがなんかやらかすと思ってたんだろうねぇ」

「俺のせいじゃねぇし」

「おやぁ? なら何でそんなにボロボロで、緋鞠を霊符で囲ってんだい?」


 大雅は罰悪そうにそっぽを向いた。それを見て、二人は顔を見合わせて笑う。


「まぁいいさ。軽く応急処置するよ」

「俺は後回しでい、いって!! バッカ! つつくな!」


 一番重傷な右手を、零がつついたのだ。痛みで涙目になる大雅を見て、零は楽しげにケタケタ笑う。

 そのまま『嬢ちゃんを見ててやるヨォ』と、霊符の方へ向かった。一体なんだったのか。澪はけらけらと笑い、大雅は肩を落とした。


「……はぁ、わぶっ!?」


 大雅の顔面に、勢いよく何かがぶつかる。剥がしてみると、手のひらサイズの人形の紙、式神だった。


「なんで顔面!? てか誰……」


 伝言を読んで、大雅の表情が凍りついた。澪はそれを見て、横から覗く。急いで書いたのか、字がひどく歪んで読みにくい。けれど、ショックを与えるには十分な内容だった。


“翼 命 危険 来て”


 その頃──。


 何か強い衝撃を受けたのだろう、ボロボロになった地下牢の中。呼吸が止まり、心臓の音も弱々しくなっている翼に、京奈は必死に医療術を施していた。


「お願い……死なないで!!」


 涙でぬれ、血だらけの手で必死に両手をかざす。澪から習っていた医療術式。それを用いてなお、事態は好転しない。


 どうしてこうなってしまったのか。


 京奈は自分を責めながら、先ほどの出来事を思い返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。