表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~  作者: あおい彗星(仮)
第6夜 夢みる羊
64/113

第12話 測定終わり!

 瞳を閉じた緋鞠の全身を、霊力が駆け巡る。両手両足の末端まで温かい力が流れ込み、身体に重力を感じた。


『緋鞠! 後ろだ!』


 かっと瞳を開けて、背後に回し蹴りを放つ。

 足の裏に重い金属を感じる。いつもの緋鞠なら力負けするだろうが、子供の拳のように軽く、ほんの少し力を入れただけで、軽いボールのように飛んでいった。


 地面に足を着くと、身体がいつもよりも軽い。

 違和感があるとすれば、頭とお尻だ。ぺたぺたと触ると、頭上には三角の耳、尻には尻尾が付いている。


『これ、どうなってるんだ!?』


 頭に響くのは銀狼の声。なるほど、これが憑依。


 いつもより軽い身体。まるで、銀狼がすぐ隣にいるかのような温かさ。さきほどの不安はすっかり消えていた。

 向かって来る弾丸を次々と蹴り飛ばしながら、声をあげる。


「憑依って楽しー!!」

『あほう! 楽しんでる場合か! もう時間がないぞ!!』

「あ、そうだった」


 グラウンドに着地し、気絶していた少女をふわりと抱き上げる。

 新たな弾丸が襲って来る前に、一気にスタート地点まで駆け抜ける──!


「憑依術・疾風(しっぷう)


 風の刻印が浮かび上がり、小さな竜巻を生み出された。

 たんっと地面を蹴ると、景色が後ろに流れる。

 風と一体になったような感覚が気持ちいい。思念で銀狼に話しかける。


『銀狼!』

『なんだ?』

『銀狼が走るのが楽しいって言ってた意味が、わかった気がする!』


 風の中に、小さな霊力をいくつも感じる。可愛らしい小さな笑い声は、きっと風の精だろう。

銀狼は楽しげな緋鞠を見て、焦りで強張っていた表情を緩めた。背に乗せて走ることは合っても、こんな風に共に駆けることは初めてではある。


(……少しくらい、いいか)


とはいっても、本当に余裕はない。銀狼は周りに注意しながら、こっそり術の調整などをしておく。そうして時計を見れば、時計の針がカチリと進んだ。


『あと一分で測定が終わるぞ』

『了解! もうひと踏ん張り!』


最後は思いっきり踏み込んでゴールしちゃお!


「ん?」


 視線を地面に向けると、緑色の矢印が浮かんでいた。踏んでおくれといわんばかりに光る矢印。緋鞠は好奇心からそこに降り立つ。


「わぁ! こんなのあったっけぇぇぇぇぇ!!!!??」


 矢印がぼんっと破裂し、蹴られたボールのように空中に投げ出された。勢いが強く、方向転換もできない。

 少女だけは落とさないように、緋鞠はがっちりと抱きしめる。


そのころ、囲いの外では──。


(どうしましょう。どうしましょう!)


 愛良は日傘を握りしめながら、教師と生徒の一触即発の状態におろおろしていた。


 ──怒らせるつもりはなかったのに。

 ──傷つけるつもりはなかったのに。


 やっぱり星の導きのとおりにすればよかったの?

 それとも私じゃダメだった?


 小石程度しかなかった教師としての自信が、さらに小さくなっていく。

 いつもそうだ。占星術で占ったとおりにすれば上手くいき、自身で考えて決めたものは失敗する。


 愛良の頭の中が真っ白になり、視界がうっすらと歪んできた。


 ──ごめんね。上手くできなくて、ごめ……。


 そのとき、遠くから叫び声が聞こえた。

 愛良のネガティブ思考を掻き消すほどの声。

 顔を空へと向ければ、流れ星のようにこちらに向かって落ちてくる女生徒たちが見えた。


「えええええっ!!??」


 このままでは、地面にぶつかってしまう!!


 日傘を空へと向け、霊力を流し込む。傘に描かれた羊模様が淡く光り輝いたことを確認すると、手元のボタンを押した。


「下弦の一・羊さんの大行進(ゴーゴーひつじさん)!」


 モフン☆ 


 効果音と共に、羊たちが傘の先からあふれてくる。

 羊たちはめえめえ言いながら、天まで届きそうな高い壁を形成した。落ちてきた女生徒たちが羊の壁にぼふんっと突っ込んだ。


 ──間に合った!!


 ほっとした愛良は急いで羊の壁に向かい、羊の中から女生徒を探す。


「貴女たち、無事ですか!?」


 愛良のすぐそばの羊毛の中から、にょきっと手が生えた。そして、疲れきった表情の女生徒が顔を出す。


「ふああ、助かったあ……」


 次に狼の鼻先が出て来た。


『……さすがに死ぬかと思ったぞ』


 もう一人いた女生徒も無事なようだった。


「ここどこですぅうう!?」

「よ、よかったぁぁぁ!」


 愛良はふたりと一匹を抱きしめながら、子どものようにわーんわーんと声をあげる愛良にふたりは驚いてなにも言えなかった。


 遠くで授業終了のチャイムが聞こえて、緋鞠ははっとした。


「あっ、先生。あの、これって合格ですか!?」

「もともと不合格なんてありませぇんよぉ!!」

「えぇっ!?」

「どっから出てきたんですかそれぇ! 私、ただ模擬試験をするのが心配で、ちょーっと難しくしただけですよぅ! でもごめんねぇ……!!」

「えっ、じゃあ、私が勝手に勘違いしたの? いや、でも普通カウントダウンされたら、勘違いもする、よ、ね………?」


 ぐずぐず鼻をすする愛良の声を聴きながら、緋鞠は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ