第4話 メェメェ羊さん!
愛良のかけ声と共に、生徒たちは渋々と囲いの中に入っていく。持ち物の制限はなかったため、銀狼を肩に乗せたまま、緋鞠と琴音も囲いを飛び越えた。
ラッキーなことにすぐ近くで羊が一匹、草をはむはむと食べている。
もこもこでふわふわの毛。つぶらな瞳。どこからどう見ても普通の羊だ。
「これで捕まえればいいんだよね?」
先ほど配られた網は術で作られたこともあってか、心許ないほど軽く、羊よりも小さい。
「本当にこれで捕まえられるんでしょうか……」
珍しく琴音も訝しげに網を見つめている。あれだけ風変わりな担任だ。なにかおかしな仕掛けがあるのではないかと疑いたくなる気持ちもわかる。
「とりあえずやってみよう」
ぴょんっと銀狼が緋鞠の肩から地面へと飛び降りた。
緋鞠はそっと足音を立てないように羊に近づく。羊は食事に夢中でまったく気づかない。
羊の背後に立った緋鞠は、網を振りかざした。
「えいや!」
ポシュン☆
可愛らしい音を立て、羊が煙に包まれる。
「よし、一匹捕獲!」
「やりましたね、緋鞠ちゃん」
「わっふわっふ」
「この調子で、どんどんいっちゃうよ~! ……え」
腕まくりをする緋鞠の目の前で、ふわもこだった羊たちが変貌していく。丸い角は鋭角な角に、全身の毛はメタルちっくな色合いに。
パンパカパーン! の効果音を空耳に、姿を現したのはメカ羊だった。
「えええええ!?」
メカ羊の赤い瞳がピカーンと光る。
『メェェー!!』
「あっ、そこは変わらないんだ……!」
なんて言ってる場合ではない。
いつの間にやら、メカ羊たちが緋鞠を取り囲んでいる。
「緋鞠ちゃん、逃げて!!」
「ぎゃわわんっ(緋鞠、逃げろ)!!」
「えっ、ちょっ、まっ!! 羊ちゃんたち、落ち着いて!!」
『ンメェェー!!』
「いやああっ!?」
十匹近くはいるメカ羊に詰め寄られた緋鞠は、袖に仕込んでおいた『速』の霊符を足に使用し、羊たちの包囲網からスライディングして抜け出した。そのまま態勢を立て直し、メカ羊たちから遁走を始める。
霊符を使えば軽く時速三十キロは出る。さすがに追いついてはこれまい。ふふんっと慢心したのが悪かった。
『メェェー!!』
とっさにしゃがみこむと、頭上を弾丸のようにメカ羊が通りすぎた。背後を振り返ると、メカ羊たちは瞳を真っ赤にし、緋鞠めがけて追いかけて来る。
これは完全に敵認定されているようだ。
「ご、ごごごごめんなさい! ごめんなさいごめんなさーい!!」
あまりの狂暴さに半泣きになりながら、緋鞠はぐんっとスピードを上げる。ほかの生徒たちを間を縫うように走るが、メカ羊たちはぴったりと緋鞠についてくる。
「わんわんわん!! (危ない!!)」
メカ羊たちに追いかけられる緋鞠の姿を茫然と見ていた琴音は、銀狼の声にはっと我にかえり、天に向かって手をかざす。
「弦月!」
琴音の手に黒い弓が現れる。メカ羊たちに向かって弓をつがえると、琴音の右目がスコープに覆われた。メカ羊たちは動きが速いが、弦月がサポートに用意してくれたスコープのおかげでなんとか姿を捉えられる。
しかし、メカ羊は体も角も鋼鉄に変わっていて弓ではたいしたダメージは与えられそうにない。瞳はなんとなく、可哀想で射ることができそうにもない。
……なら、狙うは一点!
「緋鞠ちゃん、今助けますからね!!」
ぐっとひきしぼった弓に、霊力を行き渡らせる。指の間に三本の弓矢が出現した。
「疾っ!」
琴音から放たれた矢は、鷹のように獲物目掛けてまっすぐに飛んでいく。
『メッ……!』
矢がメカ羊の額を撃ち抜いた。ガシャンと、音を立ててメカ羊が次々と倒れる。足元でじたばたしていた銀狼が、緋鞠を助けに転げるように向かった。
「がうがうっ (今、行くぞ)!!」
「頑張ってください!!」
琴音は再び矢をつがえると、残りのメカ羊たちに狙いを定めた。
◇◆◇
緋鞠の背後で、鈍い音が聞こえた。
背後を確認すれば、羊たちの額に黒い矢が刺さっているのが見える。
「琴音ちゃん、ありがとうっ!!」
琴音にお礼を言いながら、手前にいたメカ羊を踏み台にし大きく跳躍する。私も逃げてばかりではなく、応戦しなければ。
「月姫!!」
左手の封月が光り、右手に黒い筆が現れた。
逃げ場のない空中にいる緋鞠に向かって飛び込んでくるメカ羊を筆で叩き落とす。
『なんだか面白いことになってるわね!』
「ぜんっぜん面白くないよ!」
月姫は地上で見るものすべてが新鮮な様子だ。楽しそうにしている月姫を軽く睨みつけながら、グラウンドに着地するとドンッと横から強い衝撃が襲ってきた。
「なっ……!」
ごろごろとグラウンドを転がった緋鞠が身体を起こすと、額に傷を負ったメカ羊と目が合った。他にも傷を負ったはずの羊たちがぞろぞろと集まってくる。
「嘘……封月で倒したのに、効いてない!?」
網でも捕まえれない。封月でも倒せない。そしたら、一体どうすればいいの。
緋鞠は焦るなか、ぎゅっと月姫を握り直した。




