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迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~  作者: あおい彗星(仮)
第4夜 天岩戸の天照
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第1話 会合

第4夜 天岩戸の天照 始まりです。

よろしくお願いします!

 緋鞠が目を覚ますと、白い天井と白いカーテンが目に入った。部屋の中は薄暗く、消毒液のツンとした匂いが鼻につく。


 ここは病院だろうか?


 目を瞑り、深く息を吸い込んだ。


 校庭に広がる血溜まり。

 積み上がった死体。

 不敵に笑う月鬼。

 重い怪我を負った──。


「そうだ、翼!!」


 ベッドから飛び起きる。

 気を失う寸前に誰かに翼のことを頼んだが、ちゃんと聞いてくれただろうか?


 治癒はかけたといっても緋鞠は本職ではない。

 不安が押し寄せる。


 ベッドから飛び降りると、柔らかいふさふさしたものを踏んづけた。


『いっだぁ!?』

「きゃーっ、銀狼!? ごめん!!!」


 緋鞠が踏んだのは銀狼の尻尾だったようだ。

 全身をぷるぷると震わせている銀狼に、何度も謝った。


『目が覚めたんだな。身体のほうは? 大丈夫か?』


 銀狼が顔をあげた。

 痛みのせいか、黄金の瞳が潤んでいる。


「え? あ」


 銀狼に言われて初めて自身の怪我を思い出す。

 四鬼に傷つけられ、包帯で巻かれた右手を握ってみる。


「っ」


 ひきつれた痛みに、息を飲んだ。


『痛むのか?』

「そんなに痛くないよ!」


 笑顔で答えると、銀狼はむっとした。


『我慢は良くないぞ。きちんと治療を施してもらえ』

「そんなことより!」


 ナースコールに手をかける銀狼の身体をガシッと掴む。


「翼、死んでないよね!?」

『はあ!? あの小僧のことなんか知らん!』

「危ないところを助けてもらったんだよ! 死んでないよね!?」

『知らんと言っているだろうが!」

「あとあと、琴音ちゃん! どうなったか知ってる? 無事だよね!?」

『そいつこそ知らんわ!!』


 スパーンっ! と扉を開いた。

 一人と一匹が扉を注目する中、入ってきたのは一人の看護師だった。


「神野さん、お目覚めになったのね。よかったわぁ」

「あ、ありがとうございます……」


 表情は笑っているけれど、目が笑ってない。


 あれ? 背後に般若が見えるよ?


「あんまり騒がないでね。安静にしている他の患者さんに迷惑だから」

「はい、気をつけます……!」

「よろしい」


 先生を呼んでくるわね、と、背に向けた看護師に声をかけた。


「三國翼くんと花咲琴音ちゃんは、無事ですか?」

「花咲さんは検査入院していたけど、昨日退院したわよ」

「そうですか! よかった」


 その言葉を聞いて心の底から安心した。あの月鬼は約束を守ってくれたのだ。


「で、三國くんのほうだけど、病院(ここ)には来てないわ」

「えっ!? どうして? あんな大怪我をしたのに!?」

「大怪我? そんなのしてたかしら……。確か、無傷だったはずよ」


 そう話すと、看護師が病室から出ていく。


 緋鞠は訳がわからず、固まった。


 見たところ、翼の傷は内臓にまで達していたはずだ。それに地面を染めるほど出血量が多かった。

 また治療を施す術は基本的に霊力を常に継続して流し続けなければならず、失った血液を形成するなど不可能だ。

 つまり、あれだけで完治など不可能。


 考えて考えて考えて……。

 混乱してショート寸前の緋鞠の頭を、銀狼が軽く叩いたが、そのまま医者が来るまでぐるぐるしていたのだった。


  ◇◆◇


 薄暗い部屋の中、円卓に五つの席が用意されていた。


 鐘が十二刻を告げると、空席だった場所に青白い炎が次々と浮かび上がる。全員白袴を着用し、顔には面を付けている。違いといえば、放つ気の色ぐらいであった。


 ()()は五代元帥たちが、この会合のためにそれぞれ放った式神だった。


 面に壱と書かれた式神は、ひとつ咳払いをすると嗄れた声を出した。


「──此度集まってもらったのは他でもない、五日前に起こった学園の襲撃事件についてである」


 ──鬼狩り試験中の月鬼による襲撃事件。


 試験時間が半刻を過ぎた頃、結界の異常を確認。

 警報が鳴った時点で学園の結界はすでに破壊され、外部との連絡は一切封じられていた。


 その際、参加者の一部は宿泊施設に強制送還。そこで式神の襲撃を受け、十五人中三人が死亡。


 三十人の参加者が残された学園では、月鬼による虐殺が行われた。

 取り残された三十人のうち十六人が死亡。また、警備員二名を含めた二十一人が死亡した。


「この件について、報告を願えますかな」


 参の面をつけた式神が軽くうなずいた。


「確認したところ、結界を破壊。月鬼を手引きしたのは、十二鬼将の一人、四鬼と断定いたしました」


 その言葉を聞いて、全員が息を飲んだ。

 十二鬼将とは、月鬼の最強の武人である。人の姿をしながら額に角を持ち、月鬼を操る力を持つ。

 一から十二の数字を受け持つ彼らを殺さなければ月との戦は終わらない。


 弐の式神は声を荒げた。


「そんな馬鹿な! 十二鬼将がどうして学園に現れる!?」

「遭遇した三國一等兵が証言してくれました。四鬼と名乗っていたそうです」

「たかだか一等兵の証言など信用ならん!」

「彼の所属する五十四隊隊長、夜霧大尉から結界を書き換えたとみられる霊玉を提出されています。それに加えもう一名、試験参加者の少女からも証言は得られています。それでも信用なりませんか?」


 反論ができない弐に対し、伍は静かに落ち着いた声音で話を続けた。


「その少女は意識不明と聞いていましたが、目覚めたのですか?」

「はい、つい先程。三國一等兵の証言によれば、彼女の奮闘により四鬼が傷を負っていたと」

「そんなわけあるか!!」


 弐が椅子から勢いよく立ち上がる。


「十二鬼将を千年で殺せたのは、たったの五人。しかもそのうちの一人は十年前の討伐任務で、精鋭三百人もの死傷者を出してやっと討ち取れたんだ! それをたった一人の、契約したばかりの小娘が傷をつけたなど、そんなふざけた話があるか!」

「可能性はあります」


 言い切った肆に向かって、弐は詰め寄った。


「なんだと!?」


 しかし、肆は懐から扇を取り出し自身をあおぐ。


「彼女が#そういう()()であるならば、あり得ぬ話ではないはずです。それに貴殿方も見たでしょう。月に届かんばかりの光の柱を」


 月鬼を殺すことに長け、月の恩寵を最大限に受けられる人種。五代元帥たちには心当たりがないわけではなかった。


 静かになる場を、壱は咳払いをして再び声を上げた。


「どちらにせよ、彼女の調査任務はこれからも続けてもらわねばならんな。任務を請け負っている隊員に加え、監視者を一人加えておけ」

「御意に」


 参が恭しく首を垂れる。


「学園はしかるべき鎮魂の儀を行い次第、校舎の修復作業に入る。人選の確保を頼んだぞ」


 弐は軽く舌打ちをし、了承の返事をした。


「学園都市、また大和自体の結界の強化。それと新入生の訓練内容を大幅に変える必要もある。彼らに生き残る術を早急に叩き込め。少々厳しくても構わん」


 肆は扇をぱちんと閉じた。


「最後に十二鬼将の行方を探れ。しかし、奴らに気づかれぬよう、少数精鋭でだ。今人員が減るのは痛い」


 伍が無言のまま頷いた。


 そうして、五代元帥たちは会合を終えた。

 式神は本来の姿──人型の和紙に戻ると、ぽっと発火し、静かに燃えて、消えた。

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