第8話 味方?
男は銀狼のそばまでやってくると、大型二輪車を停め、フルフェイスのヘルメットを脱いだ。癖のある紺色の髪と白銀の瞳が特徴的な若い男は、銀狼を見るとにかっと笑う。
「ワン公。無事みたいだな!」
『無事、だと!? 危ないではないか!』
「ちゃんと避けろって指示出したろ?」
銀狼のもふもふな尻尾が、飛び散った火花で危うく焦げつくところだった。
|携帯式対戦車ロケット弾発射器を担いだ女のほうは、興奮冷めやらぬ様子で、後部シートからぴょんと飛び下りる。淡い桃色のショートヘアに、マスカット色の瞳をキラキラとさせた若い女。
「隊長、見た見た!? 顔面にクリーンヒット! ねぇねぇ、すごい!?」
「あーはいはい。すごいすごい」
(なんだこの緊張感のないやつらは……)
銀狼が呆れながら二人のやり取りを見守るしかなかった。そのとき、視界にとあるマークを見つける。
『ん? おまえたち、暁の人間か!?』
隊長と呼んだ男の周りを、兎のように跳び跳ねる女のジャケットの背に昇る日の出と月鬼のマーク──暁の紋様を確認した銀狼は、思わず声をあげる。
「ああ。俺は第五十四隊、隊長の夜霧大雅だ」
男がジャケットの胸ポケットから、手帳を取り出して銀狼に見せる。そこには暁と五十四のマーク。
「同じく第五十四隊、隊員の篝京奈だよ!」
京奈は|携帯式対戦車ロケット弾発射器を担いだまま、誇らしげに胸を張る。
唖雅沙のような厳格な人間ばかりかと思いきや、こんな規格外な人間もいるのか。
「お、お出ましだな」
大雅の声に、銀狼が顔を上げる。
大きな爆発音をさせたせいか、数えきれないほどの月鬼たちが、銀狼たちの向かって押し寄せて来るのが見えた。
「それじゃあ、ワン公は下がってな」
『誰がワン公だ! 俺は誇り高き狼だ!』
「ワンちゃん、危ないよ! こっちにおいで~!」
『おいっ!』
銀狼をひょいっと俵担ぎにした京奈は、反対側の肩に|携帯式対戦車ロケット弾発射器を担いだ。
「よーし、いくよぉっ!! てーい!!」
京奈の霊力によって作られたロケット弾が、月鬼たちに向かって炸裂した。ドカンドカン、とすさまじい爆発音と立ち昇る煙に、聴覚や嗅覚にすぐれた銀狼の五感が麻痺してくる。
『おい、離せ! 俺は中に入りたいんだ!』
「ダメダメ。中は危険でいーっぱいなの!」
じたばたしながら京奈の肩から逃れようとするが、がっちり捕まれているせいで抜け出せない。
『緋鞠が! 俺の主が、中にいるんだ!』
銀狼の言葉に、大雅がぴくりと肩を揺らした。
白銀の瞳が探るように銀狼を捉える。
「おまえ、あの子の飼い犬か?」
『誰が飼い犬だ! というか、緋鞠を知っているのか!?』
「なるほどなるほど」
銀狼を無視したまま大雅が納得したように頷いている。
「朧月」
大雅の封月が輝き、右手に月明かりが集約され、刀が現れる。と同時に、大雅が月鬼たちの群れに突っ込んでいった。
『お、おい、大丈夫なのか?』
「心配ないよん♪」
京奈の言葉に頷くも、銀狼ははらはらしながら、月鬼の中に埋もれる大雅の背中を見守った。
「弓月の一・霞斬り」
──キ……ン!
その場を埋め尽くすほどの月鬼が動きを止める。一瞬のうちに斬り込みが入ったかと思えば、一斉に残骸となって消えた。
『な、んだと……?』
「隊長の朧月は刀身をさまざまな状態に変化できるんだよ~。すごいでしょ?」
京奈がえっへん、と胸を張った。
『あ、ああ……』
何が起きたのか、まったく分からなかった。
大雅が月鬼たちの間で、舞を舞うように動いているのは見えた。だが、手にしている刀には刀身がなかったように見えた。刀身もないのに、どうやって月鬼たちを倒したのだろうか?
また、朧月の能力も関係しているだろうか。周囲の建築物を傷つけずに月鬼のみを斬り払っている。
さすがは隊長格──。
戻ってきた大雅が京奈に頭にチョップを食らわせた。
「なんでおまえが偉そうなんだよ」
「痛いっ! ひどいよ、隊長! そこはフツーに頭なでなで、でしょー!?」
「うるさいやつは撫でてやらない」
「ひどーい! うわーん!」
こういう茶番劇がなければ、素直に尊敬できるのだが……。呆れて見つめる銀狼の前に大雅が屈んだ。
「ワン公」
『俺には銀狼という立派な名がある!』
「そうか、銀狼」
『なんだ?』
「今、結界を壊すのに、人員を割いててな。中に突入するのに、人員が不足しているんだ。おまえが来てくれると助かるんだが?」
『よし、任せろ!』
勢いよく返事をする銀狼を、京奈は肩から下ろした。
即席チームの侵入作戦決行。
銀狼は緋鞠の無事を祈りながら、二人の背を追った。




