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迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~  作者: あおい彗星(仮)
第3夜 鬼狩試験
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第2話 見守る者たち

 再び、渡り廊下に戻ってきた。


 外に目を向けると、始まる頃に見上げた銀色の月が雲にすっかり隠されている。薄暗い校舎に目を向けると、教室の窓がきらりと光ったように見えた。


(なんだろう?)


 窓硝子に手をついて外を確認しようと顔を近づけた瞬間、鋭い殺気に全身を貫かれる。


「っ!」


 窓に映るのは異様な影。

 全身の血が沸騰したように熱くなり、考えるよりも先に身体が動いた。窓硝子に白紙の霊符を貼り、手早く書き込む。


『消』


 窓硝子が一瞬で空気に溶けたように消失する。

 緋鞠は窓枠に足をかけ、そのまま窓から飛び降りた。


『軽、強』


 身体を軽くし、足の強度を高める。空中で猫のようにくるりと一回転し、着地した後に再び霊符を重ねた。


『速』


 追いかけるように向かってくる殺気から逃れるように転がり、大きく距離を取る。


 ドゴォオオン!!


 空気を揺さぶるように大きな破壊音に振り返れば、もくもくと土煙が上がっている。二つの赤い電灯が煙の中で点滅した。現れたのは、鬼の傀儡。


 高さは緋鞠と同じくらいだが、相撲取りのように横幅が広く、腕は棍棒のようになっていて全身が鉄の鎧に包まれている。


 土煙が収まると、緋鞠が降り立った地面にぽっかりと。爆発したような大きい穴が空いているのが見えた。


「あっぶな……」


 少しでも判断が遅かったら、緋鞠の霊体は消えていただろう。 索敵はいつも銀狼がしてくれていたから、油断していた。やっぱり相棒に頼りすぎだなぁ、と深く反省する。


 ふぅと息を吐き、傀儡を見据えた。警戒を続けながら、右手に『斬』の霊符を貼りつける。


 霊符の効果時間は十分。


 ──速攻で終わらせる!


「さあ、かかってきなさい!!」


 鬼の瞳が紅く光った。


 空にはうっすらと雲が掛かり、月が少しの気配も見せぬ、静かな夜であった。


◇◆◇ 


 星命学園の正反対側に居を構える“暁”総司令部では、大勢の隊員たちが忙しなく動いていた。一年に一度行われる鬼狩り試験の様子を確認するためである。


 司令部のモニターには、学園中に配置してある監視カメラに映像が映し出されていた。試験が滞りなく進んでいるか、結界には問題はないか。モニターや計器を確認する事務方の隊員たちの背後には、非番の隊員たちもずらりと並んでいる。


 その中に、風吹唖雅沙の姿もあった。

 霊符を操り、傀儡と闘う緋鞠の姿をじっと見続ける。


「風吹少佐殿は、その受験生がお気に入り?」


 唖雅沙は眉をひそめながら振り返ると、夜空のように暗い紺色の癖のある髪を、さらに寝癖で爆発させたままの男がいた。


 男の名は夜霧大雅(やぎりたいが)

 第五十四隊の隊長であり、唖雅沙の同期でもある。


 寝起きのまま、隊服を引っ掻けてきたような格好に、唖雅沙の顔には青筋が浮き立つ。近くにいた隊員たちは唖雅沙の不機嫌オーラを察知し、そっと距離を置いた。

 彼女の凛とした美しい美貌は暁の中でも随一秀でていた。しかし、機嫌が悪くなると、半径五メートルの温度がマイナス十度下がると噂されている。

 規律を破るものには容赦なく、罰を下すこと。また特徴的な髪色から彼岸花に例えられ、ついた別名は『彼岸の鬼』。彼女の剣呑な視線も気にせず、大雅は飄々とした顔で横に並んだ。


「貴様は今、来たのか。けしからんな」

「だって、今日非番だし」

「非番でも身嗜みくらい整えろ。見苦しい」

「へいへい。わかりましたよ」

「まったく……」


 唖雅沙は大雅のだらけた態度に、頭痛がしてきた。


 大雅は唖雅沙たち同期の中で、一早く大尉になった実力者だ。しかし、現在はサボり癖がひどい暁一の問題児になっている。今では唖雅沙の方が上官だ。


「今年は教官に任命されたのだろう。未来の生徒のことはきちんと把握しろ」


 そういうと、大雅は不満そうな声をあげる。


「オレさぁ、教官やりたくねぇんだけど。秘書官権限でやめさせてくんない?」

「無理だ。貴様に教えられる生徒が心底気の毒だが、人員不足なんだ。反面教師として学んでもらえればいいだろう」


 それよりも、と唖雅沙は言葉を続けた。


「三國はおまえの差し金か?」


 大雅は気だるげに下がっていた目を丸くして、唖雅沙を見る。


「あれっ、翼クンてばなんかやらかした?」

「神野緋鞠という娘の推薦書を破り捨てていた」


 それを聞くと、大雅は頭を抱えた。


「あっちゃあ~アイツ……調査の意味わかってんのかね」


 神野緋鞠への調査依頼が出ていたのは唖雅沙を含め、元帥も把握していた。


 理由は二つ。

 一つは孤児院に入所する以前の神野緋鞠の情報がまったくないこと。もう一つは、五代元帥の一人から推薦があったことだ。

 そのため、神野緋鞠は調査対象となっていた。


「なぜ、三國を任命した?」


 三國翼は現在、謹慎中である。

 度重なる軍規違反に命令違反。その数は今年に入って百を越える。さらには他の隊の討伐対象である月鬼に手を出し、隊員には全治二ヶ月の大怪我まで負わせている。


「アイツが月鬼に執着するのもわからんでもないからさ。少しでも罰を減らしてやろうかなって。調査依頼の任務を与えたんだけど……同情が仇になっちまったなぁ」

「そうか」


一応上官として、部下を気を遣ったのだろう。


 (なら、これ以上言うことはないか──)


 唖雅沙は再びモニターへと視線を移す。


 緋鞠は傀儡の執拗な攻撃をぎりぎりでかわした。手に武器はなく、強化した素手で闘っているようだった。


「へぇ。動きは悪くないな」

「ああ」


 大雅の言葉に唖雅沙は頷いた。


「あの娘は、実践に慣れているようだ。三國の攻撃にも上手く対応していたぞ」

「実践慣れ、ねぇ……」

「なんだ?」

「いや、べつに」


 大雅は意味ありげに呟くと、瞬きもせずに白銀の瞳をモニターに向け続けた。

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