7話 ペケの巣大行進の脅威
俺はただのイケメン冒険者だ。青の柱の超災害を目にして震え上がったのは最近の話だ。
ギルドから聞いた話だがダンジョンができたらしい。国で対応するといっていたがダンジョンと聞いてはギルドも黙っていられない。その価値を見出すために冒険者として優秀な俺が派遣されたんだ。いや、正しくは申し込んだんだ。
明らかに危険だとわかっていた。何故俺がこのダンジョンに来ようとしたかって?女子3人組のパーティーだけに行かせるわけには行かないでしょ!
なんせハーレムになるじゃん!!
しかし今ではあの時の俺を殴りたい。
なんなんだ、このダンジョンは。
異形が過ぎる。それが感想だ。今までに体験したダンジョンとは明らかに違う。
まず看板って何だ?何故文字が書いてある?人工物か?
最初のトラップは人の恐怖を激しく刺激する石像の拍手。なんの意味があったのだろうか。めっちゃ怖かった。
だが女子の手前情けないところは見せられない。情報も少ないので先に進む事にした。
次のトラップは休憩場と書かれた広場。何故か心落ち着くBGMが流れてくる。聞いたことも無い音色だ。
トイレという名の箱型牢屋。トラップかと思ったら安全で快適だったらしい。このダンジョンの趣旨がわからない。
そしてこの先は《ペケの巣大行進》と書かれてある。迷路のようだ。
土の壁に囲まれた四角の通路を進む。しばらくすると分かれ道になっていた。
「どっちに行くか」
「んー、左とか?」
「迷った時は左でしょ」
「考えていても仕方ないからな。左に行くか」
見た感じ同じ風景だったので、こっちに来たという証拠として剣で壁に傷跡をつけた。
すると、床が崩れた。
「うおっ!?無事か!!」
咄嗟に飛び退く。
「えぇ、こっちは大丈夫だよ」
どうやら俺の足元だけ落とし穴になっていたらしい。
「こんなトラップが仕掛けてあったなんてな……気をつけて進もう」
さらに進むと同じような分かれ道が待っていた。
「ここもか、とりあえず左に進もう」
俺は壁に傷跡をつけた。警戒したが、落とし穴トラップは現れなかった。
「なぁ、正解の道を見つけろってことだよな?」
「うーん、迷路って事はそうだと思うよ」
落とし穴トラップを除いたら命を狙ってくるような危険は今のところない。
不気味だったが、進むしかない。
そして、ここから地獄が始まった。
「おい、これは……行き止まりか?」
「ん?いや、なんか看板がある」
俺達は警戒をしながら看板に近寄った。
そこには『ペケ』と書いてあった。
「……これはどういう事だ?」
「ペケって事だから……✕ってこと?」
「つまりハズレの道か、違う道を探そう」
ここに至るまでに通った最後の分かれ道まで戻った。そして反対の道へ行く。奥に看板があった。
「なぁ、ここも行き止まりか」
「看板を見てみよ」
看板には可愛い文字で『ペケ』と書いてあった。
「「「「…………」」」」
俺達はまた、分かれ道まで戻った。
新しい道を駆け足で進むが、行き止まりだったらしい。また看板がある……
『ペケ(笑)』
「「「「ッ!?」」」」
俺達は無言で新たな道を探した。
そこからが酷かった。どんなに歩いても、どこを行っても行き止まり。看板には丁寧に様々なタイプの『ペケ』が書かれてある。
人の神経を逆撫でするような設計だ。なんなんだ、このダンジョンは。
恐らく今は10箇所目の行き止まりだろう。看板には
『ペケだよ爆笑』って書いてある。
「あぁああ!!クソがァ!!」
俺は床に膝を着いた。
女子達も気分が悪そうだ。そりゃそうだ。こんなの腹が立たない訳がない。
不意に天井を仰ぐと『ボーナスペケ』と書かれた看板があった。
俺は無言で剣を抜き、その看板に斬りかかった。
「いつまで続くんだ……この迷路は」
もう帰りたい。そんな気持ちでいっぱいだ。
「最初の看板にあった《ペケの巣大行進》ってこういう事だったのね……」
そういう事なのだろうがペケという文字はもう見たくない。そして今その分析はいらない。
「ねぇ、あれ!」
「ん?どうせまた……って!あれは!?」
「「「「光だ!!」」」」
永遠に感じたこの迷路の終わりが見えた。俺達はいっせいに走り出した。
やっと、やっと出口だ!!
辿り着いたのは、発光した看板だった。
『ペケ☆』
「あああああ!!ちっくしょおおおおおおお!!!」
頭を掻きむしった。両手には千切れた髪の毛が絡んでいた。
───
「ねえライ君、もう帰ろう?」
「まだだ!まだ俺は負けてない」
俺達は今、トイレがある休憩場にいる。何故かって?急に壁に現れたボタンを押したらここにいたんだよ!
頭に血がのぼって看板読まなかったけど、彼女たちが読んでたらしい。
どうやら俺が押したボタンは『ふりだしボタン』だったそうだ。
……何故俺は警戒しないで押したのだろうか。ダンジョン内でトラップの警戒を怠るなんて、失態だな。
それ程までストレスが酷かったのか。ぇ、抜け毛?
「ひっ、俺の髪の毛が!まさかストレス!?」
「いや、自分でむしってたよ」
「ほっ、いや、ほっ じゃねえよ」
「うん、ライ君帰ろ?」
「……あぁ、わかった」
これ以上この子達に失態を見せる訳には行かない。今日のところは一旦引くか……髪の毛も心配だ。
本当に何なのだこのダンジョンは……まさに最悪のダンジョンだな。
しかし、命の危険は今の所ないんだよな……
ん?まてよ、まさか!?
「なあ!正解の道がわかったかもしれん!!」
「え?本当に?」
「私嫌だよ、帰りたいんだけど?」
「頼む!最後に!」
もしかしたら、いや、絶対あそこが正解の道だ!成果も少ないし、カッコイイところを見せないといけない!
俺は怪訝そうな表情をする彼女らのことを考えず、再び《ペケの巣大行進》へと進んだ。
この性格の悪いダンジョンだ。正しい道なんて用意してないだろう……なら、明らかに不自然な場所に正解の道があるはずだ!
俺たちは落とし穴の前まできた。
「……ここが正解の道だ」
「えっ、休憩場からすぐじゃん」
「ここが正解の道とか……もしそうだとしたら、私達の努力はいったい」
「ねぇ、ライ君。ここが正解の道じゃなかったら、怒るからね?」
「え?いや、うん。大丈夫だ!絶対ここが正解の道だ!」
彼女達の圧が酷い。そりゃそうだよな。
当初の目的はデート兼ハーレム+αで調査の予定だった。しかし、どうしてもこの《ペケの巣大行進》は攻略したい。俺のプライドが許されない。
彼女達にはここまで付き合わさせてしまったけど、今となってはひとりで進める気がしない。だが、これで最後だ!
落とし穴を下ると、軽い広場があった。
「なんだ……ここは」
「まって!誰かいる!!」
「「ッ!?」」
そこには黒いフードを羽織った後ろ姿が。
『ふははははは、よく気がついたな!ここが正解の道だと!』
その者は両手を広げ、高らかに笑った。
「ふっ、やっぱりな」
いろんな意味で心底安心した。
『なんちゃって』
黒いフードが振り向くと、その顔には
『ペケ大草原』とだけ書かれていた。
「あああああああ!!!!」
「くそぉぉおおおお!!」
「しねえええええええええええ」
溜まっていたものが爆発した。俺達はそいつに本気で襲いかかった。
『スカッ スカッ』
しかし、当たらない。
『はははっ!そんな剣技、当たらんなぁスカッ』
こいつ、俺らの攻撃を避ける度にわざわざ口で 『スカッ』っていいやがる。どうなっているんだこのダンジョンは?神経を逆撫でする天才か?
『おいスカッどうした?スカッこの程度か?スカッ』
俺の剣技も、彼女たちの魔法も、全て『スカッ』と共に躱された。
「はぁ、はぁ、許さねぇ。絶対、許さねぇ」
「まじで、殺してやる」
「早く死んで?ねえ死んで?」
「ああああああ、ああああああああああ」
『ふむ、さすがに可哀想であるなぁ』
憎たらしく首を顰めた黒いフードの奴は懐から木の葉を取り出した。
『そこのハーレム男よ、この木の葉が地に落ちるまでに、その剣で切ることができたらここを通してやろう』
「あ゛?ナメてんのか?」
『そおれ』
黒いフードは俺の頭上に木の葉を投げた。それは自由落下を始める。
俺は無我夢中で剣を振りまくった。
「はあああああ」
当たらない!?何故だ!?
『スカッ、スカッ、もいっちょスカッ』
「あああああああああ!!!」
『あれれ〜?スカッどしたの〜?スカッ』
「黙れぇぇえええ!!!!!」
『ほら、集中集中、あスカッ』
「あぁぁぁぁあ死ねぇぇぇぇええええ!!!!」
俺は地に落ちた木の葉を踏みつけ、いつの間にか
『大草原不可避』と書いてある黒いフードに斬りかかった。
『ふむ、またのお越しを』
──シュン──
気がつくと俺達は、ダンジョンの入口にいた。