2話 魔王という名の素晴らしいニートライフ
皆さんに素晴らしい報告があるよ。
俺は魔王になってから、まさに夢のような生活を送ってるぜ。
青の球体と契約のようなものを済ませると、この星の詳細など様々な事を把握した。
とりあえずお腹がすいたからラーメンでも食べたいなと思ったら、目の前にラーメンがあった。しかも大好物な熱々こってりチャーシュー特盛の硬麺である。
思わず飛びつき、食べようとしたが箸がない。すると右手には箸が握られていた。
その時の俺は「お、ラッキー♪」としか考えていなかった。流石にどうかしていたと思う。
そんで食べ終えたら異変に気がついた。ラーメンの器と箸が消えたのだ。まぁ、その時の俺は「なんだ、エコじゃん」くらいにしか考えていなかった。
Q.熱々こってりを食べたら貴方は何を望みますか?
A.冷たいソフトクリームこそ真理。
てな感じでソフトクリームを欲すると、右手に握られている。しかもタワーサイズだ。その時俺は「素晴らしいルームサービスだな」と感銘を受けつつかぶりついた。牧場の味で美味しかったぜ。
お腹が満たされると睡魔がやってくる。その囁きに魅せられた俺は、気がついたら布団の中にいた。
真っ白のふわふわな布団が、低反発の枕が、全てを許してくれるような抱擁さが素晴らしく、気がついた時には日が昇っていた(錯覚)
その時の俺は「いい朝だな」と、暗い密室の中で上半身を起こしながら呟いたほどだ。それほどまでに布団が気持ちよかった。
まあ、流石に俺も馬鹿ではない。良く考えれば至れり尽くせりで最高だった。いや、そういう事じゃない。
流石におかしいだろう。俺の望み通りに全ての事が運ぶのは。
はっ!さてはこれが俺の力か!?
そう、俺は能力にこう名付けた。
【俺の妄想世界・爆誕】
プレステフォーもスイッティも出てくる。
ビバ魔王人生、最高である。
しかし、そんな生活を続けていると飽きてくる。それが人生。
2ヵ月が経った頃か……俺は遊び疲れた。
「暇じゃ〜、アオダマー!アオダマはいるか〜?」
『はい、なんでしょう』
ちなみに俺は、この声の事をアオダマと呼ぶ事にした。青い球体が本体らしいから。
「俺の能力最高過ぎて暇なんだけど」
『……』
「なあアオダマ、暇つぶしになるような事とかない?」
『……ダンジョンを造られてはどうですか?私も貴方とリンクした際にそのような知識を得ました。とても楽しそうじゃないですか』
「なっ!!それだ!!」
そう、アオダマとリンクした2ヵ月前に知った事だがこの世界は剣士や魔法使いがいるらしい。魔王だということを伏せて冒険者活動とかめっちゃ楽しそうだったが、一歩踏み出すのが面倒くさすぎてニートしてたわ。
逆にダンジョン造るってのもいいかもしれん。でもそしたら俺が悪役になってしまうし……あ、なんかモンスターでも出してやらせてばいいのか。そうすれば冒険者活動といった面倒くさい事をしないでリアル実況というものができるのではないだろうか!?ニートしながら!?天才かよ俺。まさに俺の為の世界だな。魔王にしてくれてありがとうありがとう。
『……』
今は地下にいるらしい。それも地上からかなり深い。そしてこのアオダマが光を放つワンルームは俺の部屋と化している。誰にも邪魔されない素晴らしいマイホームである。
こんな堕落してる(自覚はある)俺に何も言わないのは何でだろうかとアオダマに聞いた事がある。そしたら『この先遥か長い時を過ごすので……それに比べたらこの些細な時間は一瞬に感じますよ』とかいっていた。
なんか自分の事のように思えない。アオダマは悟りでも開いたのかと思って笑っちまったぜ。
そう、話は戻るが俺の素晴らしいマイホームは本当に素晴らしい。まず俺が腰掛けてるのは見るからに値段が高そうなベッドである。その脇にはふわふわのソファーが並び、黒く透けた清楚感のあるテーブルと薄くデカい液晶テレビ。毎日様々な美味しい実なる木々がベッドを囲い、部屋の中心には光源兼オブジェのアオダマがいる。ガラス張りのシャワールームに、カウンターに割り箸と調味料。ゴミは出ないがルンバが動き、羽のない扇風機が青く点滅する。加湿器は4台稼働中だ。素晴らしい!素晴らしい!!
そして落ち着けないからとこの空間をワンサイズ狭めた。だって広すぎの部屋は落ち着かないもん。
あ、もちろん土足禁止である。
「あー、でもこの部屋にダンジョンは繋げたくないなぁ」
『では別に部屋を作ってそこをダンジョンの最深部とし、地上へ伸ばしていくとかどうでしょう?』
「アオダマはいい事言うね。それ、採用!」
玄関(今作った)の前に行き、俺は2ヵ月ぶりに靴を履くことになった。やば!?重!足おっも!?
ドアを開くと覗くは空洞。暗いなぁ。
「う〜ん、見えるようになれ」
言葉に気持ちを込めながら吐く。すると空洞が明るくなった。
やっぱ便利である俺の能力。
手を広げると空間が拡張され、王座のようなものができた。うん、イメージ通りだ。最下層は完璧。
ダンジョンの構造だけど……どうしよう。ひとつひとつ考えるのはとても面倒である。俺は忙しいんだ。
とりあえず地上がどこまであるのか知らないので、地上までぶち抜く事にした。といってもどうやってぶち抜こうか。
あ、そうだ。
「か〜、め〜、は〜、〇〜」
中腰になり手のひらを後ろに回す。まぁ、思いつきとネタである。しかし俺は真剣だ。マジである。だってここを綺麗にぶち抜けたら爽快じゃね?出るとは思ってない。でも異世界来たら誰だって試すだろ?常識だよな?
そしてなんだか不思議と力の籠る素晴らしい掛け声と共に両手を斜め45度地上に向けて突き出した。
「波ぁぁあああああああッ!!」
──ドオオオオオオオオオオォォッ!!!──
凄まじい破壊音と大地震が起こる。手のひらからぶっぱなされた何かのビームは地上まで貫通した。
とりあえず轟音が凄まじい。
『えええええええ!?!?』
珍しくアオダマが驚いたような声を上げた。
「で、でで、出たああああああああっ!?」
しかし、一番驚いていたのは本人だった。
───
ある日、世界が揺れた。
無駄な戦争を繰り返す人類の王が集結する。それは人類史上初の大事件。
「あれはなんだったんだ!?わしの領土が消えたのだぞ!?」
「黙れ!あそこは我の領土であったのだ!」
「まあ慌てても仕方ないだろう、アルムとへドンの王よ。ワシらとて他人事では無いのだからな……」
「そう、あの大地震で我が国がやられた。次いつ、あのような災害が起こるかわからない……原因を突き止めるべきだ」
「そうだ。いつまでもくだらぬ私欲の為に領土争い、もとい戦争をしている場合では無いのだ」
五つの王が集ったのは……原因不明の超災害。
突然起きた地下からの天まで伸びる青の光。それと同時に大陸が揺れた大地震。記録されたことの無い現象だ。
それは地上の土地を完全に吹き飛ばし、雪崩や噴火、津波を引き起こした。
大陸のどの場所からでも観測できた巨大な柱と、絶大な被害をもたらした大地震に人類は畏怖を覚えた。
それは戦争を止める程の危機感を各国に持たせ、原因解明までの間初めて手を取り合い連盟国家となった。
もう無駄な争いが無くなったと、民が手を取り合い喜びを分かち合った時、突如として災害の超大穴が蓋を閉じ、ひとつの入口が誕生した。
それは連盟国を永久国家としてまとめ上げ、【畏怖の象徴】【人類の災害】【最悪の根源】として大陸に名を轟かせた。
国は原因を排除するため、人類の存続の為に強者を集った。
そう、魔王が暇つぶしにぶっぱなしたそれが。その二次災害が。適当に考えたネタ溢れるダンジョンが。
魔王は魔王の知らぬ間に……人類の敵となっていた。