1話 ホワイト企業、魔王に就職しかし無期である
暗く狭い通路が続く……
幾多の強敵を斬り倒し、また魔法で薙ぎ払い進む。
金と時間を浪費し地下何層も潜り抜け、最後にたどり着きし場所。
そう、選ばれし者達のみ到達できる場所。
その入り口には巨大な扉が聳え、まるで立ち入りを禁止するかのように固く門を閉じていた。
「もうすぐだ……」
「うん、ここまで長かったね」
「ほんとだよ……」
「俺達が、英雄になるんだ」
その心意気が認められたのか、自然と扉が開く。2人の少女が補助魔法……もといバフを何重にもかける。
「さあ、行こうか!」
神々しい輝きを魅せる剣を抜刀したリーダーの勇者とその一行は、持てる力を振り絞って……
完敗した。手も足も出なかった。
「なんなんだよっ!こんなの、あんまりじゃないか!!」
金色の鎧を身にまとった勇者は折れた剣で悔しそうに地を殴る。
「おしまいだ……勝てっこない。」
派手なドレスを着た僧侶は力無く嘆く。
「俺達の努力は、無駄だったのか……」
強靭な盾を持った筋肉勝りの戦士は、膝をつき片手にした斧を手放した。
「そんな……死にたくないよ」
銀色のローブに包まれた小柄な魔法使いは、その身で杖を抱きしめた。
絶望の視線の先にある、黒いフードを被った寂しそうな男は……
未だ無敗の、大魔王と畏怖される人類の敵であった。
「……つまらん」
そう、俺は強くなり過ぎてしまった。
───
『貴方には、魔王になってもらいます』
いつの事だろうか。誰かにそう言われた気がする。
最近?わからない。
そもそも魔王ってなんだ?あれか?よくゲームにいるラスボス的な最強キャラか?……裏ボスの方が強いってイメージなんだが。いや、そんなことはどうでもいい。
そもそもこの状況はなんなのだろう。俺は誰だ?なんでここにいる。
『えっと、聞こえてますか?』
「……?」
よくわからん声が響く。はっ!さては洗脳か!俺は洗脳されたのか!?
咄嗟に立ち上がり、両腕を構える。ボクシングはよくテレビでみたからな!
身体が熱いぜ……っ!今の俺は石でも砕けるだろう。
『あの……急にどうされました?』
「黙れ!俺はそう簡単に騙せないぞ!!」
『えぇ〜、』
困惑したような声が聞こえてくる。
だがより困惑している俺の方が困惑の優先権はあると思うんだ。
『あの、話を聞いてもらえませんか?』
「……いいだろう。ただし、何かの勧誘目的ならお断りだ。俺は暇じゃないんでな」
そう、凡人より多趣味な俺は忙しいんだ。
『それは、前世の名残りのようなものなので大丈夫だと思いますよ』
は?何を言っている。前世だと?俺の前世はナポレオンなんだぞ。
「はぁ、もういい。ここはどこなんだ」
このよくわからん声には呆れるぜ。
『はあ?呆れてるのはこっちですよ』
おっと、怒気のある声を頂きました。
にしてもどこから声が発せられてるのか。天井に向けて話していたせいで首が痛い。
『ああ、貴方の後ろを見てください』
癪であるが、寛大な俺は言う通り後ろを向いてやった。なんだ?何もないじゃないか。
『奥へ進んでください』
「はいよ」
……反抗しても良かったが、話が進まなそうなので仕方なく進む。ん?俺の大好物?反抗だよ。
するとほんのりと光を放つ、バレーボールサイズの青の球体が台座のような所に浮いていた。
『これが私の正体です。私は星のコア……の一部です』
「ふーん、綺麗じゃん」
にしても星とはまた壮大な事を言うよな。
『貴方にはこの星の魔王になってもらいます』
青の光が暖かい。これが優しい光というものだろう。魔王か……いいね、かっこいい。
でも悪役だろー?嫌だな。どちからというと俺はヒーローになってチヤホヤされたいタイプ。
しかし、魔王は最強とイコールである。俺は最強になりたい気持ちもある。
「とりあえず説明してくれ。このような手口にはもう二度と騙されるつもりは無いからな」
そう、話すと長くなるが俺には苦い過去が……
『あの、話聞くのですよね?』
「ああ、頼む」
おっと、怒らせちゃったかな?大丈夫、俺は聞くのは得意だ。話上手は聞き上手っていうだろ?
『……では、説明します。まず、貴方の現状況からこの世界の法則と、この星について』
───
『まず、星には魔王と呼ばれる者が必ず存在します。魔王は死んだ時、それか星が誕生してから100億年が経つと輪廻からランダムで選ばれます』
ふむ。輪廻というものはよくわからんがその話が本当だとするならば、我が母星の地球にも魔王は存在したのか。
『はい、貴方の前世の星にも魔王は存在してました』
魔王といった最強キャラが本当に地球にいたのか。何故人類は滅ぼされなかった。
『魔王といっても寿命が長いだけですし、死ぬ時は死にますよ。特に文明が発達した星などで暴れれば人類の敵としていつか滅ぼされます』
夢がリアルに破壊された音がする。
『ですので地球にいた魔王は一般人に紛れて生活していました。まあ、それが星のシステムですから。そしてある程度常識がある者でないと魔王は務まらない』
なるほど、だから俺が選ばれたのか。
『いえ、完全なランダムですので選ばれたわけでは無いです』
チクショウ。
『子供がいきなり力を持って生まれたら、駄目でしょう?ですので、前世の一部の記憶を残した貴方のような魂に魔王を任せるのです』
ふむ。俺は力を持ったということか。
『はい。まぁ悪用する星の魔王もいますし、それは貴方に任せますが』
なるほど、つまり力を持った寿命の長い俺ということか。
『はい。貴方の考える最強になる事も可能です』
おお!それはやばい!燃えるぜ。
でも……今までの話を振り返ると、俺は死んだんだな。
『そうですね、概要は教えられませんが』
まあ、大して辛くはない。現実感が湧かないだけかもしれない。だって……覚えてないんだもん。
『……この星は代替わりではなく、誕生100億年の星です。それで貴方が呼ばれました』
一代目魔王爆誕なう。
『そしてこの一部の土地を好きにできる星の権利があります。貴方の知るダンジョンといったものと同じです。……私がダンジョンコアとなりますね』
大体わかってきた。そして嘘ではないと、何故かわかる。それが何故だかわからないが。身体の直感だろうか?熱い。熱いぜ。
そして俺は最初から最強というわけではないらしい。俺の能力はまだ知らないが、それを上手く使えと言ってきた。
そして魔王といっても使命とかないらしい。星として存在しなくてはならない存在の穴埋めのようなものだといっていた。
なんだ、以外とホワイトかもしれん。
『説明は終わりです。改めて……貴方には魔王になってもらいます』
「ああ、よろしくな」
『ではこれから先の長い間、悠久の時を共に歩みましょう』
青の球体に手をかざすと、何かと繋がった気がした。