忍び寄る何か
キュニスケが何かを威嚇している。
ウィルレッドも、剣をすぐ抜けるよう構えている。
エルは何が何だかわからないが、今自分たちは危険な状況に置かれているのがわかった。
グオォォォ・・・・
不気味な声が周りに響く。声の元は本当に近い。声の大きさ的に目に見える距離にいるはずなのに、上も、
右も、左も、前も後ろも、見えたのはキュニスケとウィルレッドだけだった。
そんなエルにウィルレッドは
「ヌエだ、気おつけろ。奴は自分の姿を周りに見えなくなるようになれる。」
なるほど、それで見えないのか、てやばいじゃん、なんてエルは思っていると、ウィルレッドは
「知っているはずだ。お前が俺に勝てないことなんて。」
と言う。相変わらずグオォォォという声は鳴りやまない。
「逃げた方がいいのになぁ。」
ウィルレッドは右手で片刃剣を抜いた。そして剣を構え、エルの方に向けて剣をふるう。
そうすれば、剣をふった所から鳥の爪のような光弾のようなものがエルの前をかすめた。
エルの前を通り過ぎたそれは、何もないところで何かが斬れたような音がした。
エルはその方を見てみると、猿だか虎だかわからない化け物が痛みに悶えていた。その顔には大きな切り傷が走っている。
いろいろツッコミたいが、まずエルが触れたのは、ウィルレッドが生み出したものだった。
「今のは、もしかして『幻烈斬』!?父さんの話は聞いていたけど、まさか本当にあったんだ!!」
父さんも見たことがないと言っていたものなので、エルはウィルレッドはカンメルトの英雄だということを実感した。
なんて言っていると、ヌエはウィルレッドを睨むと、彼に飛び掛かった。
鋭い牙がウィルレッドに向かう。
「お前にはもうこれで十分だろう。」
ウィルレッドは左手の人差し指を立てると、火がぼうっと宿った。それをヌエに向ける。
「”火弾”」
人差し指の火はヌエに向かって飛ぶと、ヌエはたちまち火に包まれた。
グオォォォ・・・
ヌエは雄たけびを上げると、ぐったりと、地面にひれ伏せた。そのヌエはもう動かなかった。
「さてと、エル。ついでにお前の力も見せてもらおう。」
ウィルレッドはエルの後ろの方に指を指した。
キュニスケもエルの後ろの方に威嚇をしていた。
「え?」
エルは後ろの方を見ると、鬼のような人型の化け物が簡単に作られた槍を構えて立っていた。それも沢山。その後ろの方には、さらに大きい奴がいる。
「ぎやぁぁぁぁぁ!!何これぇぇぇぇぇ!!」
エルはビビりにビビった。
「何って、オーガの群れじゃねえか。大丈夫だよ、俺も戦う。」
ウィルレッドは冷静だった。
「とりあえず、やって見せろよ。」
エルは慌てて己の魔力をオーガたちの頭上に集中させた。そこに複数の魔法陣が出来る。
「”カツンボサンダー”」
複数の魔法陣から聖なる力を宿したような白い雷が大量に降り注いだ。
エルがハッと目の前を見ると、小さい方のオーガたちが皆倒れていることに気が付いた。
これは、もしかして私がやったのか?
エルは自分の手のひらを見る。
しかし、大きなオーガが襲ってきた。ダイオーガだ。
エルはビビってダイオーガの攻撃をよける。
「よくやった。」
エルの横をウィルレッドが立つと、さっきと同じように構えた。
剣を振るうと、幻烈斬が飛び出した。しかし、今度はダイオーガを斬る前に幻烈斬は宙で止まった。
「”鷹爪百鬼夜行”」
宙で止まった幻烈斬からは更に幻烈斬が飛び出した。それも大数もだ。
幻烈斬はダイオーガを滅多斬りにし、ダイオーガは力尽きた。
「流石だな。ダイオーガを倒すのはちょっと時間がかかるけど、お前が奴の体力を削ってくれたおかげですぐ倒せた。」
ウィルレッドは相変わらずの無表情で言う。
「私がさっきやったのは?」
「それがお前の魔力、先代の光の英雄が操っていた雷、そして今お前だけが操れる『聖なる雷』、別名『白い雷』だ。」
「白い雷・・・、母さんはどんな闇でも照らすことが出来ると言ってた。」
「そう伝えられてはいるが、それは操るお前次第だ。お前の魔力が半端だったら、闇を照らすことなんて出来ないただただ命を奪うだけの武器なんだよ。」
「そうなんだ。魔力はどうやったら強くなるの?」
「個人によってはぐんぐん強くなる奴もいればちっとも強くならない奴もいるが、基本的には沢山使っていればそのうち強くなる。体力と同じだ。」
「そっか。」
エルはキュニスケを見ると、キュニスケはリラックスしているようだった。敵はもういないみたいだ。
「てか、他の魔物が来る前にここを出よう。」
「そうだな。そろそろ疲れてきたし、久々の太陽も拝みたいぜ。お前ら、適当に歩いてきたから帰り道わかんないだろ?ついてこい。」
ウィルレッドは、さっさと歩き出すと、キュニスケを頭上に乗せたエルはウィルレッドについて行った。