表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想像世界~カンメルトの冒険~  作者: 律
初めまして? 私の相棒!「ウィルレッド」
7/35

フィアンロとウィルレッド

 長の部屋から出てきたエルは困ったなぁ、とか思っていると、「すみません。」と、小声で声をかけられた。

 声の方を見ると、そこには赤髪の巫女さんが手招きをしていた。そばにはとても若い男がいた。

 エルは赤髪の巫女さんに近づくと、巫女さんは人差し指を口の前に持っていく。エルは静かに巫女さんを見つめると、巫女さんはエルの耳元に小声で「お話があります。こちらへ。」と言った。


 エルは巫女さんと男に連れられ、寝室のようなところへ連れてこられた。男はその寝室の前で、人が来ないか見張っているようだった。

 その寝室では、エルと巫女さん二人きりだった。

「こちらにお座りになられてください。」

そう言って巫女さんは座布団を示した。エルは巫女さんが示した座布団に正座すると、その向かい側の座布団に巫女さんは正座した。

「突然お呼びしてすみません。」と巫女さんは言うと、エルは

「いえ。」と答えた。

「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「エル・アイリッシュと言います。」

「そうですか。やはり、あなたはあの子と同じ、カンメルトの英雄なんですね。」

「あの子?やはり、ここには私の仲間はいるんですね。」

「いえ、ここにはもうにいないのです。」

「もう?」

「はい。申し遅れました。わたくし、フィアンロ・メコルスと申します。」

「フィアンロさん、出来る限り詳しく教えていただきますか?」

「もちろんですとも。そのためにあなたを呼んだのです。」

フィアンロは一息ついてからエルに説明を始めた。

「わたくしには一つ下の兄弟がいるのです。名前は、『ウィルレッド・アレロン』。」

「ウィルレッド・アレロン・・・・、その人が、カンメルトの英雄の一人ですね。」

「はい、おっしゃる通りでございます。ですが、彼は『バンブ』でした。」

「ばんぶ?」

「このカゲロウの里には、生まれた性別でこの里の地位が決まるのです。一番上に巫女の代表の『長』、その下に女が必ず付く『巫女』、その下には戦士の代表で長を守る『戦士長』、その下に男が必ず付き巫女を守る『戦士』がいます。しかし、カゲロウ一族は少し遺伝子が不安定であるため、まれに『バンブ』と呼ばれる男でも女でもない者が生まれます。そんな彼らは一番下の『奴隷』として扱われます。」

「奴隷・・・?ひどい・・・・。」

「はい、わたくしも始めはそんなこと思っていなかったのですが、あの子が生まれてからは慈悲が芽生えてきたのです。」

フィアンロは暗い顔で下に俯くと、「あ、すみません。」と言ってパッと顔を上げた。

「わたくしとウィルレッドはあの長の元で生まれたのです。わたくしはウィルレッドの姉です。」

「ご兄弟でありましたか。」

「あの子はバンブではありましたが、それと同時にカンメルトの英雄という称号を持って生まれたので、長は仕方なくと彼を男として育て、戦士としてこの里に暮らしてました。」

「ふんふん、ところで、そのウィルレッドは今どこに?」

「そうでした!思い出に浸っている時間なんてないのでした!エルさん!お願いがあります!」

 フィアンロはエルの両手を自分の両手でがっしりと掴んだ。

「一刻も早く、ウィルレッドを右翼の森から連れ出してください!!」

「右翼の森?」

エルは首をかしげる。

「はい!あそこはヌエやオーガというとても恐ろしい魔物を閉じ込めているのです。並みの戦士では簡単には倒せないのです!一番恐ろしいのは、オーガたちのボスであるダイオーガ・・・、いくら里で最強である彼も15年も戦っていればいつしか本当に死んでしまいます!!」

「ふぇ、15年?死んでない?てか、なんでそんなところにいるの?」

「あの子は、わたくしの、せいで、ハァ、長に、ハァ、あそこへ、ハァ、ヒック・・・」

フィアンロは涙を必死にこらえて、最後まで言葉を言い切ろうとする。

「おねがい、あの子は、わたくしの、大事な、おと、うと、なの・・・・ああぁぁ・・・。」

 フィアンロは口を手で覆い、静かに泣いた。

そんなフィアンロを見たエルはフィアンロに

「そのままでいいです、聞いてください。」

と言った。フィアンロは泣くのをやめ、エルの声に耳を傾けた。

「とても弟思いのお姉さんなんですね。彼の苦しみを自分のもののように涙を流せる、あなたはとても素敵なお姉さんだと私は思っています。だけど、これだけは覚えておいてください。あなたは自分のせいだと思っていても、ウィルレッドはそんなことはちっとも思っていません。」

フィアンロは顔を上げてエルを見つめた。

「あなたのお願いはわかっていますよ。任せてください。彼が死んでしまう前に、右翼の森から連れ出してみせますよ。」

エルはニコニコとフィアンロを見ながらそう言った。そんなエルを見たフィアンロは落ち着いて、

「わたくし、あなたにならウィルレッドを任せられると思ったのです。」

と言った。そんなエルも、

「奇遇ですね。私もウィルレッドの話を聞いて、会ったことがあるような気がするんです。今まで、父さんと母さんと兄貴にしか会ったことないのに。」

 こうしてエルはカゲロウの里を出た。フィアンロによると、右翼の森はカゲロウの里から西にあるようだ。

「右翼の森だって。おっかない所みたいだよ、キュニスケ。」

「キュニキュニ!」

エルはキュニスケを巾着袋から出してあげると、一人と一匹は西に向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ