カゲロウの里
エルは港を出ると、テクテクと道のない大地を歩いて行った。地はデコボコしていて、とても歩きやすいとは言えなかった。エルは自分の体力が持つか心配になってきた。
一方キュニスケは、キュニキュニとエルの周りを飛び回りながら進んでいた。どうやら機嫌がいいようだ。
そういえば、この辺には魔物が一匹もいない。いたとしても、アーヴァンクが一、二匹その辺で寝っ転がっているだけ。
こんな厳しい道で魔物がいないのはまさに不幸中の幸い。エルは歩くスピードを落として歩いて行く。
日が沈み始めたころ、たどり着いたのは、木造りの家が並び、奥の方にでっかい神社のような建物が一つある村のようなところだった。
と、ここで念のため、キュニスケは巾着袋の中に引っ込んでもらう。
「ここがカゲロウの里かな?」
エルは周りを見渡してみるが、周りの人々は、どう頑張って見ても、人間だった。エルは今まで人間以外の人は見たことないのだ。
と、ここでこの世界の住人である人々について説明をしておこう。
このカンメルトには人と呼ばれる生物が大きく分けて5種類くらいいるのだ。
そして彼らはカンメルトに暮らしている5神のうちの一人にそれぞれ仕えていたと言われている。
そのうち、このトリノ地方に暮らしているのは『カゲロウ一族』である。彼らは5神のうちの『朱雀』に仕えていたと言われていた。普通の人間よりも少し運動神経がいいらしい。ちなみに彼らは背中に燃えた翼の跡が付いているらしい(笑)。
こんな感じで説明したが、うん、正直あまり読まなくてもいいと私は思う。
とりあえず、エルは奥にある神社のような建物に向かった。
近づいてみると、ほんとにデカイ。森からすら出てこなかったエルにとってはデッカイ建物は本当に珍しく見えてしまうのである。
建物をボ~ッと見つめていると、「あの~?」という声が聞こえた。エルはハッとし、目の前を見てみると、赤いの巫女さんのような衣装に包まれた小さな少女ががエルを見つめていた。
「なにかごようでここへ来られたのですか?」
「あ、いえ、あの・・・・、あっ、そうそう。私、カンメルトの英雄を探している者なんですが、何か知っていることはありませんか?」
「・・・なぜカンメルトのえーゆうを探しているのですか?」
「私、名前はエル・アイリッシュと言います。」
「アイリッシュ・・・、カンメルト伝説の?」
「なにか、仲間の情報を知りませんか?」
「ごめんなさい。あたし、みこになりたてなので、カンメルト伝説についてはよくぞんじないのです。」
「そうですか・・・・。」
「せ、せめて、おさに合われては?」
「おさ?この里に長がいるのですか?」
「はい、丁度、このおおやしろに帰っていますので、おさに会ってみてはいかがですか?ごあんないいたしますよ。」
「ありがとうございます。」
「では、こちらへ。」
エルは小さな巫女さんに大社というこのデッカイ建物に入っていった。
中に入ってみれば、周りには沢山の巫女さんがたくさんいた。そして、その巫女さん一人一人に必ず、侍のような男がついていたのだ。
エルはそれを不思議に思いながら歩いていると、目の前に大きな扉があった。
「おささまー!お客様がおいでです!」
小さな巫女さんがはっきりとした声で叫ぶと、中から「入るがいい」という声が聞こえた。
小さな巫女さんは大きな扉をうんしょと開き、エルを中へと手招きした。
エルは小さな巫女さんに連れられ、中に入って行くと、中にいたのはいかにも長っ!!て感じの女性が円座に座っていて、いかにも将軍っ!!て感じの男が近くに立っていた。
「テコ!お主、どこへ行っておったのだ!?お主の戦士がお主を探しておったぞ!今すぐ行け!」
「で、でも、お客様のご案内を・・・」
「そんなもの要らぬ!!!早う行かんか!!!」
「は、はい~。」
小さな巫女さんは泣きそうになりながら部屋を出ていった。
これは、穏やかな環境で育ってきたエルにとっては見てるだけで尿がちびりそうなものだった。
「おいっ!そこのお前!」
「ひゃいっ!」
急に長に呼ばれたので変な声で返事をする。すると、長は円座から立ち上がり、ズンズンとエルに歩み寄ると、
「お前、何の用でここへ来たのだ。」
と尋ねてきた。
エルは小さな声で
「カ、カンメルトの英雄を探しています。」
と言った。
すると、長は眉間にしわを寄せて「英雄・・・」と呟いたので、エルはハッと長の顔を見て
「知っているのですかっ!」
と言った。しかし長はエルを睨みつけ、
「知らん。カンメルトの英雄など、聞いたこともない。」
と答えた。
「え、でも、あなた、この里の長ですよね、なら、カンメルト伝説を知っているはずですよ?」
エルは頭の中にはてなマークを浮かべて、そう尋ねた。
「知らんと言ったら知らん!我にこれ以上お前に話すことはない!!帰れ!!」
長はエルにそう怒鳴ると、エルはビクッとして、ちょこんとお辞儀をすると、早歩きで部屋から出ていった。