旅立ち
キュニキュニと言う声が聞こえて目を覚ませば、目の前にはキュニスケが顔を近づけて、鳴いていた。
「キュニスケ、元気になったの?」
「キュニ!」
キュニスケが、そう鳴くと、エルは立ち上がって、周りを見渡す。
いつの間にか、自分たちは清爽の森に帰って来ていたのだ。
「夢だったのかなぁ。」
と、言ったエルは、キュニスケのそばの紙に気づき、それを見た。
夢ではないぞ
「神は何でもお見通しってかね。」
エルはキュニスケと別れて、家に帰った。
家に帰れば、母と父はどたどたとエルの元へ走ってきた。
「エル!?どこへ行ってたの!!こんな遅くまで!!」
「いつまでたっても帰ってこないから心配したぞ!!」
母と父はエルにそう怒鳴ると、エルは真剣になって、親たちにこう言った。
「ただいま、父さん、母さん、突然だけど話がある。」
夕飯を食べながら、エルはその日起きたことを全て話した。
「いつか来ると思っていたけど。」
母は食事の手を止めた。
父は何も言わずに夕飯のカレーをむしゃむしゃ食べていた。
「うん、明日出発するよ。」
「そんな早くでいいの?」
「善は急げってね。それに、今行かないといけない気がするんだ。」
「でも・・・」
母がそう言いかけた時、カランと音がなった。父がカレーを食べ終え、スプーンを皿に放り投げていた。
「行ってきなさい、エル。お前はお前の信じたいものを信じればいい。」
父はエルに向けてそう言った。
その日はエルはいつもより早く寝ることにした。
そうして翌朝、エルは群青色の長袖シャツの上に半袖の黄緑色のラインが入った黄土色の上着を着ていた。黄緑色の短パンを穿いて、長めのブーツを履いていた。首からは長~いスカーフが二つに分かれて風になびいている。
「お母さんが昔買って着なかった服、よく似合っているわ!」
「着ていないんかい。」
「お父さんが昔付けていたスカーフも、服とよく合っているぞ!」
「これ長くない?」
エル達は、清爽の森から西にある船着き場に来ていた。
「エル?忘れ物はない?お財布は持ったの?」
「大丈夫だよ。」
「準備は出来たか?」
エル達に声をかけていたのは、漁師だった。
「ああ、良さそうだ。お前と知り合っていてよかったよ。」
「共に酒を飲む仲だろ?お安い御用さ。むしろ、カンメルトの英雄様を俺の船に乗せれるなんて、夢の様だよ。」
エルは漁師と共に船に乗る。
漁師は船の帆を広げると、船は動き出した。
母と父は船が見えなくなるまで手を振り続けた。
「エル、うまくやっていけるかしら。」
「やっていけるさ。きっとあいつも連れ帰ってくれるよ。」
「そう。そうよね。きっとエルもあの子もここへ帰ってくるわよね。」
「行先は、南にあるトリノ地方でいいかい?」
「はい、そこでお願いします。」
「おぅけい!」