彼女こそが
小鳥が歌う中、知らない鳴き声も聞こえる朝。
小さな森、清爽の森の中に一つの家があった。
その家では男が新聞を読みながらコーヒーをすすり、キッチンでは女が鼻歌を歌いながらフライパンに向かっていた。フライパンの中にはベーコンの上にたまごが乗ってあった。そばにある3枚の皿のうち二つはたまごが乗ったベーコンがあった。
「あなた、悪いけど、あの子を起こして来てくれないかしら?」
「ああ、わかったよ。」
男は立ち上がると、階段を上がり、廊下の左側の扉にノックをしてから開ける。
男の目に入ったのは布団が膨らんだ一つのベット。ベットに近づくと、男はそのふくらみに
「エル、朝だぞ。」
と、声をかけた。
布団の中から、白髪の少女が顔をだす。
「おはよう。」
と男は言うと、少女は
「おはよう、父さん。」
と返した。
「早く着替えなさい。朝ご飯が出来てるぞ。」
父さんはそう言って部屋から出ていった。
少女は布団からゆっくりと起き上がり、ベットから出た。
グッと背伸びをして、彼女は着替えた。
グレーのシャツに、黒い長ズボン、そしてなぜか白ラインが入った青いヘアバンド。
そう、彼女こそがこの物語の主人公、エル。
『エル・アイリッシュ』である。
と、ここでこの物語と、彼女の説明をしておこう。
この世界は皆さまと別の世界、『想像世界』(想像世界の説明に関しましては、「旧想像世界」を少しだけご覧ください)の一つ、『カンメルト』という世界である。
カンメルトについては、この物語を読んでいくと、だんだんわかっていくと思うので、あえてここで説明を切らせてもらおう。
で、この物語の主人公になる、『エル・アイリッシュ』は、『カンメルト伝説』に登場した『カンメルトの英雄』のうちの一人の力を受け継いでいる少女である。
そのことが原因で親は、
「エル、おはよう。」
「おはよう、母さん。」
・・・・ちょうどエルが階段を下りて下の階に来たようだ。
今、エルに声をかけた女はエルの母親、『エイヌ・マグネイツ』、さっき、エルを起こしに来た父親は『エンス・マグネイツ』である。
もともとリトル街に住んでいたこの二人は、カンメルトの英雄の末裔を生んでしまったため、その子たちを守るために、この『清爽の森』に引っ越して暮らしていた。
さて、ここであなたたちはとある疑問を抱いたであろう。
ずばり、「なぜエルとエルの両親は苗字が違うのか」というものだろう。
お答えしよう。カンメルトは滅亡の危機が迫ると、カンメルトの英雄が8人生まれる。
そのカンメルトの英雄がいざと言う時に見つけられるように、カンメルトの英雄には、その先祖の苗字をつけねばなるまい。要するに、区別を付けられるように、だ。
え?もう一つ疑問抱いた人がいるの?あ、それはまた今度にしてください。
話をそらしてしまったが、まぁ、今はこうやって家族3人で暮らしていたのだ。
そうこう説明している間に、エルが朝食のベーコンエッグを食べ終え、外に行くようだ。
「エル、あまり遠くへ行っては駄目よ。特に森の外の魔物は人を襲うんだからね。」
「はーい。」
あ、そうそう言い忘れていたが、この世界には魔物がちゃんといるから、よろしく。
エルは家の外へ出ると、口笛を吹いた。
すると、奥からは白いフワフワの小さなドラゴンが、キュニキュニと鳴きながらエルの方へ飛んできた。
「キュニスケ、元気?」
「キュニ!」
キュニスケと呼ばれた白いドラゴンはそれにこたえるように鳴いた。
こいつはリトルドラゴン。魔物の一種ではあるが、人を襲うようなドラゴンではなく、清爽の森のみでルンルンと暮らしている珍しいドラゴンだ。まぁ、最初に出してしまったから、皆さんからしたら、珍しさなんて微塵もないとは思うが。
そして、ひょんなことからエルにキュニキュニなついているこのドラゴン、『キュニスケ』は一番エルと仲が良く、よくエルと共にいるのだ。ときには、エルと共に食事をしたりと、家にいれることもある。
ちなみに、『キュニスケ』と呼ばれているが、こいつはメスである。
と、長々と説明している間に、エルがキュニスケが紙をくわえていたのに気づいて、その紙をキュニスケからとっているところだ。
エルは紙を開くと、そこには文字が書いてあった。内容は、どうやらエルにあてて書かれた手紙だった。
エル殿へ
あなたに話したいことがあります。今すぐ神々の首都へ来てください。
神々の首都はそこから北にある神殿からいけます。
怪しげな手紙ではあったが、おバカなエルは何も考えず、神殿に行くことにした。
母に森の外へ出るなと言われているが、エルはそれも忘れて出ていった。