焦熱の蛇女
朝ごはんを食べ終えてエレナとエタンの2人は厨房で皿洗いをしていた。
「ふんふんふん♪あわあわ〜ぶくぶく〜。お皿洗い楽しいですぜ〜♪」
「エタン、ご機嫌だね。」
「はい!トマトリゾットはエタンの好物でしたから!」
にこにことお日様の様な顔で笑うエタン。つられてこちらも笑顔になってしまう。
「……。」
かちゃん。
グランドがやってきて食器をシンクに置いてくれる。
エタンと朝ごはんを食べている途中、使用人である魔族達がぞろぞろと入ってきて、かなりの人数が朝ごはんを食べに来ていたのだ。
「あ、ありがとうございます。グランドさん。」
「…。」
「『気にすんな』って言ってますぜ。」
エタンの言葉を聞いてなんとなく頬が緩んでクスッと口元が綻んだ。
「さーて!エレナさん、まだまだ仕事はありますからね!チャチャッと終わらせちまいましょう!」
「うん、負けないよ〜!」
そこからはエタンと食器洗い対決になった。
ーーー
「はぁ、さすがにあれだけの食器をこなすとスッキリしやすね。」
「そうだね。気持ちいいかも。」
食器洗いの後は使用人棟の廊下の掃除をしていた。使用人棟は魔王城とは別の建物で、外観は長方形の形をしており、いくつもの個人用の部屋が備え付けられている。
「そういえば、どうしてエタンだけボクの正体を知ってるの?」
「ふぇっ!?えと、それは……」
「???」
エタンがしどろもどろになっている。一体どんな理由なのだろう。
ーと、その時。
バキャアァァ!!
と板の様なものがへし折れる音がした。
「あ、エレナさん!ここは危ねぇです!逃げなきゃ!」
「え、何が起こってー、」
「多分、メア様が冒険者を相手にしてるんでごぜぇます!ほら、はやく!」
それでもどうしても気になってしまって窓を覗いてしまう。
そこには冒険者の一行の1人が使用人棟の壁に打ち付けられている様が見て取れた。
「サイモン!サイモン!くそ……っ、くそおおお!!」
「人殺し!」
「サイモンさんの敵……!」
血まみれの仲間を庇うようにして3人の冒険者はキッとそのまま敵を睨みつけた。
睨みつけた先にいるのはーーー
メアだった。
メアは赤い舌をチロチロと出しながらにぃと笑う。
「大丈夫よぉ。すぐにお仲間の所に逝かせてあげる…♡バーベキューと行きましょうか…♡」
そう言って手に持っている長いムチを冒険者達に向けてしならせる。
途端に彼らは一緒くたに縛り上げられてしまった。
「……ひっ!?」
「何をする!離せ!」
彼らの声は、無慈悲な蛇女には届かない。
「逃げちゃダメよ?…フィアンマ・セルペンテ!」
すると冒険者達の足元から赤い赤い火柱が上がる。とぐろを巻いて彼ら共々空をも焦がす。
「うわぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!熱い!熱い!」
「おかあさぁぁぁん!!」
その光景を見て悦にいった蛇女、メアはこう言った。
「美味しいバーベキューになりそうねぇ…♡」
ゾッとした。やはり、自分が居る場所は魔王城なのだと再確認した。
「ひえぇ!メア様が魔法を使ってるなんて!この使用人棟も燃えちまうでごぜぇます!」
「……。」
「エレナさん、はやく!」
「あ、うん…。」
呆然としたまま、使用人棟を抜け出し魔王城へと避難した。
逃げて行く最中、炎が赤く燃える蛇に見えた。
「はぁ、はぁ……。一時的にでごぜぇますが、魔王城なら安心です…。」
「……エタン。」
「はい?」
「こうゆう事って頻繁にあるの?」
「そうですね…なんてったって魔王でごぜぇますからね、魔王様の命を狙う冒険者は多いんでごぜぇます。」
「その度に冒険者を殺してるの?」
「そうしないと、エタン達が殺されちまいます。」
そうか。それはそうだ。魔王を倒すと勇者と讃えられる。その誉れを冒険者ならば誰しもが欲するだろう。だけど。
「?」
エタンが小首を傾げて見つめてくる。もしも、自分が天使だとバレてしまったらこの子にも非難されるのだろうか…。
チクリ、と胸が痛い。この痛みはなんだろう…。
胸の痛みの原因が分からないまま、メアが冒険者達を焼いている姿をただ見ていることしか出来なかった。